とある夢幻の複写能力<オールマイティ>
「そうじゃん。だからお前達はたよりにしてるじゃん」
…どうやら黄泉川先生に聞かれていたらしい
そんな風にだべっているうちに、現場に到着した
どうやら昨晩のうちに爆発以外の箇所は片付けられたらしい
おそらく『妹達』がやったのだろう
「じゃあ、第一発見者である天岡の証言の元、実況見聞を開始するじゃん。まずは、白髪(はくはつ)の少年役とツンツン頭の少年役の君から―」
黄泉川さんの指揮により、実況見聞が開始される
俺は自分の目で見たものを事細かに話していき、昨晩の事を忠実に再現していった
…ある一点、実験に関する情報だけは伏せてある
当然、今朝がた目を醒ました当人達には、適度に嘘をつくように仕込んであるので、その辺は大丈夫だろう
見聞の間、他の警備員や白井、他の支部から呼び出された風紀委員達は、周辺の捜査をしていた
そんなときだ
俺は白井の事が気になった
何やら石ころぐらいの大きさのものを拾って、呆然とそれを眺めているのだ
「どうした、白井」
俺はたまらず声をかけた
「あ、天岡さん。いえ、なんでも有りませんの」
白井は俺に気づくやいなや、それをポケットの中にしまい込んだ
よくは見えなかったが、どうやらコインのようなもののようだ
おそらく、昨日御坂が落としたのであろうゲーセンのコインなのだろう
「現場の物を持ち帰ろうとなんかするなよ」
「いえ、そんなことは…」
まあ、白井も何か気になるのだろう
あれだけ周囲には秘密にしていたことだ
白井だって奴の力になりたかったのだろうが、御坂がそうはさせなかった
『妹達』の事なんて知ったら、それこそパニックを起こすかもしれない
そう踏んでいたのだろう
俺は今回は見逃すことにした
俺だって、あいつに口止めされている身だ
それくらいはしてやってもいいだろう
「とりあえず、そんなところでボーッとしてないで、捜査に戻れよ」
「はいですの」
俺はその場を立ち去った
そして、実況見聞は恙無く終了した
解散してすぐ、俺は病院に向かった
無論、上条と一方通行の入院している病院だ
入ってすぐ、面会の申込をした
なにやら、一方通行は面会拒否を出しているらしく会えなかったのだが、上条の部屋へはすんなりと入れた
「おーっす、上条」
ドアを開けた瞬間、飛び込んで来たのは―
「ん?おお、天岡じゃないか」
―奴のヌード姿だった
…いや、上半身だけだったが、それでも男の裸なんてそうそう見るもんじゃねーよ
というわけで俺は扉を閉め―
「ちょっとちょっと、なんでそこで扉を閉めるんでせうか!?」
―ようとするところで上条に止められてしまった
まあ、当然か
「いや、目に入れてはいけないものが飛び込んで来たからな」
「それってなんなんでしょうねぇ!俺の裸ってそんなに見たくないものなのかねぇ!」
どうやら冗談が通じるくらいには快復しているようだ
…こいつの生命力…伊達じゃない
「…なんか、心の中ですごく馬鹿にされた気がする…」
「気のせいだ。それより、大丈夫なのかよ。介護無しで着替えなんて」
そういえば、こいつの体には大量の包帯が巻かれていた
所々血が滲んでいたりして、昨日の闘いの凄まじさを物語っている
「ああ。こんなの、日常茶飯事だしな」
「日常茶飯事って…」
こんな怪我、そうそうすることじゃないぞ…
「ま、そんな様子だと、大丈夫みたいだな」
俺は少し安堵した
上条がこの様子ならば、一方通行はもっと大丈夫か
あいつは殴られただけだしな
俺達はそのあと、他愛もない会話をしていた
どうやら、俺が来る前に御坂や10032号が来ていたらしい
…本当にこいつは不幸なのだろうか…
最近疑問になるよ俺
「…で、いつ退院出来そうなんだ?」
俺は一番疑問になっていることを訊いた
すると上条はとんでもないことを言いやがった
「ああ、明日だ」
「そうか、明日か…って、明日!?」
俺は一瞬奴が何を言っているのか分からなかった
どうやら明日、こいつは退院する気らしい
「なんでまた…」
「いやなあ…ひもじい思いして待ってる同居人がいるんだよ…」
ひもじい思いて…
自炊できない同居人でもいるのかよ…
てか、こいつ同居人いたっけ?
