この想いを
強烈な痛みで頭の中が滅茶苦茶になりかけながら、それでもベルゼブブは進み、ビルの破片の下から出た。
佐隈を道へとおろした。
ベルゼブブは眼をつむる。
荒い息を吐き出した。
それから眼を開け、佐隈を見た。
佐隈は堅い表情でベルゼブブを見あげている。
なにか言わなければ。
そう思い、ベルゼブブは口を開く。
「だ」
うまく口が動かなかった。
しかし、無理矢理に続ける。
「大丈夫ですか」
直後、眼になにかが入った。
血だ。
自分の血だ。
頭の傷からの血だろう。
今の自分の身体は傷だらけだ。
特に背中のほうはひどい。
羽根が根元から抜けてしまっている。そこから血が大量に流れ出ているのを感じる。
佐隈が顔をゆがめた。
「ベルゼブブさんのほうこそ、大丈夫なんですか」
泣きだす一瞬まえのような表情。
心配しているのだろう。
いや、たぶん、それだけではない。
自分を助けるためにベルゼブブがこれだけの傷を負ったことに胸を痛めているのだろう。
だから、ベルゼブブは言う。
「私は、大丈夫です」
「そんなふうにはちっとも見えません」
「あなたも知っているはずですが、悪魔の治癒能力は、人間とは比べものにならないぐらい、高いんです」
力強く言いたかった。
けれども、弱い声になってしまうのが情けない。
「この程度なら、すぐに再生しますよ」
傷はふさがり、羽根は生えてくるだろう。
そう思う。
だが、どうしてだろうか、身体から再生するための力がわいてきているのを感じない。
眼のまえが霞んできている。