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がんばれ、おれのちきんはーと!

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一つ、深呼吸をする。
高鳴る鼓動を抑えきることは難しいけれど、オレにはやらなきゃいけないことがあるから。
…肝心なところでパニックになってしまうのは、ご愛嬌っていうことで。



がんばれ、おれのちきんはーと!




ここは、アメリカ軍基地。
最近は日本軍との戦闘やいざこざ等もなく、そこにいる人々は平和な空気の中で生活していた。平和と言っても、決して静かなわけではない。ワイルドキャット、ヘルキャットの艦上戦闘機や空母のヨークタウン、戦車のシャーマンなどの兵器組が集まっており、基地内は非常に賑やかである。
皆思い思いに喋っているが、今日の共通の話題はワイルドキャットについてである。彼が日本軍の女の子に恋をした、ということをネタに盛り上がっているのだ。
その話題を持ち出したのは、彼の弟であるヘルキャットである。

「この前話しただろ?アニキがジャップの女の子に惚れてるって。オレさ、気になって見てきたんだよねー。あ、勘違いしないでよ。オレは零とケンカしに行っただけで、その子狙うとかナイから」

マシンガントークばりに続けられるヘルの話を、ワイルドキャットは顔を赤らめながら、その他は興味津々といった様子で聞いていた。
ヘルによれば、その娘は確かに可愛いらしい。日本人特有の黒い髪に、小柄な体格。パッチリとした大きな瞳に、彼女に見合った愛らしい声。ヘルの好みではないものの、ワイルドキャットが惚れるのも分かる、と。
ここまで褒めちぎられているのを聞いてしまえば、気になって当然というもの。その好奇心に逆らうことなくシャーマンが話題の日本人を見に行こうとしたところ、ワイルドキャットがすかさず止めに入った。どうやら彼は、彼女―戦艦武蔵―をあまり見てほしくないらしい。それゆえに、友人のことを思って彼らは武蔵を見に行くのを諦めた。
その代わり、と言っては何だが、彼らは全力で二人をくっつけようという誓いを密かに立てた。これを知らないのは、当事者であるワイルドキャットだけである。


後日、偵察で日本に赴く機会があった。
当然のようにワイルドキャットはそれに志願し、パイロットとともに日本上空に到着する。そして無事に着陸するやいなや、武蔵を探しに出かけた彼をパイロットは温かい目で見守っていたという。
ちなみに、本人には内緒でヘルやヨーキィ、シャーマンも着いてきていた。目的は一つ、ワイルドキャットと武蔵の恋の行方を見守るためである。ニヤける顔を隠そうとしないまま、彼らは静かにワイルドキャットの後を追った。


零に会って散々にけなされ、その後チハに会って鬱憤晴らしをし、漸く武蔵を見つけたのは日本に上陸してから数十分後のことであった。少々凹みつつ訪れた花畑で、一人屈んで花冠を作っている武蔵を見つけたのだ。
声をかけるべきかどうか迷ったものの、意を決してワイルドキャットは武蔵に話しかけた。怖がらせないように少し遠い所から、出来る限りの優しい声音で。
「久しぶり、だね。お、オレのこと、覚えてくれてる?」

そう問いかけた彼に、武蔵は振り返って答えた。
「はい、覚えています。ええと……ワイルドキャットさん、でしたよね」
「っああ、そうだよ。良かった、オレみたいな戦闘機の名前を、覚えていてくれて」

何故敵国であるアメリカの戦闘機が、という顔をしていた武蔵だが、ワイルドキャットに答えを返すとすぐに笑顔になったり、その声がとても嬉しそうなものだったことに安堵する。そして多少の緊張を覚えていた顔は笑顔になり、自分の隣を示して「どうぞ」と呼びかけた。
ワイルドキャットはというと、あたふたしながら武蔵の隣に座り、赤くなった顔を隠そうと軽く俯く。しかしせっかく武蔵と二人きりなのだからと、どもりつつも話しかけるワイルドキャット。その近くの雑木林からは、ヘルが「ア、アニキがヘタレ卒業したあぁぁぁ……!」と歓喜の涙を流していたという。

「あ、あのさ。ここで何をしていたんだい?」
「えっと、これを作っていたんです。ご存知ですか?花冠」

そう言って武蔵が見やすいようにと差し出したのは、少々不恰好な花で作られた冠だった。花の茎を上手く編みこんで作られたそれは、武蔵が持つのにぴったりなものだ。
花に囲まれ、花冠を持って微笑む武蔵に、ワイルドキャットが叫びだしたい衝動に駆られたのは言うまでもあるまい。自分の鼓動と格闘している時に武蔵に話しかけられ、彼がとっさに反応を返せなかったのもまた、言うまでもないだろう。

「あの、もし宜しければ、一緒に作っていただけませんか?一人でいるのも寂しいですし、せっかくですしね」
「良いの?オレと、一緒にいても」
「何故貴方と一緒にいてはならないのですか?」

確かに敵同士ですけれど、ワイルドキャットさんは攻撃なさっているわけでもありませんし。
そう笑って言う武蔵に、ワイルドキャットの心臓は張り裂けそうになった。可愛い、という感情は勿論ある。それだけではなく、「愛しい」という感情がそれを追い越して強くなったような、そんな感じがしたのだ。

これは、想いを告げるべきなのだろうか。いやしかし、オレたちは敵対国の兵器なのだから…。

様々な葛藤が、彼の頭を駆け巡る。
告白したい。それでもしOKをもらえたなら、恋人になって、彼女を堂々と愛したい。
その気持ちが強い反面、どうしても祖国の仲間たちのことを思わずにはいられなかった。
自分一人が勝手なことをして、皆に迷惑をかけるわけにはいかない。今まで苦楽を共にし、家族同然で育ってきた仲間たちだからこそ――
彼は、どうしたら良いのか分からなくなった。どうしたら誰もが納得のいくような答えが出るのか、皆目見当もつかない。単純な話ではあるのだ、自分の気持ちを押し込めてしまえば良いのだから。しかし彼は、それをするにはもう遅すぎたのだ。
武蔵を想う気持ちが、強くなりすぎたのだ。それが悪いことであるはずはないのだけれども、その気持ちが彼の良心を傷つける。
こんな時、ワイルドキャットは弟を羨む。
ああ、アイツのように自由奔放に生きられたらどれだけ楽だろう。
アイツのように強い戦闘機だったならば、どれだけ…………
考えても、詮無きことであった。
自分たちは設計者や技術者によって生み出された、「兵器」である。
その性能に文句を言うということは即ち、自分をこの世に生み出してくれた親たちを貶すことに繋がるのだ。そんなこと、出来ようはずもない。

急に黙りこくったワイルドキャットに、武蔵は困惑していた。
自分が何か失礼なことを言ってしまったのだろうか。何か粗相をしてしまったのだろうか。
そのようなマイナスな思考ばかりが脳内を埋め尽くす。
しかし彼女もまた、ワイルドキャットと同じように悩んでいるのだ。敵国であるアメリカの、しかも自軍の仲間と交戦経験のある戦闘機に恋をしてしまったことを。

そして暫く沈黙が続くのかと思いきや、先に口を開いたのは武蔵だった。

「あの、ワイルドキャットさん。もし何か悩み事があるのでしたら、わたくしがお聞きしますよ?ほら、そういうことは他人に話した方が楽になると言いますし…」
「武蔵ちゃん……。そう、だね。聞いてもらえるかい?オレの気持ち」
「はい、いくらでも」