「…まあ、そういうことなら致し方ないな」
「それに、入院費も馬鹿にならないしな」
それもそうか
「不幸な人間は、金を卸すのも一苦労だったな」
「うるせぇ」
そのあと一言二言言葉を交わして、俺は病室を去った
「…と、そんなわけだ」
叶は、ふぅとため息をついた
「なるほど。ミサカ達を助けるために叶も奔走してたんだねぇって、ミサカはちょっと感心してみたり」
番号無しは、叶を褒めているようなふうを醸し出していた
実は番号無しが、叶に絶対能力進化実験の事を聞いたためにこのようなちょっとばかし前の話が繰り広げられていたのだ
「…どうして上から目線なのか気になるがな」
「そこは気にしちゃダメなんだよって、ミサカは叶を宥めてみたり。ちっさいこと気にするようでは、女の子に嫌われちゃうぞって、ミサカはお姉さんぶってみる」
そんなことを言いつつ、番号無しは踏ん反り返っている
「そんなこと、どうでもいいわい」
その様子を見ていた叶は、呆れた目で少女を見ていた
「ちょっとー、叶酷くない?って、ミサカは腰に手を当ててプンスカ怒ってみる!」
少女はその様子が気に食わなかったのだろう
可愛らしく頬を膨らませて怒っていた
「うわっぷ」
叶はたまらずその膨らんだ頬を指で押していた
「か〜な〜い〜!って、ミサカは本気で怒ってみる!」
「悪かったって。ちょっと買い物行ってくるわ。何か欲しいものは?」
叶は番号無しの頭を撫でながら彼女を宥めていた
どうやら叶の方が一本上手だったらしい
「ん…、って、そんなんじゃ騙されないんだから!って、ミサカは撫でてもらった事を嬉しく思いつつも、それに騙されない事をアピールしてみる!…とりあえず、まだ暑いから、アイスを所望してみるって、ミサカはちょっとばかりの期待の目でお願いしてみる!」
―騙されてんじゃねーか、ばーか
叶はそんなことを思いつつ、少女の頭を撫で続けていた
「んじゃ、行ってくるわ。留守番頼んだぞ」
「はーいって、ミサカは元気よく手を挙げて叶を見送ってみる!」
叶は、番号無しに見送られて家を出た
少しだけ、不安は残っていたようだが、それよりも嫌な予感がしていた
そんなときだった
彼の目の前に人影が現れた
その人影は、常盤台の制服を着ていた
短い茶髪に、清楚な顔立ちの少女だ
「おい、ミサカ…何号だ?」
叶はその少女に話し掛けていた
その少女は、頭にゴーグルのような物を装着していた
「ミサカの事ですかと、ミサカは貴方に対して疑問を投げかけます」
「そうだよ。俺は天岡叶だ。ミサカネットに繋げば、俺が誰だか分かるはずだが」
叶は淡々と喋る少女に対して普通に会話していた
それもそのはずだ
「それは聞かなくてもわかります。ミサカの検体番号は、10032号ですと、ミサカは貴方の疑問に答えます」
その少女は、『妹達』の一人だった
「なんだ、あの時のお前か。その後、傷の具合はどうだ?」
叶はミサカに疑問を投げかけた
作品名:とある夢幻の複写能力<オールマイティ> 作家名:無未河 大智/TTjr