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チョコレイト・デイズ

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 これ以上はまずいとわずかに残った理性が反応しかけている身体に訴えていた。大人の身体は不自由なもので、欲しいと思う気持ちが如実に現れる。こんな子供に無体なことはできないと頭でわかっていても、快感を知る身体が不満を訴え承知をしない。
 ハリーの背中をゆっくり撫でながら、スネイプは何度も大きく息をして身体を駆け巡る熱を無理矢理に抑え込んだ。腕の中の子供は貞操の危機にあることに気づくことなく、安心しきって身体を預けている。
 ギュッとスネイプを抱きしめ「先生」とハリーが言った。
「先生、先生」
 何を言ったらいいのかわからないかのように何度も呼ぶ声が必死で、心の底からスネイプをたまらない気持ちにさせた。
 火のような熱い息を吐きながら、「怖いか」とスネイプは言った。
 柔らかな背中を撫で、耳に触れるか触れないか程度の軽いキスをする。
 肩にある子供の頭が横に振られるのを幸せに感じながら、もう一度「怖いか」と言った。
「怖いわけない」
 ハリーは身体のどこからこんなに人を好きになる気持ちが溢れてくるのだろうとコントロールできない気持ちに涙声になるのを抑えられなかった。切なさが涙を流させるのか、涙が切なさをよぶのか。
「好きだよ、先生。大好きだ」
 うわ言のように何度も繰り返した。胸の中にある思いは風船のように膨れるばかりで、ちっ息してしまいそうだ。言葉にしなければ苦しくて息もできない。
「先生、好き。好き」
「ああ、わかってる」
 小さな頭を愛しげに撫でながらスネイプは「わかってる」と言って目を閉じた。
 回された腕と首筋にかかる温かな吐息が久しく感じていなかった幸福感をスネイプにもたらしていた。
 苦しかった。苦しいことが嬉しかった。愛しさは甘い痛みだった。だから、愛という言葉と決別した自分を動かした小さな子供に訴えずにはいられなかった。
「覚えておいてくれ」
 胸を占領する熱を細く長いため息にのせて少しずつ逃がす。
 遠い昔、自分を一人残していなくなった男のことを思った。あの日から首の鎖はいつも冷たかった。
「忘れないでくれ。大人は怖がりだということを」
 愛という名の闘いに疲れ果てた自分が懲りもせずに同じ道を歩みだしたことは、多大な幸福と引き換えに、これからまた絶え間ない苦しみがひそやかに始まることを意味した。
 本当に怖いんだ、と胸の内だけで呟いて、スネイプはハリーの柔らかな身体を恐々と抱きしめる。
 無言で目を閉じていると乱れた自分の息遣いが聞こえた。肩の力を抜くようにひとつゆっくりと息を吐く。
 腕に感じる温かさと膝の確かな重みが少しづつスネイプに落ち着きを取り戻させていった。
 ハリーを抱いたまま、ゆっくりとソファに横たわる。クッションに頭を預け、天井を見据えた。
 この子供はまだ愛を知らない。好きだと感じる気持ちの重さに耐えきれず、その苦しみを口走っているだけだ。
 しかし、それもいい。こんな私を好きだという奇跡のような気持ちに感謝する。この暗い人生の中に一筋の光となった子供に感謝する。
 私は心を決めた。覚悟もした。大人が怖がってばかりでは子供も困るだろうから。
 スネイプは自分の心が確かな意志で固まっていくのを感じた。昔々感じた気持ちとはまた違っているのがこの「新しい始まり」なのだ。
 心の中でハリーに語りかけた。
 私はいつでも静かに、いつでも余裕で、いつでも変わらずにいる努力をする。だから、いつでも安心していていい。不安はすべて私が引き受ける。喜んですべてを引き受けるから、いつまでもその瞳を汚さないように生きて欲しい。
