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さよならは言わない【臨帝】

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帝人はちょっと疲れていた。
池袋で人波には慣れたつもりでいたが気のせいだったらしい。

「車でも借りれば良かったね」
「いえ、運転大変ですよ」

どうにも帝人は要領が悪かったらしく電車に座れなかった。
臨也が隣を空けてくれたのに別人にとられてしまう。
結局は臨也も立って窓際に行くことになった。
景色を見れて楽しかったが抱き寄せられたのは緊張した。
旅先だから気にしないのか臨也は帝人を抱きしめるのも手を繋ぐのも躊躇しない。
色々な場所へ引っ張られたが悪い気はしなかった。

(なんか……恋人っぽい)

付き合っているのだから当たり前なのだが帝人は嬉しくて堪らなかった。
今更、恋人らしいことをしているのが幸せなのだと言うのは照れ臭い。
潮干狩りなど終わった海。人はほとんどいない。
打ち上げられたくらげを見つけて帝人は走る。
すぐに転んだ。
臨也に買ってもらったサンダルが飛ぶ。
後ろで臨也が笑っているのが分かって立ち上がれない。

「大丈夫?」

サンダルを振り回しながら臨也が肩を震わせていた。

「……これ、あげます」
「貝?」
「転んだんじゃないです。これに飛びついたんです」
「どんな言い訳」

笑いながら臨也は帝人が渡した貝を見る。
沈んでいく太陽を反射してキラキラと輝く。

「貝合わせ?」
「遊びですか? 何か聞いたことあるような……」
「二枚貝は合うのは互いだけ。俺には帝人君で、帝人君には俺ってこと」
「そういうつもりじゃ――」

否定しようとする帝人の言葉を聞く気がないのか「貰っておくね」と臨也はポケットにしまう。
「ありがとう」と微笑む臨也はやはり優しい。
その優しさに違和感を覚えるのはどうしてだろうか。
信じられないわけではない。
こんな嘘を吐く意味もない。

(嘘も何も……僕は)

帝人は思い出す。
臨也と付き合っているのは事実だが告白は自分しかしていない。
好きだと臨也から言われたことはない。

(でも、言われなくても……分かる)

そんなことを思って帝人は打ち捨てられたビニールのようなクラゲの元へ向かう。
臨也から裸足は危ないと言われたが気にしない。素足に水がかかる。

「くらげは刺すよ?」
「この状態でも?」

触ろうとする帝人の手を臨也は後ろから止める。
抱き締められて背中で臨也の熱を感じるのが恥ずかしい。

「さあね。もう行こう」

サンダルを履かされて抱き上げられる。
下して欲しいと思ったが混乱して言葉が出ない。