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チョコレイト・デイズ

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 マシじゃない? やっぱマシか? ・・・その程度で・・・・・・つまり、嫌いなことに変わりはない。それは変わりない。大嫌いが嫌いくらいにはなったという話だ。
 むぅっとハリーは顔をしかめた。なんだか言い訳じみている。
 それから、曖昧に笑って「僕も宿題しなくちゃ」とハリーは教科書を取りに席を立った。
 ロンとハーマイオニーはハリーの奇妙な沈黙に顔を見合わせたが何も言わなかった。ハリーが話したがらないのは思い返したくもないのだろうし、あのスネイプに嫌味を言われ続けたか不愉快な話をされ続けたのだとしたら話したくないのも当然だと思った。
 かくいう二人も十分嫌な目にあっていたが、ハリーほどではないと胸を張って言えたから、そっとしておくことに不満はない。たとえ、ロンが靴の上から首振り草に噛み付かれて小指を包帯でぐるぐる巻きにしていても、ハーマイオニーが散々マルフォイたちに笑われ、わざと廊下にゴミを撒き散らされていたとしても、きっとスネイプと二人三時間も一緒の部屋にいるよりマシだと迷うことなく言い切れた。
 それからの三人は黙々と宿題をやり続けた。ハリーは占い学の「来月一ヶ月の未来占い」をでっちあげるのに忙しく、ロンは変身学ドリルに四苦八苦し、ハーマイオニーは数占いの膨大な計算式を紙に書きなぐりながら長々と計算に没頭した。
 ハーマイオニーが計算式を解くのに八枚目の羊皮紙を使い始めたとき、ロンが隣で胡乱な目つきで言った。
「数占いってそんなに計算することがあるの?」
「これでもまだまだよ。少なくとも全部で十三枚の紙を使うって先生おっしゃってたわ」
 ハーマイオニーは顔も上げずに計算を続けた。
 もともと集中力がないも同然のロンはとっくの昔に宿題に飽きて、羽ペンを両耳に挟み、「パパによるとインディアンってのがいるらしい」と力説していたが、ハリーが「朝起きたら靴下が一つ消え、探していたら魔法薬学に遅刻する」と書いたのを見て、「それは悲惨だな」と同情したように呟いた。
「ちょっとハリー、こんな占いってありなの?」
 インディアンうんぬんは綺麗さっぱり無視していたが、ロンの呟きに誘われて顔を上げたハーマイオニーは呆れたようにハリーを見た。ロンはハリーが口を開くより早く敢然と抗議を開始した。
「何言ってんだ。こんな悲劇的なことがあるか? 魔法薬学に遅れるんだぜ? スネイプのことを考えてみろよ。この日・・・えーと」
 ロンはハリーの手元を覗き込んだ。
「二十八日は一日、気分は最悪、体調まで悪くなりそうだろ? 俺なんか考えるだけで・・・見ろ、この鳥肌だ。トレローニーの大好きな悲惨な未来の中でも特大の占いだぜ」
 正真正銘鳥肌がたったロンの腕をチラリと見て、ハーマイオニーは言った。
「あなたたちはともかく、トレローニー先生がスネイプの授業に遅れるくらいで悲惨だと思うかどうかは疑わしいわね」
「・・・・・・それもそうだな。ハリー、どうする」
 ロンは腕まくりを直しながら言った。
「もう面倒くさいからこれでいいよ。来月も僕は昼食を三回食いっぱぐれて、二回足をくじくし、五回も朝寝坊して、挙句の果てには校庭を走ってこけるし、思い切ってニンバスまでなくしちゃうんだ」
「うわっ、それはやめた方がいいんじゃない?」
 ロンがいくらなんでも・・・と肩をすくめた。
「どうせでっちあげなんだ。大したことじゃない。それより僕は明日からもスネイプの部屋に行かなきゃならないんだよ」
