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チョコレイト・デイズ

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「そんなわけないでしょ。バカなこと言わないで」
「だってさ!! あのスネイプだぜ? あんなことされて減点もせずに終わらすなんて普通じゃ考えられない。これは夢か?」
 ネビルの両頬をつねるロンは完全に舞い上がり、ハリーはバカみたいに口をあけて呆然としていた。・・・こんなこと、ありえない。
「ハリー、トカゲを取りに行ったほうがいいわ。スネイプの気が変わらないうちに」
 せかすようにハーマイオニーがハリーの背中を押した。
「あ、うん。そうだね」
 慌ててハリーは立ち上がり、スネイプが待つ教壇に近づいた。教室のそこかしこでひそひそとした話し声が聞こえていた。
 トカゲを取り上げる間、スネイプはハリーの手元をジッと見ていたが何も言わなかった。その後、ハリーはもちろん、ロンもウズウズしながらも話すのをやめ、日干し作りに無理矢理没頭した。
 ハーマイオニーが「騒ぐのをやめないと張り倒すわよ。あなたのそのうるさい声でハリーを退学させる気ならご勝手に」と厳しく言ったからでもあり、あまりのロンの興奮にネビルがほっぺたをひっぱられることを抗議したからでもある。
 マルフォイが苦虫を噛み潰したような顔をしているのを見て、ハリーはスッと気分が良くなった。
 誰もが狐につままれたような気分を味わいながら、スネイプの一睨みで魔法薬学の授業は恐ろしいほど静まり返ったまま終了をむかえた。



 なぜか三階で見つけたスネイプの部屋の扉を前に、ハリーはノックができず二十分も突っ立っていた。トカゲのこともあり、気まずいことこの上ない。何もスネイプの顔に張り付かなくてもさぁ。
「はぁ」
 この扉を入ったら三時間はスネイプと二人きりだ。扉の「スネイプ」という金文字を見つめながら、ハリーが何回目かのため息をつきかけたそのとき、ゆっくりと扉が内側から開いた。
「いつになったら入ってくるつもりだ?」
 マントをまとっていないスネイプを見るのはこの冬初めてだった。相変わらず黒一色だったが、一目で高価と知れる肌触りの良さそうなブラウスをゆったりと着て、くつろげた胸元から銀色の細いネックレスが覗いている。袖口を折り返した手首はなめらかに骨と筋が浮きあがっていた。
「五十五個も磨かなきゃならないのだろう。ここのところ進み具合が悪い。昨日なんかたった五個だった。一週間で終わらなくても私は知らない」
「終わらせます」
 ハリーはスネイプの何を考えているのかわからない真っ黒な瞳を見つめて答えた。やっぱり嫌そうになった。一週間以上もスネイプなんかと一緒にいてたまるか! と思いはしても、認めたくはないが残りの数を考えると一週間で終わらすのは困難な状況だ。
 スネイプはふんっと相変わらず嫌味に笑うとハリーのために体をずらした。前をささっと通り、床のクッションに座って、銀の器を取り上げた。チラッと時計に目をやると針は七時半を過ぎていた。扉の前に立っていた時間を差し引いても、三十分はスネイプの部屋を探していたことになる。まったくこの部屋はどうなってるんだ、扉を探すだけでも一苦労なんて。
 スネイプは書棚の前で魔法書を開いていた。黒いパンツの足は背が高いだけあって長く、すらりと細い。羽ペンを持った手で髪を耳にかけるがかけきれなかった髪が顔にかかり、スネイプはうるさそうに髪を掻き上げた。
 ハリーはその様子をぼんやり見ながら思った。スネイプの話し方はこの部屋にいるときと授業とでは全然違う、と。授業の時のような嫌味に嫌味がまぶされた嫌味ったらしい言い方ではない。嫌味には違いないけど、少々からかい気味だ。子供扱いと知れる馬鹿にした言い方なのに、ハリーの気分を損ないはしなかった。
「早く磨けよ」
 本に目を落としたまま、スネイプが言った。
「わ、わかってます」
 ハリーは慌ててこしこしやり出しながら、そっとスネイプを伺った。スネイプは魔法書に何かを書き込み、ぽいっと放り投げたところだった。本はそのままふわふわと漂って元あった場所に収まる。
「何か言いたいことがあるのか」
 椅子に腰掛けたスネイプはデスクに向かい、紙になにやら書き出した。ハリーを見ようともしない。
 そうだ、スネイプにも奇跡的にたった一つだけいいところがあるとハリーは思い当たった。気づきたくはなかったけど気づいてしまった。
 声。声だけはいいから困る。低音で、ちょっとくぐもっているのに、艶があってよく通る。
 前はあんなに嫌味ったらしい雑音だったのに、そう認識してしまうと話しかけられてドキリとした。本当に心臓がトトンッと波打った。そのまま心臓はハリーを残して走り出す。うるさいくらいに胸が音を立てた。
「ありません!」
 勢い込んで答えたハリーに、チラリと目をやったスネイプは「ああ」と納得したように頷いて、パチンと指を鳴らした。
 真っ白なポットと角砂糖の入ったカップ、一口チョコレートが数個のった小皿がハリーの前に現れた。チョコレートの隅に小さく四葉のクローバーの模様がある。
「オセロ!!」
 思わずハリーは叫んだ。誰もが知っている最高級品だ。めったなことでは子供の口には入らない。
「リア・オセロ」は有名な老舗チョコレート専門店で、たいてい人に贈るときや、人をもてなすときに大人が奮発して買う。一個の値段がカエルチョコ一袋の四倍もした。自分のために買うには高価すぎる。ピカピカのショーケースに並んだチョコレートは形も様々、味も色々だったが、どれを選んでも美味しいことに変わりはなかった。
 そのチョコレートがどうして、自分の前に出てくるのかハリーにはさっぱりわからなかったが、得した! と興奮したのは否定できない。
「これっ! これって、オセロ! 先生、これっ、オセロでしょうっ?」
 上気した顔を上げたハリーは口元にこぶしをあてて、笑うのをこらえたようなスネイプの顔にぽかんと口を開けた。なに、これ。スネイプって、スネイプって・・・。
「気に入ったのか?」
「気に入ったのか・・・って。一度しか食べたことない。先生はいつも食べてるの・・・ですか」
「いや」
 スネイプはパチンと指を鳴らした。皿のチョコレートが一つ消えたかと思うと、次の瞬間にはスネイプの指に挟まれていた。
「こういう甘いものは性にあわん」
 そう言いながらチョコレートを口に放り込んだ。それを見て、ハリーも急いで一粒口に放り込む。トロリとした控えめな甘さが口に広がり、思わず口元が緩む。
 ミルクと最高級クリームをたっぷり使って、ほんのりミント味に仕上げてあるのは「リア・オセロ」の看板商品「サマードリーム」。名前の通り昔は夏限定の販売だったらしいが、リクエストが多すぎて一年中販売するようになったそうだ。それでも一日数十個しか作らないからすぐに売り切れる。まさに「夏の夜の夢」のごとく、夢でしか会えないような幻のチョコレートだということは誰でも知っているし、ハリーだって知っている。昔はホグワーツの夏期休暇中にしか売らないチョコレートのためにわざわざ帰省を遅らせる生徒までいたと言う話だ。
「あと五十五個。まけてやるつもりはない。早く磨かないと本当に一週間で終わらないぞ」
「はい」
作品名:チョコレイト・デイズ 作家名:かける