二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」

彗クロ 3

INDEX|4ページ/25ページ|

次のページ前のページ
 

3-3



 通称「なんでもガラクタ屋」こと『ディンの店』は、バザーの喧騒などそ知らぬ様子で、街の片隅にひっそりと身を置いている。そのものずばりディンという、店と同名の店主は、これまたイカレた男――いや、「ガキ」だった。
「はれはれはれ。こりはまた世にもキミョーな他人の空似でしね〜。ううむ、ネオルー君1号2号ってのはどない?」
「ぐっじょぶ、ディンディン!」
「親指たてんなウインクしあうな全然うまいこと言ってねーっつのッ!!」
 変人がさらにひとり増えて、レグルのツッコミも忙しい。背後では相変わらず遠巻きな二人が、
「三年……経ってるんじゃなかった……っけ?」
「そこは気にしたら負けですよ……」
と、微妙に疲労感漂わせつつごそごそ言葉を交わしていたが、そちらにまで気を回す余裕はさすがにレグルにはなかった。
 店内はかなり暗く、怪しげな物品がそこかしこに山と積み上げられている。ありとあらゆる爬虫類の燻製がビッシリ並べられた壁もあれば、内容の知れない薬瓶で埋め尽くされた棚、何種類もの薬草を干して束ねて吊るした天井、不気味な燭台に怪しげな水晶玉にいかにもな魔法陣にと一式整った丸卓、真っ当なものからいかがわしいタイトルまで無秩序に並べられた書棚……などなど、怪しげでない部分を探すほうが骨が折れるような有様だ。
 そしてこの異様な雰囲気の中、極限まで燃料をケチった灯火に下から照らし出される、いかにもガメつそうな子供店主の顔のおどろおどろしさときたら、トラウマものの滑稽さであった。
「んもー、ひどかことよ。ウチとチミの仲じゃない、ルー君」
「おれはルークじゃねーし、ルークにヘンなあだ名つけんじゃねーよ!」
「あん? やはし別人なん? 坊や〜お名前言えましゅか〜?」
「こいつウゼェェェェェェーッ!!」
「まあまあ、落ち着きなよ、『レグル』くん」
「んなッ、薬箱テッメェっ!」
「ほほう、なかなかテキトーで良い名前でありましゅねぇ。んだばレグルん」
「や!め!ろ!」
「さにあらばグルっぴ」
「――〜〜〜〜っ」
 レグルは頭を抱えてカウンターに突っ伏し、いかんともしがたい衝動に足をドタバタさせた。会話が通じる気がしない……。
「ディン、初心者いじりはその辺にして、そろそろこっちのこともかまってくれないかな?」
 アゲイトがようやく助け舟らしきものを差し出した。……ひとしきり無責任な外野を堪能したらしい笑いの痕跡が見え見えで、ありがたさなど皆無である。
 しかし幸い、変人店主の興味はあっさりアゲイトに移ったようだった。
「なんよアゲやん、子持ちだなんて初耳だわよ」
「アハハ面白い冗談だねー。僕に子供ができたら、もっと品のいい顔立ちになるはずじゃないかな?」
「オイ……」
「あっごめん、おとなしくしてればそれなりなんだから、やっぱり性格の問題だよね」
 アゲイトはにこやかに皮肉りながら、これ見よがしにルークの肩に手を置いて、前に出るように促した。暗がりから明るみに抜け出たルークの目つきは比較的にしっかりしていて、悔しいが、鏡の中に見慣れた姿よりも幾ばくか賢そうに見えぬでもない。
 レグルは思いっきり顔をしかめて二人にツカツカ歩み寄ると、ルークの手を強引にひったくってアゲイトから引き剥がした。振り返りざま下瞼を極限まで引っ張って「あっかんべー」をかましておくことも忘れない。……一層アゲイトの苦笑が深まったあたり、ちょっと失敗だったような気がしないでもない。
