とある夢幻の複写能力<オールマイティ>
と『屈折支援半導体』を拝借すると、すぐに立ち去ろうとした
「―待て、叶」
しかし、誰かに呼び止められる
「テレスティーナ、お前、まだ動けるのか」
テレスティーナが、寝そべったまま俺に話し掛けていた
「動ける訳無いだろ。…ぞれより、面白いことを教えてやるよ。お前を調べてる時に得た情報だ」
「面白いこと?」
俺は眉間にシワを寄せた
「ああ。お前の、その能力の本質だよ」
俺の能力…複写能力の本質?
「…ただ能力を複写して、自分のレベルで使うってだけじゃないのか?」
「ああ。それはただの付随能力だ。本質はそこじゃない」
なん…だと…
「それは…なんなんだ…?」
「ああ…それは…」
刹那、一発の銃声が聞こえた
気がついた時には、テレスティーナは動かなかった
その背中からは、血糊が溢れていた
「テレスティーナ…」
俺はしばらく目をつぶった
そして、銃声がした方向へ目を向けた
「…遅かったか」
しかし、そこに人影はなかった
どうやら逃げられたらしい
俺に知られてはいけないことなのか?
俺の能力の本質…
だが、それに考えを向けているヒマはなかった
俺はすぐに時計を見た
「やべぇ、もう八時五十五分じゃねぇか」
すでに実験開始から二十五分が経過していた
もう、10032号が犠牲になっているかもしれない
基本的に実験は、十五分以内に終わっていた
なので、もしもの事態を想定してしまう
急がねば
俺は空間移動をしようとした
しかし
「あれ…?」
飛べなかった
「…やっぱり、限界が来てたか」
そういえば今日は能力使いっぱなしだったな
だが止まるわけにはいかない
俺は全力で走った
そして気付いた
「…風?」
風が吹いていた
「この風は、自然の風じゃない。何かがおかしい…」
考えながらも、俺は走っていた
刹那、目の前に異様な光景が浮かんだ
―常盤台の制服を着た人間が、一斉に風車に電気を浴びせて回転させている姿を
しかも風車は、ある一定に統率されて逆回転していた
「『妹達』!?なぜ…」
その全ての顔は、皆同じだった
無論、『妹達』だ
しかし、なぜ『妹達』が風車を逆回転させているのか
俺は一人呼び止めて聞いてみた
「おいミサカ、何をしているんだ?」
「貴方は…天岡叶ですねと、ミサカは確認をとります」
いや、だから…
「そうだが…。いやそれより、何をしているんだ?」
「はい、実は、一方通行が自身の能力により、風からプラズマを作り出したのですと、ミサカは状況を説明します」
まあ、出来ないことはないだろうし、あいつならできるだろう
「その映像が、ミサカ10032号からミサカネットワークを通じて配信されたのです。そして、『オリジナル(お姉様)』から指示されたのです。"吹いている風を乱す風を起こせるように風車を逆回転させて"と」
…そうか
確かに、ある一定の電流を浴びせると、風車は逆回転をすると聞いたことがある
なるほど、それを知ってか
「そうか。邪魔して悪かったな」
俺はきびすを返して実験場へ向かった
「どこへ行くのですかと、ミサカは尋ねます」
俺はフッと笑い、答えた
「お前のお姉様を、助けにだよ」
俺は再び走り出した
予定されている実験場は、そこからすぐだった
そこで信じられない光景が、俺の目に映った
「何があったんだよ…」
なんとそこでは、上条と一方通行が両方倒れていたのだ
しかも二人ともぴくりとも動かない
こんなことがあるのか…
俺は辺りを見渡した
するとすぐそばに御坂がいた
「御坂…」
「ああ、アンタ。遅いわよ」
声をかけると、すぐに御坂は気付いた
どうやらそんな軽口を叩けるくらいにはなっているらしい
「仕方ないだろ。テレスティーナと戦ってたんだから」
「えっ、あの女、警備員に拘束されてるんじゃ?」
まあ、表向きはそうだろうな
「…色々あるんだよ」
こいつはまだ、暗部を知るには早い
俺は一応隠しておくことにした
無論、奴が死んでいることも
「んで、どうなったんだ」
俺は一番疑問に思っている事を訊いた
「…あの馬鹿よ」
その質問に、御坂はある男に目を向けて答えた
上条だ
彼はまだ動けないらしい
「あの馬鹿が、一方通行をやっつけちゃったのよ。右手だけで」
なるほど
どうやらあの右手は、学園都市第一位の反射をも打ち消してしまうらしい
謎が深まるばかりだな
…っと、それは置いといて
「…あんなぼろぼろなのに、私たちのために、あんなに頑張っちゃって」
上条らしい、といえばそうか
記憶をなくしても、その心は変わらないらしい
「…ま、一件落着ってところか」
「…そんな風には見えないけど?」
それもそうか
俺はすぐに救急車を呼んだ
実験の事は触れない程度に事情を話し、二人を搬送した
また、10032号も病院へ運んだ
一方通行と戦闘した時の傷は深いはずだ
治療が必要だろう
そう判断した結果だった
そして、御坂は学生寮に返した
病院について行くと言い出していたが、それよりも奴の体が心配だった
ここ何日か昼夜関係なくぶっ通しで施設破壊に身を投じていたはずだ
俺はそれを見逃す訳無かった
というわけで、俺が救急車について乗ることにした
俺は三人をドクターのいる病院へ搬送するように指示した
一応、全員顔が利く医者だと踏んでいたからだ
まあ、大きな病院がそこしかなかったからそこへ行くしかなかったのだが
「じゃあドクター、お願いします」
「うん。分かったよ?」
いつも通りの会話だ
「…上条の件、聞きましたよ」
俺はドクターにそっと、耳打ちをした
「どこまで聞いたのかな?」
「脳細胞が破壊されているというところまで」
「そうかい。じゃあ、全て聞いたんだね?」
俺は静かに頷いた
「どうしても、治らないんですか、『冥土帰し』…?」
「うん、そうだね。脳細胞が破壊されている以上、それを治したところでそれと共に失われた記憶まで復元することは、理論上不可能だね?」
…予想はしていた
でも、どこかに道はある
そう思いたい
「でも、どこかに治す方法はある。そう思いたいです」
俺は、それだけ言うとドクターにお辞儀をしてその場を去った
「…」
その時にドクターが言った言葉を、俺は覚えていない
八月二十二日
俺は、無論母さんに怒られた
朝から怒鳴り声をあげられてしまったが、俺は静かに聞いていた
そして、優しく抱きしめられた
少し照れ臭かったが、それだけ心配していたというのは分かった
「ありがとう、母さん」
俺はそれだけ言うと、すぐに出かけて行った
一粒だけ、涙を流した母さんには悪いと思いつつ
出かけた先は、一七七支部だった
俺から出向いたのではない
呼び出されたのだ
用件は、昨晩の実験の調査だ
…いや、昨晩の事は他の人間は知らない
不振な爆発があったとしか伝えられておらず、それを警備員が調べるというのだ
とは言うものの、俺が行く義理はどこにもなかった
しかし風紀委員を数人寄越せと通達があったので、仕方なく俺と白井という、ある意味実行部隊といえる面子が行くこととなったのだ
「全く、なんでわたくしたちがこんなことを…」
そんな白井はぼやいていた
「仕方ないだろ。連日の業務で警備員は疲れてるんだ。俺達が引っ張り出されるのも無理ないだろ」
俺は出来るかぎり静かに白井を宥める
作品名:とある夢幻の複写能力<オールマイティ> 作家名:無未河 大智/TTjr