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零時前のヒール

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 あれからマーベリックとも分かれてまた一人になってしまったバーナビーは、半ば自棄になって自ら挨拶回りに乗りだそうとしたが、今まで輪の中心にいたばかりで輪に加わろうとしなかったしその必要がなかったことが災いしてうまく輪に入るタイミングが掴めず、結局、パーティーの終わりまで一人スマートに、時々顔を赤く染めた女性たちの相手をしながらシャンパンの入ったグラスを傾けていた。
 パーティーの終わりが告げられると同時に他の参加者と同じく礼儀程度に拍手したものの、すぐさま近くのボーイに持っていたグラスを預けてバーナビーにお別れの挨拶をしようとする人々――主に女性、をあしらって、もうさっさと家に帰ってしまおうかと足早にレッドカーペットの敷かれたホテルの大階段を下りていた、のだが。

「こんばんは」

 途中、先程着ていたスーツの上に、どこにおいていたのやら白いもこもこのついた黒いロングコートを羽織ったオリハラがほほ笑んでいた。

「……すみません、お待たせしました、オリハラさん」
「いえ、そんな」

 呆然としながらも反射的に謝罪の言葉を口にするバーナビーに謙虚に振る舞ってオリハラは尚笑う。
 あんなに急いで出てきたのに信じられない、とばかりに瞠目して口元をほんの少しひきつらせながらも、オリハラの元に歩み寄ったバーナビーは早く用事を済ませてしまおうと「それで」、と口火を切った。

「質問と言うのは」
「まあそんなに急がないでくださいよ」

 こっちは家に帰りたいんだ!

「時に、ミスターブルックス。今夜は車で家にお帰りになる予定ですか?」
「は? ……あぁ、いいえ、車は会社においていますし、今日はシャンパンも飲んでしまったので、酔いを醒ますついでに歩いて帰ろうかと。ここからそんなに遠くありませんから」
「そうですか。ちなみにその途中公園は通ります? ほら、結構広い、大きな噴水のある」
「あぁ、はい、通りますけど」
「なるほど。では私も途中まで同じ道ですから、歩きながらお話ししましょう」

 確かにそれなら早く帰られるけれども。けれども。
 何かが釈然としないバーナビーを知ってか知らずか、オリハラはスキップと見間違うか如き軽い足取りで階段を下り、先に先にと歩いていく。
 そしてくるりとこちらをふりかえって、首をかしげると

「どうしました? 何かお忘れ物でも?」

 喜色満面の笑みで彼を見た。
 まるで新しい玩具が手に入って、今からどうやって遊ぼうかとわくわくしているのが隠しきれていない、無邪気な子供のような目で。
 そしてバーナビーは、悟った。
 今日自分がマーベリックにパーティーに誘われたことも、彼と自分が引き合わされたことも、そして今自分と彼がこうしているのも、もしかしたらこの瞬間に自分がこうやって悟っていることでさえ、全て彼、オリハライザヤの「予定」通りなのだと。
 だから、

「……いいえ、なんでもありませんよ」

 すみません、ぼぅっとしてて、とオリハラに笑顔で謝った。

「そうですか。はは、でも期待のスーパールーキーがぼーっとするときなんてあるんですか?」
「当たり前じゃないですか、そんな買いかぶらないでくださいよ」

 はたからみると、同年代の二人が軽口をたたきながら歩いているというほほえましい様子にみえる。現に老紳士にエスコートされた老婦人がまるで孫を見るような目つきで二人を見て微笑んでいた。
 しかし、少なくともバーナビーの心中は全く違うものであった。
 本当に先程自分が感じたように今晩のすべてが彼に仕組まれていたとして、その目的は何なのか?
 単なる物珍しさやバーナビーと深く話してみたいから、などと良心的に考えても見たがそれではわざわざここまでする理由がわからない。
 逆に打倒ヒーロー、もしくは金銭に関する犯罪に巻き込むつもりかと勘ぐってみたがそれではオリハラがここまで一緒についてきてしまっては後から自分が疑われるように箔をつけているようなものである。
 だが、まぁいい。
 どういう目的のつもりで自分やマーベリックに近づいたのかわからないが、必ずこいつの正体を暴いてみせる。
 そう力強く誓ったバーナビーであったが、その誓いはすぐにオリハラ自身に達成されることになる。

作品名:零時前のヒール 作家名:草葉恭狸