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座敷童子の静雄君 2

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座敷童子の静雄君 after3




≪で、兄さんに幸せは訪れたの?≫
「ああ、ありがとよ」

幽からペンダントを貰ってジャスト一ヶ月。
新作映画の撮影が始まって多忙な癖に、約束通り連絡を寄越すなんて。
まったく律儀な弟だ。
公園のベンチにだらりと腰を下ろし、携帯を握る反対の手でペンダントを壊さないように弄った。


「俺の事、すっげぇ頼ってくれる女の子に会えた。その子を守れて、俺は本当に幸せだった」


電話を切り、タバコを口に咥えて火をつける。
今も目を閉じれば、肩まである漆黒の髪を揺らし、蒼い大きな瞳で笑いかけてくる少女の姿がくっきりと思い浮かぶ。

「静雄くん、静雄くん♪」と、割れた手鏡を愛しそうに撫で、帝人が呼んでくれると心がくすぐったくなった。
もう二度とあの娘に、ぎゅっと抱きしめて貰えないけど、遠い空の下で、今日もきっと生きていてくれる。

それだけで静雄は幸せだ……、と、思い込もうと頑張っていた。


★☆★☆★


あれから静雄は、帝人の元に飛ぶ事は二度となかった。
石をぎゅっと握り締めて少女の事を思えば、微かにだが彼女の声や様子を伺う事ができたのだが、なんせ静雄の一日が、あっちの世界で24日。
二年なんてあっという間に時が追いついてしまい、15日ちょいで、もう声を聞くことも姿を見る事もできなくなってしまった。


最後に見かけた彼女は中三の冬で、必死で受験勉強している様子だった。
息抜きのチャットで、幼馴染の少年の超ハイテンションかつ強引な勧誘を受け、『私も東京の高校に進学したい♪』と言い切った時、静雄の心臓も『でかした♪蛇男♪』と、わくわくと踊ったものだ。

だが、白龍を失った為か、急激に金銭的に落ちぶれつつある竜ヶ峰家は、帝人の為に使う学費も惜しんだ。
『地元の安い公立高校に進め』と一方的に命じる母親に、庇ってくれたのは婿養子な父親で。『帝人がその入試で、成績上位5人に入って奨学金を得られたら行かせてやってもいいだろう?』と、そんな厳しい妥協案を出し、何とか母親からの許可を貰ったのだ。

(頑張れよ、帝人)

静雄も、もし彼女が無事に受かって東京に出てくると決まったら、きっと会いに行こうと思っていた。
なのに、今ではどんなに石を握り締めても、彼女を見守る役目は一方的に打ち切られ、現状何の手がかりもない。

(ああ、畜生。せめて志望校が判っていれば、入学できたかどうか調べられたのによぉ)

過去の自分にイラっときて頭を掻き毟り、タバコのフィルターをガジガジ噛んでいたら、いつの間にかやってきたセルティが、もじもじと物を言いたげにPDAを突きつけてきた。

『なぁ静雄、あの夜の少女の件だけど、もしかして【竜ヶ峰帝人】って名前か?』
「何でお前フルネーム知ってんだ?」
『さっき、いきなり【あそこ、正臣、生デュラハン!! うわぁぁぁ、妖精さんだぁぁぁ♪ 綺麗♪♪】って指差されて……、それでなし崩しに知り合いになって……』
「帝人に会ったのか? なぁ、あいつ、今何処に!?」


「見つけたぞ、このゴキブリ野郎ども!!」


速攻ベンチから立ち上がった彼の迷惑を顧みず、喧嘩を吹っかけてきた馬鹿どもは、静雄が新羅宅に押しかけた夜、行く手を塞いだ黄巾賊の連中だった。
どうやら顔面に裏拳を叩き込んで吹っ飛ばした法螺田という男がリーダー格だったらしく、三十人もの仲間をかき集め、手に手に獲物を抱えて一斉に飛び掛ってきやがって!!