「えっ!!」
 ロンとハーマイオニーは二人一緒に叫んだ。周りの寮生たちが何事かと振り向いたのに、「なんでもない」と三人は手を振って、ロンとハーマイオニーはできる限り小声でハリーに詰め寄った。
「どうして?」
「なぜよ?」
「銀の器、あと八十七個も残ってるんだ」
 ハリーはノートを片付けながらうんざりしたように言った。
「一週間はあのスネイプと二人っきりさ」
 それは・・・と言ったきり、ロンは絶句してしまった。耳からポロリと羽ペンが落ちた。ハーマイオニーも九枚目の計算用紙に大きなインクのしみをつけたまま手が止まっている。
「そういうわけなんだ。もう僕寝るよ。おやすみ」
 ちょうど時計が十二時を知らせたところだった。ボーン、ボーンとくぐもったような音が十二回鳴る。談話室にはあと数人しか残っていなかった。
 鳴り続ける時計の音を聞きながら、ハリーはスネイプの部屋に今度はどんなふくろうがやって来たんだろうとふと考えた。



 今日の魔法薬学での出来事で、誰もがハリーとスネイプの間に親近感がわくことは一生ないと決定的に思ったし、つかの間に終わったがスリザリンは大喜びだった。こういうときに限ってスリザリンとの合同授業なんて陰謀としか思えない。
 生きたままのトカゲから「トカゲの日干し」を作る授業は、ハリーがトカゲを逃がしたところから、一気に険悪な雰囲気を加速させる。
 手から飛び出したトカゲが教室内を見回っていたスネイプの顔に運悪く張り付いたのだ。ネビルは恐怖のあまり椅子ごと後ろに倒れ、ハーマイオニーでさえ小さく悲鳴を上げた。
 ポッター、と地を這うような声が教室に響いた。ハリーじゃなくても首をすくめるほどの不機嫌さだ。無理もない。
「何のマネだ?」
 ハリーの目の端でマルフォイが声を殺して嘲るように笑っていた。クラッブとゴイルも愚鈍な顔をして笑っていた。まるでダーズリーの家の居間にある出来損ないの土人形みたいだ。腹立つ!
「わざとじゃありません」
 こんなときにさえ、スネイプには心底嫌そうに答えてしまう。自分が悪いと思っていても、悪いと思っているのか疑わしい嫌そうな口調になってしまうのをどうしても止められなかった。謝ることもできない。
「ふん。どうだか」
 スネイプはどの生徒に対しても、とりわけグリフィンドール生に厳しかったが、ハリーにはことさら厳しく、ハリーの父親の件があるとしても大人気なかった。
 ハリーは唇を噛んで、そっぽを向いた。何を言っても無駄だと思った。スリザリンの・・・マルフォイの期待を裏切ることなく、スネイプは二十点ばかりの減点と罰を口にするだろう。好きにすればいいんだ。いい加減、もうどうでも良かった。
 窓の外にはキンと音がするような冬の真っ青な空が広がっている。僕もヘドウィグみたいに空が飛べたらなぁ。こんな場所からすぐに出て行くのに。
 睨みつけていたスネイプはふいっとハリーから目を逸らし、背を向けた。
「教壇の上にあと数匹トカゲがいる。はやく日干しをつくれ」
 隣でロンが「えっ」と小さく声を漏らした。ネビルは飛び出そうな目をして口を押さえ、ハーマイオニーはそんなネビルの椅子を今度こそ後ろに倒れないよう押さえていた。
「ハリー、ハリー、助かったな!!」
 ロンが興奮してがくがくとハリーを揺さぶった。
「やめなさいよ。スネイプに見つかるわ。それこそ台無しになるから」
 ハーマイオニーは心底驚きながらも、無理に声を抑えて冷静に言った。
「スネイプったらどうしたんだ? 明日は嵐だぞ。もしかしたらクジラが歩くかもしれない、なぁネビル?」
 興奮で顔を赤くしているネビルは何度も大きく頷いた。こんなのスネイプじゃない!
作品名:チョコレイト・デイズ 作家名:かける