この想いを
次の瞬間には、ベルゼブブの身体が動いていた。
佐隈のほうへと飛ぶ。
背中の羽根を必死で動かす。
速く、速く、速く……!
佐隈が道に叩きつけられるまえに、間に合わなければならない。
だが、今のベルゼブブは結界の力のかかった姿で、身体は小さく、羽根ももちろん小さい。
魔界にいるときのように速く飛べない。
それを強く感じて、もどかしい。
「ベルゼブブ!」
芥辺の鋭い声が飛んできた。
直後、ベルゼブブは衝撃を感じた。
ベルゼブブの姿が変わった。
人間のような、けれども明らかに人間とは違う、本来の姿。
芥辺が結界の力を解いたのだ。
これで、さっきより速く飛べる。
ベルゼブブは芥辺に感謝しつつも、そちらを振り返らず、佐隈のほうへ飛んでいく。
佐隈はグリモアを胸に抱いたまま落下している。
道に叩きつけられる。
その寸前。
ぎりぎりで間に合って、ベルゼブブは佐隈をとらえた。
佐隈を腕に抱く。
安全に着地することもできるが、敵から逃げるために佐隈を抱いて飛び続ける。
結界の力のかかった小さな姿でも人間の大男を持って飛んだことがあるので、佐隈ぐらいなら楽に運べる。
しかし、怪物が動かないでいるわけがない。
その大きな手がベルゼブブをつかまえようとする。
ベルゼブブはその襲撃をうまくかわして飛ぶ。
ふいに。
「うおおおおおおおお」
獣の咆哮のような大声が聞こえてきた。
怪物の声であるようだ。
気になって、ベルゼブブはそちらのほうを見た。
怪物が身体を大きく揺らしている。
なにかから逃れようとしているように、なにかに痛めつけられているように、暴れている。
どうやら眼に見えない力が怪物を苦しめているらしい。
きっと、芥辺だ。
芥辺がなにか力を使っているのだろう。
あの怪物には魔術は効かないらしいので、あの怪物を動かしている天使を見つけて攻撃しているのかもしれない。
天使が撤退すれば、あの怪物は土人形にもどるはずだ。
ベルゼブブはほんの少しホッとする。
これで助かると思った。
これで助けられると思った。
けれども。
眼に見えない力に苦しめられているらしい怪物が腕を振り回し、その大きな手が近くのビルに叩きつけられた。
壊れる音があたりに響き渡る。
怪物よりも背の高いビルが、折れた。
折れたビルの破片が降ってくる。
破片といっても、小さな物ばかりではなく、人間よりもずっと大きなサイズの物もあり、それが、飛んでくる。
佐隈を抱いて飛ぶベルゼブブに襲いかかってくる。
ベルゼブブは歯を食いしばった。
できる限り速く飛ばなければならない。
逃げなければならない……!
だが。
背筋がゾワッとした。
すぐそばまで危機が迫っているのを感じた。
冷や汗が流れる。
もう、どうしようもない。
逃れられない。
今度は間に合わなかった。
次の瞬間、身体に強い痛みが走った。
「っ!」
折れたビルの破片がベルゼブブを直撃した。