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チョコレイト・デイズ

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 朝から降っていた雪はやみ、今は二十センチほど積もっていた。この寒さでは東はずれにある湖も凍ってしまったことだろう。
 豆粒みたいなふくろうが二羽ケンカしながら壁時計に現れ、八時を知らせた。
 スネイプが腕を上げると、二羽はまたバタバタとお互いぶつかりながらスネイプの左腕にとまった。齧っていたリンゴを二羽の前に差し出してやると、争うようについばむ。
「おまえたちはどうして、いつも一緒にやってくる癖して仲良くできないんだろうな」
 ハリーはひたすらスネイプを見ないようにしていたが、ついにここで顔を上げた。
「先生と僕もなんで仲良くできないんでしょうねぇ」
 大きな独り言が飛び出す。今日も五点減点されていた。いつも何十点と減点されているから少なすぎて拍子抜けしてしまったなんて、由々しき事態だ。
 スネイプが無言でパチンと指を鳴らした。
「あーーー!!」
 目の前にあったチョコレートが指音と同時に消えていた。
「随分仲良くしていたはずだがねぇ、ポッター?」
「はい、とっても仲良くさせていただいてました! 先生」
 きょろきょろと周りを見回しながら、ハリーは精一杯機嫌よく言った。チョコレートはやっぱりどこにもない! あぁ、オセロ!!
「今日は満月だな」
 スネイプは夜空を振り仰いで静かに言った。いつの間にか雲間から満月が現れていた。
「今、ルーピン先生はどうしてるんでしょうね?」
 諦めきれずにハリーはまだ周りを見回していた。器を磨く手は止まったままだ。
「私は知らないよ」
「先生とルーピン先生って仲悪いんですか」
 少しして、くくっと笑い声がした。ハリーは驚いて、窓のほうを見ると口にこぶしをあてて笑っているスネイプがいた。初めて笑ったところをみた。髪を風にゆれるにまかせて笑っている姿が月明かりで青く見える。
「随分とはっきり聞くな。見ていてわかっただろうに」
「じゃ、悪いんですか」
 スネイプは顔だけハリーの方に向けた。いまだスネイプの腕に止まっている二羽のふくろうの目が金色に輝いている。
「さあな」
「先生って生徒の質問に答える気あります?」
 スネイプはおもしろそうに片方の唇の端をあげた。
「ないこともない」
「じゃ、答えてくれてもいいじゃないですか」
「授業に関係ないことは答えなくてもいいだろう」
「あのね、先生。知ってますか? 子供は知りたがりなんですよ」
「ふぅん。面倒な」
「ルーピン先生と仲悪かったんですか?」
 スネイプはわずかに肩をすくめて答えた。
「悪そうに見えただろうが、そう悪くもない」
「でも良くも見えませんでしたよ」
「まあな。大人の事情というやつだ」
「あ、でも、ルーピン先生は先生のこと悪く言ってなかった。それをシリウスがとても怒って・・・」
 ハリーはハッと口をつぐんだ。シリウスのことは絶対に言ってはいけないことだ。
 シャリとスネイプがりんごを齧る音がし、
「シリウスか・・・・・・」
 ため息のような声が部屋に流れた。
「リーマスはあの男のところにいるのかもしれないな」
 それは「かもしれない」ではなく、一緒にいると信じているような言い方だった。ハリーは声の主を伺ったが、スネイプはもうハリーを見てはいなかった。腕を揺らして慌てる小さなふくろうたちを見ながら、動揺することもなくリンゴを齧り続けていた。
「シリウスとは仲が悪かった。寮も違ったから余計良くなかった」
 何が楽しいのか、ふくろうをちょんちょんと触りながらスネイプはまた笑った。
 スネイプが笑うなんて明日はどうなってしまうんだろうと思いながら、ハリーはスネイプの顔から目が離せない。
 月明かりのスネイプは・・・なんていうか、熟成した大人としてのスレンダーな体つきが妙に男らしさを醸し出している。自分の二倍以上も年をとっているくせして、癪なことに目が離せない何かがある。
 喉仏も、胸元からのぞくくっきりした鎖骨も、高い位置の腰も、骨ばった指も、筋ばった手首も、すっきり伸びている背筋までもが男らしかった。こんなこと、ずっと気づかなかった。気づこうともしなかった。・・・気づきたくなかった。
「私たちが会えば険悪な雰囲気になるものだから、あの頃からシリウスと仲の良かったリーマスはいつも仲裁役を買って出ていた。会うといっても廊下でたまたますれ違う程度のものだったけどな」
「へぇ。先生ってほんとにルーピン先生たちと同級生だったんだ」
「当たり前だ。ウィーズリーにも言っておいてくれ。私はまだまだ五十には程遠い年齢だとな」
「げっ、先生、聞こえてたの? ・・・って、昨日いないって言ってたじゃないですか」
「ああ。予定が変更になって夕方には戻っていた。スリザリンのテーブルで夕食をとっていた」
 じゃあ。じゃあ、三人揃って「スネイプなんて最悪だ」って叫んでいたのも聞かれているってことだよな。何の感情も見せないスネイプをよそに、ハリーはサーッと頭の血が下がっていく音を聞いた。
 まずい! すっごくまずい。
 何がまずいっ、て先生を嫌いだって言ったことだ。絶対誤解されてる。そんなの嫌だ。
 僕は先生が嫌いじゃない! 


 ・・・え?
 僕は先生が嫌いじゃない?
 最低で、最悪で、陰険な先生が?
 あぁそうなんだ・・・僕は先生が嫌いじゃない。嫌いっていうよりむしろ。


 すっかりハリーのことを忘れたように月に見入っているスネイプの横顔をぼんやり見つめながら、唐突にハリーは気づいてしまった。
 むしろ、好きだということに。
「先生・・・」
 知らず、ハリーは呟いていた。そのかすれた声はリンゴを齧るスネイプに届かない。
 スネイプがちょっと口の両端を引き上げるだけで、随分と雰囲気が変わる。頼れる大人って感じにカッコ良くなるのに。まだ誰も気づいてない。
 悔しいような嬉しいような。じれったいような、優越感にひたれるような・・・。
 きっと僕だけが知っている。
 スネイプが腕にいたふくろうを解き放つ。ばさばさと音を立てて、来たとき同様ケンカしながら小さなふくろうたちは飛び去った。
 ハリーは俯き、唇をぎゅっと噛み締めた。
 僕だけが知っている、僕だけの心。きっと先生は気づかない。


 器磨きがラスト七個を数えた月曜日。
 ハリーの会いたくて会いたくて会いたかったスネイプ先生は、授業に遅れてきた上に「自習だ」と一言言い残し急ぎ足で教室から去った。万歳三唱もそこそこに、グリフィンドール生はここぞとばかりに相変わらずどっさり出ている宿題に取り組み始める。
「ハリー、いい加減マクゴナガルのレポートを完成させなきゃまずいぜ。明後日提出だろ? ちなみに俺は二十五センチが限界だ」
「僕は自慢じゃないけど、まだ二十センチ」
 二人は涼しい顔をして、『薬草大辞典』を読んでいるハーマイオニーを見つめた。ハーマイオニーは誰よりもたくさんの授業を選択しているのに、誰よりも宿題が片付いていた。片付いていないものがないともいう。
「マクゴナガルも俺たちに五十センチのレポートは無理だとそろそろ気づいてもいいころだよな」
「片付いてるのはハーマイオニーくらいだよ。ネビルも四十センチで泣きそうだったもん」
作品名:チョコレイト・デイズ 作家名:かける