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さよならは言わない【臨帝】

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雑誌を見ていた帝人は臨也を呼ぶ。

「あの……」

海の写真を指差す。
潮干狩りの特集。
普通に海水浴でもよかったが男二人で行くのは気恥ずかしい。

(潮干狩りならいいよね? 変かな)

普通に考えれば若者二人で潮干狩りはおかしい。
写真では親子連れのほかに大学生などもいたが、それは食料の確保ついでの遊びだろう。
一人の個人かグループだ。

「今週までみたいなんで」

口にしてから唐突だったと帝人は後悔する。
端で見ていると臨也のスケジュールは過密だ。
急に予定を捻じ込むことなど出来るのだろうか。

「あさりか……」
「ちょっと食べたいと思っただけで……えっと今日の夕飯とかでも」
「あさりのパスタ作っておくわ」

波江がキッチンへ向かう。
臨也は「作ったら帰っていいよ」と声をかけた。
気を遣ったつもりで仕事を増やしてしまった気がする。

「今日やることは終わってるから」

微笑む臨也は優しい。
優しすぎて帝人は疑ってしまう。
告白してから臨也とはしばらく会っていなかった。
久しぶりに会ったとき臨也はものすごく驚いて泣きそうな顔で抱き締めてくれた。
別に臨也を避けていたわけじゃない。
気まずい思いはあった。
いい返事など期待できないのだからどんな顔をして会えばいいのか分からなかった。
臨也の狼狽っぷりに驚いてそれどころではない。

「海行こうか?」

優しい顔だった。澄み切った声が自分にだけ向けられる特別。
急に隣に座り合う距離感が恥ずかしくなる。

「別に泳がなくていいから旅行は楽しいよ」

情報屋はどうするのだろうと思ったが海だけなら来週ではなくて構わない。
臨也の都合に合わせやすい。

「そうですね。寒くなる前に行きましょう」

一緒に行けるのならば帝人はいつでもいいと思った。
臨也が気を遣ってくれたことが嬉しい。
夏どころか冬になったとしても海はきっと楽しい。

「これ旅館特集もあるんだよね。何かいい場所あった?」
「臨也さんはそういう情報はないんですか?」
「旅館の質に対する客観的、主観的な情報はあるけど帝人君の好きなところは知らないな」
「全部行ったことなんかない場所ですから……臨也さんのお勧めでいいですよ」
「海から近い、料理が美味しい、騒いでも怒られない」
「なんですか! 騒ぎませんよ」
「旅館なんて行ったことないでしょ?」
「その通りですけど……」

子ども扱いに帝人は不機嫌になる。
分かりやすく機嫌を悪くするのが尚更、子どもなのかもしれない。

「――旅館って一番大切なのは接客じゃないんですか?」
「だから、騒いでも怒られないところに」
「騒ぎませんってば!」

臨也の中で自分がどれだけ世間知らずなおのぼりさんになっているのだろう。
帝人は不満を視線に乗せるが頭を撫でられて抱き締められる。

「ずるい」
「帝人君が? その通りだね」

喉の奥で笑う臨也の気配。
密着しているから生々しく感じる。
何度されても抱き締められることに慣れない。

「じゃあ、帰るわね」

夕飯を作り終えたのだろう波江はすでにタイムカードを打っていた。
帝人は礼を言って立ち上がる。
波江は無視するように玄関へ向かう。

(あ、……もしかして)

不機嫌そうなその反応に帝人はキッチンに置かれた一人分の皿を見る。
大変おいしそうなのだが二人分ではない。
波江は時々こういうことをする。
帝人が居ることが気に食わないのか、何回か臨也と言い争っていたことがある。

「あーあ。帝人君の分しか作らないなんて……俺達がいちゃついてるのがそんなに気に入らないのかな」
「ごめんなさい。やっぱり僕、部屋に引っ込んでいた方がよかったですね」

帝人が静かに部屋にいる時はちゃんと二人分を用意してくれるのに今日みたいな流れで作ってくれる場合は当てつけるように一人分だ。

(でも僕が食べたいって言ったから作ってくれたんだから……やっぱりベタベタしてるの見せられて怒ってるのかな?)

波江はクールに見えて激情的だ。
ドライな表面が嘘のように内情はドロドロとしている。

(張間さん達みたいに見えて苛つく?)

自分と臨也がバカップルの代名詞のように密着し続けている二人と重なる日が来るとは思わなかった。
恥ずかしくなりながら「冷める前に食べましょうか」と帝人は笑う。
臨也は冷蔵庫を漁る。

「サラダはちゃんと二人分だね。あぁ、アレかな? 一つの皿でパスタを食べてキスするんだ」
「スパゲッティ―の端と端なんて……」
「そんなもの俺達の間にいらないって?」

予備動作もなくおでこに臨也の唇が触れる。

「夕飯にしようか」

臨也のどこにも照れはない。
負けた気分になる。