 ふっと息を吐いて、手の平に感じるつややかな髪をぐしゃぐしゃとかき乱した。愛しくて抱きつぶしそうになるのをごまかした動きだった。
「あんなことするなんて」
 小さな声が耳元で聞こえた。ちょっと掠れた、意識のはっきりしない声だ。
「何が」
「キ、キス」
 恥ずかしそうな声が微笑ましい。言葉にするだけで首筋を真っ赤にさせる。愛しいと思うと際限なく心が浮つく。自分の悪い癖だ。
 思わず苦笑いが浮かぶ。そんな気持ちを振り払うように、勢いよく起き上がった。いつもの口調をこころがける。
「気持ち良かったろ?」
「知らない」
「またしような」
 頭のてっぺんに一つキスをした。
 それから小さく呟いて、空中でシャンパンをグラスにつぐ。人さし指で手招きするとグラスは明らかにしぶしぶといった様子で、ふわふわ飛び、スネイプの右手に収まった。今後は機嫌が直るまで飲み物を注がせてくれないだろう。
 口に含み、ゆっくりと嚥下する。たまには甘口もいいと思うくらいにはシャンパンものどごしが良く、美味しく感じた。
 その初めての感覚は膝に感じる愛しい重みのせいかもしれなかった。
「せんせ、僕も」
 スネイプは黙ってグラスを煽ると、今度は嚥下せずハリーの口の中に中身を移した。離れ間際に柔らかな唇を舐めると「ん、」と鼻から声を出す子供に、またしても怪しげな体の高ぶりを感じずにはいられず、困ったことになったと心の中で苦笑した。こんなにも簡単にその気になるとは。
 それを知ってか知らずか、ハリーはスネイプの首に両腕を回し、「せんせい」と甘えた声を出した。
「なんだ」
「せんせい、好き」
「そりゃどうも」
 そっけないと思いながら、スネイプはそんな言葉を返した。膝の上の子供はやたらと素直に告白してくる。これ以上いったいどうしろと。
「せんせい、僕のこと、好き?」
 少しの沈黙の後、「さぁな」とスネイプは答えた。自分の年の半分にも満たない子供に好きだというのは大人として悔しい。妙な意地を張っていると思いながら無言で柔らかな背中を撫でた。大人とは不便だなと思う。
「いいんだ、僕。僕が先生のことを好きだから。それに先生だって僕のことちょっとは好きかなって思えたんだ」
 頬をスネイプの肩にくっつけて、ハリーは幸せそうに笑った。実際、笑った拍子に首筋に感じた吐息はスネイプをも幸せにしたのだった。思わずぎゅっと一回強く抱きしめてからスネイプは言った。
「そろそろ、寮に帰れ」
「え、」
「とっくに十一時を過ぎてるんだ」
 ハリーが驚いて、時計を見ると確かに十一時を三十分も過ぎていた。ちょうどの時間にやってくるふくろうたちに気づきもしなかった。
「もう、こんな時間」
「ああ」
 そっとハリーを立たせると、スネイプはハリーのわずかな服の乱れを整えた。黒髪を撫で付け、目じりの涙の跡に指を這わせてちょっと乱暴にこすった。
「目が赤い」
「先生が泣かしたんだ」
「人聞きの悪い」
 肩を抱き、戸口に促す。ハリーはぴっとりとくっついて歩いた。少しでもどこかに触っていたいという気持ちは初めてだった。
「先生、また来てもいい?」
「この部屋が見つけられたらな」
「そんなこと言って。意地悪だ」
「知ってるだろ」
 扉の前に来ると、後ろから腕を回してハリーの顔を上げさせた。覆いかぶさるようにしてキスをする。柔らかな唇は甘く、抵抗を知らない。
「先生って、僕のことすごく好きでしょう」
 赤く熟れた唇で、子供がとても嬉しそうに笑ったので、スネイプも少し笑った。それはわずかに唇の端を持ち上げるようなものだったが、ハリーには十分だった。
作品名:チョコレイト・デイズ 作家名:かける