彗クロ 3
「あっちがウェットすぎるんだってば。返済するアテもない相手に、教団から預かってる養育費がホイホイ貸しちゃうとか、正気じゃないでしょ。一から十まで付き合ってたらこっちの身のハメツだよー?」
「う、わ……それは……」
「しかも今月はやたら多めに給付されたらしくってさ。だからって食事が豪勢になるわけでもないし。いやな予感しかしなかったら、タンスの中ひっくり返して有り金ぜーんぶパクってきちゃった」
「ええええ……」
「だってボクのために支給されてるお金だもん、自覚なく犯罪に使われるよりずっと理にかなってるっしょ?」
「いや……まあ……ど、どうだろう……」
「悪いヒトらじゃないんだけどさー。それで帳消しにできるほど生半可な馬鹿じゃないんだよ。セキニンカンのケツジョっての? あんなんでコドモ扶養できるわけないよ。ほんと身の危険感じるもん。なのにみんなして庇うし。わかんないよねー。ヒトの好さってそんなに大事? 周囲に実害でてんのにオトガメナシって、甘やかしてんのとどー違うの?」
「……うううううーん……」
「アニスなんかカンペキ被害者なのにさー。やっぱり庇うし。オヤコの情ってやつもイミフメー。きちんとおかーさんのおなかから生まれてないと、わからないものなのかなあ?」
「ええーと……ううーんと……」
手も口もよく動くこと、まるで井戸端の主婦のごとき愚痴りっぷりで、何気にシビアな発言がぽんぽん飛び出してくる。ルークも懸命に思考を回しているようだが、相槌すらしろもどろの有様である。
傍から聞いているといまいち事情は呑み込めないのだが、その割りに既視感というか親近感みたいなものが凄まじい。……とそこで、はたとレグルは気がついた。「母親の腹から生まれていない」……?
「ってオマエ、レプリカかッ!?」
「そうだけど? 言わなかったっけ?」
どこからどう見てもレプリカらしからぬ青年は、あっけらかんと肯定する。真面目に手を動かしながらも、折にあわせてくるくると表情が変化する様は、とても「真っ当な」レプリカのものとは思えない。
口ぶりからして、おそらく被験者の身代わりとして引き取られ、オリジナルに囲まれて育ったクチだろう。あのいけ好かない軍服眼鏡が言っていた、レグルにとっての最悪のケースだ。
かなり希少な例だ。そうした個体は一般的に、自治区・保護区に隔離されている連中に比べると格段に自意識が発達しているとされる。とはいえ、どれほど上手くオリジナルに溶け込もうとも、なにせ人生経験はおしなべて三年こっきり。同胞(レプリカ)が見れば、それとなく見抜けてしまうものだ。
それがいったい、どんな教育を受ければ「こう」仕上がるやら、よもやレグルと同等かそれ以上に強烈なレプリカが存在しようとは。異端度合いではまるで勝てる気がしない。
「まぁ、同じ穴のレプリカ同士、仲良くしようね、ご同胞くん?」
心持ち上目遣いに、口角をにっと横に引いた笑い方は、否応なく小悪魔を連想させた。