「ふんふん。においましゅねー……」
 思わぬ間近にあがった声に、レグルは奇声を発して飛び退いた。いつのまにカウンターの向こうから抜け出してきたやら、ほんの至近距離、頭ひとつ低い位置に、胡乱に鼻をうごめかす子供店主の姿があった。……物音どころか、気配のひとつもしなかった気がするのだが……
 ディンは推理小説のお約束どおり、顎に手を当てながら、レグルとルークの顔をひとしきり見比べた。見た目にそぐわぬ、抜け目ない商人の眼光だ。と思ったらまたしても、本の中の探偵よろしく、人差し指をビシリとレグルに突きつけてきた。
「ズバリ! 厄介事の臭い!」
「……ァあ?」
「ちゅーかアゲやんが絡んでる時点で厄介事でないわけなかね。大丈夫なん、これ? 爆発しない?」
「しねーっつの! ヒトのことなんだと思ってんだ!?」
「あんれ? ドッベルゲンガーに遭遇したら爆死するんじゃなかったけぇ?」
「いろいろちッげーよ!!」
「はいはいどーどー。ディン、うちの大将によろしく言っとくよ」
「――なに油売っとんのフロリン! お子ちゃまたちの足のサイズと縦の寸法! クワシク!」
「あいっさ〜」
「なんだその態度の違いー!?」
 アゲイトのたった一言で状況は一転した。変態子供店主は再びカウンターの向こうに引っ込み、ホラーかくやの薄気味悪い笑い声とともに暗がりに消えた。フロリンとかいう変態一号(どうやら店員らしい)が、採寸用のメジャーを引き伸ばしながら嬉々として近寄ってきたが、散々な暖簾に腕押しっぷりに頭から湯気を立てるレグルは、笑顔全開のアゲイトに背後から拘束されていたため、必然的にルークが応対した。
「サイズは同じだから、一度で済むよ」
「そお? ……んんー?」
「……なに?」
「んー……いや。えっとネオルー君2号じゃ長いから、ニゴウ君?」
「ルークでいいって」
 苦笑混じりにルークが返すと、青年はあからさまに虚を衝かれた顔をした。無駄に愛嬌たっぷりな睫が上下に往復する。
「あれ……本当にルークって名前……?」
「そうだよ」
 相手を見上げるルークの眼差しは、微笑を帯びてひどく優しい。
 横目でそれを見て、レグルは脇の下からホールドされたまま、ぶっすりと頬を膨らませた。耳元で笑いを噛み殺している不届き者には、脛に一撃、痛烈な制裁を下しておく。
「ふーん……じゃ、ボクのことはフローリアンでいいや」
 少女のような青年は、なにか胸につかえたものを飲み込んだような言い方をしながら、採寸作業を開始した。……フロリンが本名じゃなかったのは、なかなか意外である。
「オンナみてーな名前なのな」
 嫌みったらしく揶揄してやるが、フローリアンは別段気にした様子もなく、テキパキとメジャーを操っていく。手慣れているとまでは言いがたいものの、もたつくこともない、合理的な手つきだ。
「名付けオヤが少女趣味だからさー。なんか古い言葉で大層な意味があるらしいけどね。ぶっちゃけどうでもいいしー」
「ハア? なんだそりゃ。名前に意味込めるとか、なんか重くね? テキトーに区別できれば十分だろ」
「だよねー。立派な名前なんかもらっても、そのとおりの人物に育たなかったらこっちがワルモノみたいじゃん? でも、オヤがコドモに期待するのってふつーなんだってさ。ほんとブンカって無駄が多いよね〜」
「なんか……ドライなんだな……」
 妙に話が合うことにレグルが内心首を傾げ始めた一方、されるがまま棒立ちになっているルークはなんともいえない微苦笑を貼り付けて、腰周りの計測に勤しむフローリアンを見下ろした。
 几帳面にメモを書きつけつつ、フローリアンは一時暇になったほうの手をメジャーごと大仰に振った。
作品名:彗クロ 3 作家名:朝脱走犯