とある夢幻の複写能力<オールマイティ>
時間はもう、二十五分だ
急げ…
そんなときだった
「止まれ、叶」
突然、光の線が俺の前を横切った
当たる寸前で俺は別の場所へ空間移動した
「誰だ…」
俺は光の飛んできた方向を向いた
するとそこには
「んな…」
「久しぶりだなぁ、叶。と言っても、そんなに経ってないか」
「テレスティーナ…」
駆動鎧に身を包んだテレスティーナがそこに立っていた
テレスティーナ・木原・ライフライン
俺の従姉の名前だ
そして木原一族で、この一週間ほど前に春上衿衣を絶対能力者に進化させようとした張本人だ
「どうしてここに…。暗部の猟犬部隊辺りに配属されたって聞いたぞ」
これは木原のコネを使って得た情報だ
信用に足る情報だが、どうなっているのだろうか
「ああ、その通りだ。よく調べたなぁ。だがな、挽回のチャンスを得たんだよ」
「なんだと」
「お前が実験や私の情報を握ったみたいに、上もお前がこそこそ何かしてるのはお見通しだったんだよ。それで、私に処分しろと命令したわけだ。成功したら、暗部から足を洗えるってことだ」
…そういうことか
これからは情報の発信源に気を使わないとな
っと、そんなこと思っている場合じゃない
「あんときは能力体結晶を体晶として扱われたから負けたが、今度はそうはいかねぇぞ。この前よりも格段に強化したこれ」
そういってテレスティーナは傘のような棒を取り出した
「この超高電圧型超電磁砲hs-08kaで、お前をぶっ飛ばしてやんよ!」
といってそのhs-08kaを俺に向けた
…でもこれって
「でもこれって、死亡フラグじゃね?」
俺は呆れた声で言い放った
「なんだと?」
「だからさァ、そンだけ自身満々に武器の紹介してるってのは、死亡フラグじゃねェのかって話よ」
俺の口調は、既に変わっていた
まあ、漫画とか小説なら普通に死亡フラグだよね
「…フッ」
不意に、テレスティーナが笑った
「何がおかしいンだ?」
俺は眉を訝しめた
「いやぁ、確かにこんだけ言ってりゃぁ、そう思うかもな」
するとテレスティーナが真上の空に向けてレールガンを展開した
「でも、これを見てからでもそんなこと言えるのか?」
そしてトリガーを引いた
刹那、天に向けて光芒が伸びていた
その光は、俺や御坂が鉄球やコインを使って放つ超電磁砲よりも格段に太かった
…いや、見たことはあった
「これは…御坂があン時お前のワークローダーに向けて放った…」
そう
テレスティーナの起こした絶対能力進化実験の時に、奴を一時撤退させるために使った、ワークローダーの爪を使った超電磁砲が、そこにあったのだ
「そうだ!あの時のデータを使って改良したモンだ。さっきお前を気付かせるために使ったあれは、ほんの10%も使ってなかったんだよ!」
…参ったな
これじゃ容易に近づけないじゃないか
どうする…
時間はないぞ…
「オラオラァ!もたもたしてるヒマはないぞ!」
テレスティーナは、俺に向かって超電磁砲を撃ってきた
流石にさっきほどの威力はなかった
俺はすぐに空間移動した
「…流石にビームが曲がるなンて、そンな無茶な事ァねェよなァ」
「ところがぎっちょん!」
テレスティーナがなにかカードのようなものを投げた
まさか、『拡散支援半導体(シリコンバーン)』!?
