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さよならは言わない【臨帝】

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「ふざけてる」

どうやら荷物が臨也一人分だったせいで二人で予約したのに一人部屋に通された。
ランクとしては二人部屋よりも上らしいが臨也は苛ついた。
団体客を続きの部屋にするための処置を予告なくされれば仕方がないのかもしれないが帝人は気にしない。

「一人用って言ってもスゴイ広いですから」
「他の客のせいで勝手に予約内容変えるとかないよ。ここの旅館の悪評流してやる」
「ダメですよ。臨也さんが本気出したら潰れちゃいます」
「潰れればいい。こんなところ」

元はといえば臨也が「帝人君は何も持たないでいいから」と自分で全部用意して一纏めに管理したから勘違いされたのだ。
勝手に部屋を変えるのはどうかとも思ったが臨也の怒りっぷりをみると旅館を非難する気は失せる。

「お庭も綺麗です。布団をもう一つもらえば二人部屋と変わらないですよ」
「布団は一つでいいね」
「え、いや」
「枕も俺の腕があるから帝人君はいらないだろ」

さらりと言われて帝人は焦る。

「臨也さん、写真撮ってましたよね」

赤面する自分を紛らわすように帝人は臨也のカメラに触る。
少し渋い顔をして臨也は撮った写真を見せてくれる。

「結構消しちゃったよ」

映っていたのは沈む夕日と海。
地平線に沈む太陽は綺麗だ。
いつの間に撮っていたのだろうか。
ずっと自分を撮っていたと帝人は思った。

(自意識過剰……うぅ)

綺麗な風景写真に帝人は少しつまらない気持ちになる。
転んだところを撮っていたら消すつもりだったのでこれでいいのだろう。

(だから、隠してたり?)

疑ってから意味がないと思った。
臨也が本当に隠したいなら自分は気付かない。
誤魔化されてしまう。

(惚れた弱みだなあ)

臨也が好きだった。
どこが好きなのかは分からない。
いつから好きなのかも思い出せない。
恋とはそういうものだろう。
始まりがどこであるかなんてどうでもいい。
ただ今の思いは本当。

(ずっと、このままがいいな)

ちょっとした小旅行が永遠の宝物。
ハプニングもトラブルも臨也は簡単に潜り抜ける。
驚いている帝人など気にしないで微笑んで歩く。

「なに? そんなに見つめて、見惚れた?」
「いつでも臨也さんは格好いいですね」
「そう?」
「大好きです」

ぎゅっと強く抱きしめられた。
これが嘘だなんて思えない。
優しい仕草も何もかも。

(好きっていつ言ってくれるかな……聞きたいなあ……)

付き合ってはいても臨也から告白は受けていない。
帝人からの告白の後、久しぶりに会った時「俺のことをまだ好きなら一緒に居て」と言われた。
それはそのまま愛の告白なのかもしれない。

(でも、やっぱり好きって聞きたいな)

自分が言ったからこそ臨也の口からも聞きたい。
帝人としては自然に口にして欲しい。

頭の中がバカップルのようで、だから波江に怒られるのだと幸せに笑った。