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零時前のヒール

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「というか、オリハラさんが住んでいるところはわかりませんが日本、特に東京は物価が高いと聞きますがお金は大丈夫だったんです?」
「あぁ、それは、私が会社とした契約金が既に支払われていたからね、それでいったよ。けれど確かに高かった、高かったよとても!
 それでインターネットでホテルを予約しようとしてもね、どこも高いところばっかりだったんだ。仕方なく私は現地でホテルを探すことにした」
「……貴方、日本語わかるんですか」
「ワタシ、ニホンゴワッカリマセーン!」
「ヨシオサン、それはまだ覚えてるんだね」
「他にもちゃんと覚えているよ? オイシイ! オネガイシマス! クダサイ! イタダキマス! ゴチソウサマデシタ! 」
「大体食べ物関係ばかりじゃない」
「あのスシのタイショウの包丁が飛んでくるのは避けようと必死だったからね。そして、 アリガトウ、ソシテ、アリ「ええとそれでキースさん続きは?」

 キースが満面の笑みでサムズアップをして英語以外の何か――おそらく日本語であろう――を喋ったが、バーナビーにはさっぱりわからなかったがキースがスカイハイのポーズを決めようとしたところで急いで先を促した。

「そうだった、それで、私が日本に到着して、とりあえず大きな街に出て観光より先に宿を決めようとしたんだが、うん、シュテルンビルトで大都会というのは慣れていたと思っていたんだが、それでも圧倒されてしまってね」
「それでも、ですか」
「ああ。異国の地に一人ポツンと立つ私、とても寂しかった……。駅で地図をもらっていくつかのホテルにマークをつけてもらってはいたんだが、大通りのど真ん中で迷ってしまったんだ。今思うと日本は英語の表記で店の名前が書かれていることがあるからいくつか英語でhotelと書いていたところもあったんだろうが、私も初めての異国の地で判らなくなってね、道行く人に尋ねようとしてもまるで忍者のように避けられてしまうし……。日系の知り合いが現代の日本には忍者なんていないといっていたからそう思っていたんだけれど、あれで考えが変わったよ」

 きっとおり……イワン先輩が喜びますよ。
 いや、イワン君には一度私が日本にいったこととその体験を話したことがあるんだが、彼が感極まって泣きそうになってしまってね。でもサムライだから泣いちゃいけないといって改めて握手を求められたから握手をしたら「ニンジャと同じ空間にいた人と握手したでござるううう」……と、叫びながら飛び出していってしまったんだ。
 あぁ、こうして日本の間違った見識は広まっていくのか。なるほど。

「それで私はしばらくその街をうろうろしていたんだけれども、しばらくそこを回っても何も見つからなかったから、路地に入ってみたんだ。そうしたら」
「オリハラさんが落ちてきた、ってことですか」

 勘繰るように見つめるバーナビーに対して肩をすくめ、オリハラがそこで、と続きを受け持った。

「そこで、ヨシオサンが受け止めてくれたんですよ」
「そうだったね。こう、空中でお姫様抱っこでね!」
「ちょっ、ヨシオサン?!」

 色白い顔をほんの少し赤らめて「だからあまり話したくなかったのに」とキースを睨むオリハラを何となく今までの意趣返しをしたような気分になって眺めていると、ふとバーナビーの頭の中で先程のキースの言葉が反芻された。
 空中で。
 空中で。

「……空中で、って、キースさん」
「うん?」
「ネクスト能力、使ったんですか?」
「もちろんだとも。いくらイザヤが軽いからといってあんな高いところから落ちてきたら能力なしには受け止められない」
「ヨシオサン、さっきから俺の尊厳をなぶるような発言をしていることに気付いてよ」
「えぇと、キースさん、僕の思い違いでなければ日本はまだ国内にネクストがいないこともあってネクストに対してひどく保守的で、ヒーローTVは地上波でも衛星放送でもされてないのはおろか、流石に旅行にはいけますが滞在中に能力を使用したら即刻国外退去再入国不可と決まっていた、ように思うんですが」
「ああ、そうだね」

 キースは深くうなずくと、しかし、と不思議な顔をしてバーナビーを見た。

「けれど人が落ちてきて、私はネクスト能力を使わなければ彼を助けられない、そんな状況では……いや、そこまで考える余裕もなかったな」
「あぁもういいじゃないですかバーナビーさん、ヨシオサンは特に国外退去にもなってないし俺も生きてるんですから」

 両手をコートのポケットにつっこんで、すねるようにいうオリハラにピンときて、バーナビーは意地悪く口元を釣り上げながらキースをみた。

「で、そのあとどうなったんです?」
「ちょっ」
「うん、彼を助けた後、先程言った通り私は日本語がわからないから彼に理解できるかわからなかったができるかぎりゆっくり、簡単な英語であまり危ないことをしてはいけないというのと、できれば先程見たことは忘れてほしい、というのをいって、そこから去ろうとしたんだ。そうしたら彼に引き留められて、いわれたんだよ。流暢な英語でね」

『さっきみたこと、絶対に忘れない。忘れてなんかやんない』
『口外されたくなかったら、俺の家に来てよ』

「……はぁ、なんで」
「……なんでだろう? 確かによく考えてみると不思議だね。
 そのあと私は彼の家に招待されて、彼の親が海外に赴任していていなかったこと、私に宿が見つからなかったこともあってそれから帰国するまでずっと三週間彼の家に滞在していたんだが……。どうしてあんなことをいったんだい? イザヤ」

 二人の視線がオリハラに集中する。
 オリハラは両手をコートのポケットにつっこんだまま、暫く俯いていたがやがてゆっくりと口を開いた。

「………ヨシオサン」
「ん?」
「暫く絶交」
「えっ。えっまっ待ってくれ、待つんだイザヤ! そっちは私の家の方向じゃない!」
「知らない! 今日はホテルの最上階丸々使って贅沢してやる!!」
「追いかけなければ! すまないバーナビー君、また明日、明日また!」
「……はい、また明日」
「Good boyジョン、待たせてしまったところ悪いが、イザヤのカークホーウに協力してくれるかい? ……そうか、有難う、そして、有難う! よしいくぞ!」

 では!と爽やかにあいさつした直後風になった一匹と一人を見送って、バーナビーは暫くその場に突っ立ったあととぼとぼと自分の家の道へと歩み始めた。
 若かりし頃の黒歴史を暴いてやったと喜んでいいはずなのに、なんだろう、この敗北感は。
 そうして、一つ思いつく。
 キースとオリハラは、そう最近であった知り合いではないのだろう、多分。そしてキースの能力に助けられたということはキースは特にオリハラにネクストであることを隠し立てしていたわけではないのだ。ヒーローであることは隠している様子だったけれども。
 それならばなぜ、わざわざ自分に先程のようなネクストに関する質問をぶつけたのだろうか? その人物もバーナビーも「パワー系」と見受けられるからだろうか?それともネクストの第一人者ともいえるヒーローの意見を聞きたかったから?
作品名:零時前のヒール 作家名:草葉恭狸