そう思った俺は、拡散して来るビームに備えて、その射線上から逃れた
しかし
「何!?」
そのカードを通過した途端、空間移動して射線上を逃れたはずの俺に向かって光が曲がったのだ
俺はとっさに光に向かって右手を向けた
そしてそこを中心にビームを拡散させた
自身の発する電気を使って電流に干渉したのだ
「ンだよあれ…。あンなの聞いたことねェぞ…」
俺は重力に流されながらぼやいた
「お前は初めて見るかも知れねぇがなぁ、これは『屈折支援半導体(シリコンプリズム)』といってなぁ。懐中電灯からビームまで、あらゆる光線を設定された角度に曲げられる優れモンなんだよ。残念だったなぁ。『拡散支援半導体』かと思って拡散射線上を逃れたみたいだが、予想が違ったみたいで。ま、『拡散支援半導体』もあるけどな」
クソッ
これじゃ、逃げ場があってないようなもんだ
どうする…
いくら空間移動出来るからといって、身体能力は駆動鎧を着たあいつの方が勝っている
どうする…
…待てよ
「ハハッ、もう諦めたのか叶!」
着地して全く動かない俺に向かって、テレスティーナが向かってきた
そうだろうな
動かない敵を倒すのは、赤子の手を捻るより簡単だもんな
だが、俺には勝機があった
そうだ
よく動くなら、動かなくしてやればいいんだよ
「全く、あんまり私を萎えさせるな、ガキが」
テレスティーナは、俺にレールガンを向け、トリガーに手をかけた
「まあ、さっさと死ねよ」
そしてその引き金を―
「…っ!?」
―引くことは出来なかった
「なんでだ!何故指が…。それどころか、全身動かねぇ!」
そりゃそうだろうな
「…なァテレスティーナ、その駆動鎧、何で動いてる?」
「そりゃ、内部バッテリーと全身にある生体電気を感じ取るセンサーで…」
そこまできてピンと来たようだ
それもそのはずだ
俺の体から、電気が発生していたからだ
「まさか…」
「おゥ、そのまさかよ。今お前の駆動鎧にハッキングを仕掛けてやったよ。いやァ、万に一つその駆動鎧が生体電気で動く仕組みじゃなかったらどォしよォかとか考えたけど、結局無駄だったみてェだな」
俺はドヤ顔で言ってやった
生体電気を読み取って動くということは、それと同じ量の電流を流してやる事で簡単に動きを制圧できるということだ
ただ、結構大きなものなので、構造解析に結構時間がかかってしまったが
「クソッ、動けっ!動けってんだよ!」
その間にもテレスティーナは鎧を動かそうとしているが、動くわけがない
「…なんつってな」
刹那、その鎧から何かが飛び出したように見えた
俺は鎧に目を向けるが、既に空だった
「何っ!」
「こっちだ!」
言葉に釣られて上を見る
するとそこには、黒い全身スーツを着たテレスティーナがいた
…脱出装置は仕掛けてあったみたいだな
当たり前か
「阿保か。それくらい予想済みなんだよ、クソアマが!」
その手にはナイフが握られていた
「これでお前の喉元刈っ切ってやんよォ!」
…はぁ
俺は知らぬ間にため息をついていた
すぐに駆動鎧から目を離し、真上のテレスティーナに目を向ける
―ありったけの呆れ顔を作って
その顔に気づいてか否か、テレスティーナは俺の喉元にナイフを突き立てた
しかし、その切っ先が俺に当たることはなかった
「…あれ」
それどころか、ナイフの方が曲がっていた
「お前、阿保かよ…。俺の行動調べてても、俺の能力を調べてないなンざ自殺すンのと変わんねェじゃねェか…」
窒素装甲
これで何回使ったか分からない、鉄壁の盾を俺は展開していた
「ああ…あああ…」
俺は拳を鳴らしてテレスティーナに向き直った
「ちィとばかりは手加減するがまあ…気絶するかもな?」
俺は窒素装甲を纏ったまま、テレスティーナを殴りつづけた
「…まあ、こんなもんか」
一応、死なない程度には加減しておいたが、一時間くらいは立ち上がれないだろう
俺は駆動鎧に備え付けてあったケースから『拡散支援半導体
作品名:とある夢幻の複写能力<オールマイティ> 作家名:無未河 大智/TTjr