「逆恨み野郎が、邪魔だうぜぇぇぇぇぇぇ!!」

ぷちっとブッちぎれ、今まで座っていたベンチを高々と持ち上げ、そいつらの群れにぶん投げる。
その時だった。


「……うわぁぁぁ八岐大蛇(やまたのおろち)、いや、酒呑童子(しゅてんどうじ:八岐大蛇の子で鬼の頭領)の血の方が濃いか。物凄い先祖がえりだよ、………ふごっ」
「帝人ぉ、おまぇ黒バイクに続き、今度は自動喧嘩人形相手に、何、面と向かって言ってくれちゃってんだぁぁぁ!! 俺の繊細な心臓を、さらにブロークンする気かぁぁぁ!!」
「でも正臣、こんなにも有名な先祖持ち、初めて見たよ私。凄い凄い♪神話クラス♪」
「うるせぇ黙れ、この非日常ラブ女!! 兎に角逃げるぞ!!」
「あううううう、もうちょっと見たいんだけど……」
「今すぐ走れ馬鹿!!」

幼馴染に手を引っ張られ、のたくた走っていこうとする鈍臭い彼女の襟首をひょいと引っ掴み、吊るし上げてからまじまじと全身を見る。
肩まであった漆黒の髪が少年のように短くばっさり切られ、胸もペタンだし、見た目ボーイッシュな少年である。
広いおでこと情けない八の字型眉毛がなければ、すれ違ったって、マジ気がつかなかっただろう。
しかも彼女は、青色の来良学園の制服を身に纏っていた。

(はははは、こいつ俺の後輩になっていたのか。……全く、半年以上同じ街に住んでて、気がつかねぇなんてよ)

「すいません!! すいません、こいつ妄想癖がある変な女なんで、許してやってください!!」
幼馴染の少年が、果敢に静雄の腕にぶら下がって帝人を取り戻そうと頑張っていたが、肝心要の少女は、吊り上げられながらも、息を飲み、食い入るように静雄をガン見して……、やがてきらっきらと目を輝かせてにっこりと微笑んだ。


「初めまして酒呑童子さん、私、竜ヶ峰帝人と申します♪」
「……なぁ、俺は座敷童子じゃなかったけ?」
「え?」

大きな蒼い目で凝視し、きょっとりと小首を傾げる。
静雄は琥珀色の瞳を眇め、口元を弓形に吊り上げて笑った。
「それに『みぃ~かぁ~ろぉぉぉぉぉぉ』?誰が初めてだゴラァ♪」
黒い蝶ネクタイを緩め、襟元からペンダントを引っ張り出すと、ぶらぶらとサファイアの石も見せ付ける。
「ガキの頃、世話になったな。改めて……俺は平和島静雄だ」
彼女の蒼い大きな目が、ますます驚愕に見開かれた。


「……本当に、しずおくんなの?……」
「おう」
「……しずおくん、しずおくん? うわぁ、大きくなっちゃって♪ すっごい♪…」
「帝人もすっげぇ……、その……、可愛く……なった」
言い切ったと同時に、かぁぁぁぁっと顔が熱くなる。
こんな時まで、テレ屋な自分の性格が恨めしい。

「二人で世界作ってんじゃねーよ!!」

再び鉄パイプを振りかぶってきやがった空気の読めない法螺田を「どけ、うぜぇ!!」と、長い足で蹴り飛ばす。
すると気配り抜群なセルティが、すかさず漆黒の影をせっせと伸ばして飛んできた男を捕獲し、仲間と一緒にふん縛ってくれる。
グッジョブ。

「……しずおくん、私ね、会いたかった。私、本当に会いたかったの……」
興奮し、大きな瞳に涙を溜め、それでも満面の笑みな彼女に急に飛びつかれ。

(う、うおおおおおおお!!)

天真爛漫な天然ボケ娘の攻撃は凄まじかった。
なんせ、頭をぎゅっと抱きしめるから、静雄の顔面を覆う形で彼女の胸が目の前にある。
女に免疫のない童貞男のパニックも半端なくて、照れて、しかも咄嗟で力加減なく背に回した腕をぎゅうぅぅぅと抱きしめてしまい……。
はっと気がついたのは、頭の上で『……ぎゃぁぁぁぁ……』と、絞め殺されそうな少女の嫌な叫び声が響いた時だった。


「……あ……」
やべぇ……と思った時には、もう手遅れで。
作品名:座敷童子の静雄君 2 作家名:みかる