二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」

【腐向け】Maybe,it will be alright.

INDEX|2ページ/3ページ|

次のページ前のページ
 

つの間にか来てしまっている気がした。振り返っても見覚えのある道は見あたらない。けれど、目の前には知樹がいた。
この先どうなるか分からない。見失ってしまったかつての道の方が良かったと後悔するかもしれないのに、このまま知
樹の前から去ることは出来そうになかった。もし離れてしまったら、彼を見離すことになると考えるとつらかった。陳腐
な庇護欲。それが知樹にとって必要なのかと聞かれても、きっと答えられない。生きていく上で圭の存在が、知樹に
とってどんなものなのか知ることが怖くて、出来ず仕舞いのままだった。
「・・・・っはは、そっか、分かってたんだね。・・・もうそろそろかなとは思っていたんだけど」
暫くの温い沈黙の後、知樹が寂しげに僅かに瞼を落として微笑む。圭は知樹のこの寂しげな笑顔が苦手だった。
見ているのがつらい。今も思わず目を逸らしてしまっているが、この顔をさせたのは他でもない自分だ。自分の立
場が憎らしくなって、何度目かの歯噛みをする。
「ああ、いいんだよ、大丈夫。・・・俺は、圭さんになら捕まってもいいと思ってる。だからさ、・・・・そんなつらそうな顔、
しないで。ね?」
証拠も、証言も、そしてそれを時系列通りに実行できる人物であるという点でも、知樹には悔しいくらいぶれている
ところがなかった。知樹は母親の殺人に関与した人物を殺した。何人にも渡って。幼い頃から1人で背負ってきた
残酷な運命と、それを受け止めきれなかったが故の罪が、これからずっと知樹にはついて纏うのだ。悔しさでしかめた
顔を上げると、知樹が仄明るい月の光に照されて、笑っていた。目の前の変わらない明るい笑顔の下に、圭はずっと
寂しくて、やりきれずに1人膝を折っている今より幼い頃の知樹を見つけたような気がした。もっと早くに出会って
いれば、知樹がこんな運命を背負わずにいられる、もしもの世界があればと、叶うはずのない願いは絶え間なく溢れ
てゆく。永遠に水を注がれるグラスのように。
「・・・・だからさ、圭さん。今すぐ俺を捕まえてよ。ほら」
「・・・・・ッッ」
思わず息を呑む。たじろぐ圭を余所に、知樹は真っ直ぐに圭を見つめて、拳を作った両手をぴったりくっつけて
差し出した。自ら手錠を嵌めさせようとしているのだ。知樹のころころと変わる表情は見ていて飽きない反面、何を
考えているのか分からなくさせる。弄ばれているのではないかと考えてしまう。ここでふとトキヤは我に返って、ああ、
でもそれでいいのかもしれない。それが知樹と共に行くということで、何より仮に、知樹のような境遇に音也が置かれ
ていたら、きっと自分もそう結論を出す。台本通りならばこの後、言われるがままに知樹に手錠をかける。けれど、圭
は―――いや、トキヤはそうしなかった。音也には悪いが、これが与えられた圭という役として、そしてそれを演じる
トキヤとして一番だと思える選択だった。
「・・・圭さん?」
「・・・・・・逃げよう、このまま。・・・もういらないな、これも、これも」
呆気に取られている知樹の前で、圭はコートに入っていた通信機と携帯電話を躊躇いなく折ったり踏みつけたりして
壊した。ただの機械の破片にまでなった所で、静かに凪ぐ海の中に蹴って捨てる。
「っだ、ダメだって・・・!!圭さんまで俺と同じところまで来る必要ないよ!」
「バカなこと言うな!!・・・必要があるとかないとかなんて関係ない。俺が・・・・俺がお前と、居たい。見離せないだけ」
2つの声が真夜中の海辺の空気を割って響く。知樹―――ではなく、音也は台本と異なるこの展開に最初は焦ったも
のの、不思議とトキヤのアドリブに上手く乗れていたようで、監督からも撮影中断の声は上がらないままカメラは回り続
けていた。圭は自身の身分証明を出来る物を全て捨てた。ならば、ここは知樹として、そして音也としてどう答えるべき
か。答えはもう出ていた。一つ息をついて、知樹―――、音也は吐き出す。
「・・・・ありがとう、圭さん。ずっと、一緒に・・・いこう。俺も覚悟ができた」
圭がしたように、知樹も携帯電話や、身分証明が出来るものを全て捨てる。そして、空っぽになった手のひらで互いの
温もりだけを抱えて走り出した。行き先不定の逃避行は、まだ始まったばかりだった。”






迂闊だった。撮影終了後、トキヤは1人後悔していた。終わってしまったものは仕方ないし、何よりスタッフや監督が
満足していたので撮り直しは無理そうである。台本通りではなかったものの、元の展開よりも面白く、トキヤと音也の
演技も良かったとのことだった。認められて悪い気はしない。この世界は結局のところ面白いもの勝ちだ。でなければ、
トキヤがHAYATOを演じることもなかったのが一番の証拠だろう。ただ、今回納得出来かねるのは、トキヤの私情の
都合によって展開を変えてしまったことだった。そこに打算的な考えは何もなかった。今まで入れてきたアドリブは
きちんと計算した上の物だった。こんな事は初めてだ。柄にもなく戸惑ってしまって、口をつぐんでいると、音也が何で
もなかったように近づいて来た。
「トキヤー、お疲れ〜。いやぁ、急に展開変わっちゃったからびっくりしたけど、俺はこれでよかったと思―――・・・」
「すみませんでした」
俯いたままでいると、自分の膝の上に言葉を零す形になった。どうするべきか、答えを探ってやっと出てきたのは率直
な謝罪の言葉だった。今は、何だか自分らしく話すことが出来なさそうだった。
「え、い、いやいいって!!全然大丈夫だよ!スタッフさんも満足してくれてるみたいだし―――」
「・・・・勝手に、私は重ねていた。貴方と、そして貴方の役を。貴方は何も言いませんでしたが、口にしないだけで
本当はこの役をやっていてつらいのだろうと、いつの間にか思い込んでしまって、1人でつらくなっていました。もし、
貴方が本当にあの役通りであったらと、考えて出したのがあの芝居です。・・・・本当に、すみませんでした。自分勝手
にも程がある」
ずっと行き場も分からずつっかえていた、胸の内を告げてしまうとトキヤはまた俯いて唇を噛んだ。本当に、自分らしく
ないことをした。音也と出会ってから道連れになるように自分らしくないことをすることはあった。自分の意思にはあくま
で反していて、仕方なく付き合ってやっているのだと思ってきた。けれど、気がつかないうちに、音也は自分の行動の
要因にすらなる程存在が大きくなってしまっていた。誰かの事をこんなに考えたことはなかった。歪な形の思いは、
唯の自己満足で、それを抱えたまま上手く付き合っていけるか、歩いてゆけるか分からない。これ以上、音也が自分
の中を支配していくのかもしれないと考えると、怖い。けど、離れたいかといえばそうではない。思い悩んで、じっと
座っていると体勢はそのままで、音也の両腕の中に収まっていた。トキヤは驚き、僅かに身を震わす。
「っ音也、何、してるんです・・・・」
「んー?・・・トキヤがつらそうだったから、こうしてるだけだよ。・・・・ありがとう、トキヤ。今回の役の設定、気にして