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謝肉祭 ~後日譚~

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 絶妙のタイミングでアルフレッドが突っ込みを入れる。
「ははは!何をカッコつけてるんだい、アーサー」
「カッコつけてる訳じゃねーよ!お前は黙ってろ」
 ムッとした表情でそう言い返す。その瞬間、アルフレッドも表情を変えた。
「カッコつけてるからカッコつけてるって言ったんだ、何が悪いんだい?!」
「うるせぇ!」
「そんな言い方ないだろ、アーサー!」
「何を!?」
「ま、待ってください、お二人とも!誤解ですってば!私のためにケンカしないでください」
 おろおろする菊をよそに、二人は今にも取っ組み合いを始めそうな雰囲気になったが、そこにルートヴィッヒが割って入った。
「何をやってるんだふたりとも!ここはフェリシアーノの家だぞ、やるなら外でやってくれ」
 フェリシアーノの事から話題がそれたのに安心したのか、ルートヴィッヒはいつもの表情に戻っていた。腕にはまだフェリシアーノを抱きしめたままだ。
「そうだよ~、今日はせっかくのパレードなんだからさあ、みんな仲良くしようよ、ねっ?」
 表情からして緩みきったフェリシアーノの、更にゆる~い一言をきっかけに、またしてもそちらに全員の視線が集まる。
「え、何?みんなどうしたの?」
 ルートヴィッヒの顔は強張り、フェリシアーノはきょとんとした顔をしている。
「元はと言えば、お前らがだなあ……」とアーサー。
 だが、言いかけてふっと溜息をつくと、急に表情を和らげた。
「いや……何でもねぇ。そうだな、今日はパレードだったな。俺たちもその為にわざわざヴェネツィアまで来たんだったな」
「ええ、そうですよ、アーサーさん」菊は、にこやかに答えた。
 ほんの一瞬二人の間に交わされた視線は何を物語っていたのか。
 アルフレッドはちらりとアーサーに視線をやったが、彼にしては珍しく何も言わなかった。その事にはあえて気が付かない振りをすることにしたのだろう。菊やアーサーに対して、それについて何か問いただす様な事は後々までついになかった。
「今日は楽しい謝肉祭のカーニヴァルなんだ。何もこんな日にいがみ合うことはねぇ」
 アーサーはそう言うと、ルートヴィッヒの方を見てにやりと笑った。
「お前も思った程、ヘタレじゃない事が分かったしな」
「何だと?!」
 その一言に噛みついたルートヴィッヒをフェリシアーノが慌てて止めた。
「止めてよ、ルートぉ~!今日はお祭りなんだよ~」
「う……うむ、そうだったな」
 ルートヴィッヒはフェリシアーノの泣きそうな表情を見て、辛うじて思いとどまったらしい。アーサーの方も満足したらしく、アルフレッドの腕を取った。
「行くぞ、アル!」
「行くって、どこへ……?」
 キョトンとした表情をしたアルフレッドに、
「パレードを見にだよ、俺たちはヴェネツィアへ観光に来たんだろ?カーニヴァルの見物に来たんだ」
「あ?……ああ、そう言われればそうだったね。
 そうだ、ねぇ菊!」
 アルフレッドは急に菊の方を振り向いた。
「何ですか、アルフレッドさん?」
「この賭けは君の負けなんだぞ、菊。忘れないでくれよ!」
「はは…その件でしたか」
 菊は晴れ晴れとした笑顔を見せた。
「忘れてはいませんよ。ではまた後ほどパレードの会場でお会いしましょう。賭のお支払いはその時にでも」
「賭け…?賭けって何の事?」
 無邪気に訪ねるフェリシアーノに菊はにっこり笑ってみせた。
「何でもありませんよ、フェリシアーノ君。気にしないでください。
 パレード楽しみにしていますよ」

 せっかく来たのだからお茶を飲んで行くようにと慇懃に勧めるローデリヒの誘いをあっさり断って、楽しげに遠ざかって行く二人の姿を見送りながら、ローデリヒはふと菊に問いかけた。
「本田さん、先ほどの賭けとは何のことです?」
 菊は一瞬驚いたようにローデリヒの顔を見たが、またいつものように不思議な微笑を浮かべてこう答えた。
「……ローデリヒさん、あなたはご存じないのでしたね。よければまた後程、ルートヴィッヒさん達のいないところで、ゆっくりとご説明いたしましょう」
「彼に関係のあることなんですね?」
「ええ、あの方とフェリシアーノ君の二人にですよ」
 その時、少し離れて立っていたルートヴィッヒが急に振り向いた。
「おい、何か言ったか?」
「いいえ、何でもありませんよ」
 ローデリヒはほんの一瞬、人の悪そうな笑みをちらりと浮かべたが、すぐにそれを消してそう答えた。
「ああ、それならいいが──」
 そう言いかけたルートヴィッヒに向かって、フェリシアーノがいきなりまた走り寄って来た。
「ねぇ、ルート!ルートぉ~!」
 甘えるように腕を取り、少しすねた様な声を出す。
「ああ、分かった、分かった、今行くから待ってろ!」
「うん、早くだよ!待ってるからね!」
 ルートヴィッヒは口では面倒臭そうに答えたものの、顔にはまんざらでもなさそうな笑みを浮かべて、走り去るフェリシアーノを見ている。おそらく自分では気が付いていないのだろうが……。
「実は今朝エリザベータから言われて気が付いたんですが、彼は……なんだか変わりましたね」
「ええ、私もそう思いますよ、ローデリヒさん」
「賭けって言うのは、その事に関係があるのでしょう、本田さん?」
 口元には笑みを浮かべていたが、紫の瞳に射抜くような光を浮かべてローデリヒは菊を見つめた。
「……まあ、そうも言えますね」
 菊があいまいに答えながら、お得意の微笑を浮かべていると、フランシスから声が掛かった。
「なあ菊、俺達もそろそろ行かないか?」
「ええ、そうですね」
 振り向いてそうそう答えると、菊はローデリヒに別れを告げた。
「あなた方も、お茶も飲まずに帰るんですか?」
「彼を放っておくわけにもいきませんからね」
 菊は困ったような顔をしていたが、ほんのわずか嬉しそうな表情を浮かべたのをローデリヒは見逃さなかった。
「……そうですか。それではこれ以上お引止めは致しません」
「あなた方もパレード会場に?」
「ええ、せっかくのフェリシアーノの晴れ姿を見てやらなければいけませんから。エリザベータと一緒に見に行きますよ」
「そうでしたね、それではまた後程あちらで」
 そう言って菊が辞去しようとすると、すれ違いざまローデリヒが囁いた。
「……どうぞお幸せに、本田さん」
「待ってください。さっきも申しあげたように、彼の事なら誤解だと──」
 驚く菊に向かってローデリヒは、
「大丈夫ですよ、他の人に言ったりはしませんから。
 ……ただ昔からああいうヤツですからね、彼は。あなたが苦労なさらないといいですが」
「はは、苦労には慣れていますよ。こう見えて私、けっこう長く生きていますから」
「ああ、そう言えばそうでしたね。あなたはお若く見えるから、うっかりすると、その事を忘れてしまいそうになります」
 ローデリヒの言葉に笑みを漏らすと、菊は答えた。
「あなたの大切な方は、美しくてしっかりした方でお羨ましい」
「しっかりし過ぎていて、時々参りますが」
作品名:謝肉祭 ~後日譚~ 作家名:maki