二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」

不可視猛毒のバタフライ

INDEX|6ページ/10ページ|

次のページ前のページ
 



 0.456224


 8月15日。
 今日も岡部は漆原さんとのデートに出かけていて、まゆりとダルはコミマに出かけている。私はエアコンなしで熱気が溜まりっぱなしのラボでひとり、ドクペを絶え間なくあおりながらタイムリープマシンを調整している。事情の説明はもちろん受けているけれど、結果的に漆原さんと毎日デートしている岡部は絶対に許さない。絶対にだ。
「リア充なんて氏ねばいい」
 呟きながら空になったドクペのボトルをゴミ箱に投げ込む。どうせ岡部が戻ってくるのは夕方だろうし、休憩してしばらくPCを使わせてもらうことにした。大学から供与されているIDを使って時間に関する研究情報を検索。電子ファイルになっている最新の論文のアブストラクトを流し読みしながらいくつか保存する。
 思いついて、久しぶりに大学のメールボックスのメールもチェックしてみる。この時期は同僚たちもバカンスに出かけているから、スパム以外の読むべきメールはごくわずかしか入っていない。教授から自分が昔学位を得るために書いた論文の閲覧申請が来ていると連絡が来ていたので、許可をお願いした。取材申し込みはまともな学会誌と学内のもの以外は削除する。
 そういえばしばらく忙しくて見てなかったなー、と、すっかり暗記してしまってるURLを入力、リターン。@チャンネルが開く。頻繁に出入りしていたのはあくまで学問・理系の板でニュース板などは主にROMなのだと主張したい。まあ釣りスレを掃除板に立てたり台風が来ればコロッケを買ってくるくらいの教養はあるわけだが。
 専ブラじゃないから探しにくいけれど、ジョン・タイターがここしばらく例のスレに降臨していないのを確認。ついでに鳳凰院凶真も発言していない……そんな余裕ないものね。もし書いてたらVIPに「鳳凰院凶真がリア充過ぎて許せない」とかスレ立ててやろうかと思ったのでちょっと残念。
 ふと思い出して、オカルト板を開いてみる。
 8日12日から同じような悪夢を続けて見ていた。私が岡部の名前を呼ぶことで透明の蝶を飛ばす夢。この夢についてオカ板ならば何か参考になることが上がっているかもと思ったのだけれど、蝶が華麗なる変身やら成長やら恋愛やらを示すことくらいしかわからなかった……オカ板を頼りにしようとした自分が間違っていたと反省する。
 私の携帯が揺れた。漆原さんからのメールだ。

 TITLE: 岡部さんにふられました。
 本文
『もしかしたら、岡部さんの心を変えられるかなと思ったんですけど、やっぱり勝てませんでした』

 ごく短いメールだったけれど、漆原さんがぽろぽろと涙をこぼしているのが見える気がした。
 なのにそれを見てほっとしている自分に気づいてしまう。
 あんな厨二病なんかどうでもいいのに。私は恋愛しか頭にないようなスイーツじゃない。高尚な学問に青春を費やす学究の徒、非リア充を自認してはばからないこの私がなんでこんなことで一々動揺したりほっとしたりするのかな?
 ……その答えだって、本当はわかっている。今日ずっといらいらしてたのだって、そのせいだ。
「でも、どうしよう」
 岡部のことを好きになってしまった。
 でも、岡部はまゆりのことが命をかけるほど好きなのだ。
 確かにこの世界線では、ディストピアという暗い未来が待っているのかもしれない。でも岡部はそんな未来を避けるために動いているわけじゃない。幼馴染のまゆりを救いたいだけであんな無茶を繰り返していて、私はそんな彼の姿に魅かれてしまったけれど、自分の女子力のなさが絶望的なことも知ってる。
「漆原さんでも勝てないものに私が勝てるわけがないよね……」
 間接的に自分も失恋してしまった。告白すらしていないのに。
 しょんぼりしていると、携帯が揺れた。今度は岡部からの通話着信だ。
『紅莉栖か? ルカ子の母の電話番号がわかった。今から読む番号をメモしてくれ』
「……ねえ岡部、漆原さんは大丈夫?」
『大丈夫って何がだ? そんなことよりも電話番号を……』
 自分よりも恋愛にうとい朴念仁とはいえ、女の子をふっておいてそれはひどい。
「そんなことってどういうこと!? 漆原さんを傷つけておいてその態度はないでしょう!?」
『俺が傷つけた? いや、そんな覚えは……』
「ないわけないわよね!」次の言葉は何度も繰り返して見た夢の記憶に引きずられた。「この馬鹿倫太郎!!」
 返事ではなく、岡部の悲鳴が戻ってきた。
 漆原さんの悲鳴と激しい男の声。『お父さん! どうして!!』『お前を泣かせる男はどうしても許せなかったんだ!!』岡部のうめき。私はラボを飛び出した。柳林神社まで息も切れ切れで走ると、漆原さんの父に左肩を日本刀で切り裂かれた岡部の傍に、漆原さんが泣きながらつきそっていた。白衣が赤く染まっている。
 そして、これまでもこんなアクシデントが何度もあって、その度に私は傷ついた岡部をラボまで運んでタイムリープさせていたことが脳裏に蘇り、気づいてしまう。

 ああ。
 私が「倫太郎」と呼んだ瞬間に、透明の蝶が舞うのだ。
作品名:不可視猛毒のバタフライ 作家名:Rowen