とある夢幻の複写能力<オールマイティ>
というわけでローラー作戦と称した無理ゲーを叶は強いられていた
そんなときだった
「天岡!」
聞き覚えのある声
叶の予想では、ツンツン頭の超絶不幸男のはずなのだが
「あっ、上条」
「そのなんかRPGで雑魚モンスターとエンカウントしたみたいに言わないでくれませんかね!」
予想通り激烈超絶スーパー不幸ツンツン男子高校生だった
「なんか、どこかでひどい言われようをした気がする」
「気のせいだ多分」
当麻の疑問を叶は華麗にスルーし、話を続ける
「どうした、またなんか巻き込まれたか?」
「ああ。それが結構ヤバイ事態なんだよ」
どうやらいつも通りの不幸が発揮されたらしい
記憶をなくしてもそこはしっかりしていた
「で、どうした。こっちも忙しいんだ」
「ああ、打ち止めを探してるんだが、どこへ行ったか知らないか?」
その言葉を聞いて、叶は顔を訝しめた
「どうした天岡」
「…実は、俺も打ち止めの行方を探していたんだが、目の前でさらわれてしまった」
「なんでだ!?お前超能力者じゃないのかよ!」
「…雑魚に足を引っ張られているうちに、連れていかれた」
叶は少し事情を隠して大まかに上条に話した
「そうか…。悪い、一方的に怒鳴って」
「いいさ。そう言いたくなるのも分かる。で、そっちはなんで打ち止めを?」
「ああ、学園都市に魔術師が忍び込んで、それを追う過程で打ち止めを保護したんだけど、その魔術師に見つかって逃がしたんだが、その後がわからなくなってたんだ」
「そうか」
そして上条はおもむろにポケットに手を入れて何かを取り出した
それは、ピンク色の箱のような物だった
「一応、これで保護者らしき人に連絡は入れたんだがな」
「それ、打ち止めの携帯電話か」
叶はそれを見て目を見開いていた
「実は、訳あって保護者には縁があるんだ。それ、預かっていいか?必ず打ち止めを助けた後で本人か、保護者に返すから」
「ああ、頼む。俺は魔術師を追うから」
「…死ぬなよ」
「お前もな」
二人はそれだけ言葉を交わすと、別々の方向へ走り出す
ある程度走り当麻が見えなくなったところで、叶は打ち止めの携帯電話を開いた
そこからある番号を探しだし、電話をかける
数回のコールの後、すぐに繋がった
『なンだ、まだ用か?』
「俺だ、一方通行。天岡だ」
『天岡…どォしてお前が?』
かくかくしかじかと、叶は一方通行に事情を説明する
「…すまない、打ち止めを見失って」
『いや、とりあえずガキを助けることが先決だ。お前も続けて頼む』
「分かってる。とりあえず、数多の場所は…」
叶は先ほど数多の部下を脅して手に入れた情報を一方通行に伝えた
『調度よかった。木原の寝床を探してたところだったからなァ』
「…攻めに行くのか」
『当たり前だ。あのガキは死ンでも助ける。そォ決めている』
「なるほど。それがお前なりの償いって訳か」
『悪ィか』
「いいや、悪くは無いさ。…とりあえず、死ぬなよ」
『互いになァ』
それだけやり取りをして叶は通話を切断した
そしてたった今告げた数多の居場所の座標を計算する
「あそこなら、テレポートすりゃ一っ飛びだな」
刹那、叶の目が変わった
なにやらぶつぶつと言っている
何故彼がこのような複雑な演算をしているのかというと、この場から一回の空間移動で数多の居場所まで跳ぼうとしているのだ
つまり
一つでも計算をミスすればどこに出るかわからない
最悪どこかの壁に埋まってしまうことだってありえるのだ
「…よし」
どうやら計算が終わったようだ
叶は意を決し、空間移動に入ろうとした
その時だった
「待てよ、『八人目』」
どこからか声が聞こえた
叶は今の声に集中力を乱され、空間移動を断念せざるを得なかった
「誰だ、俺をその呼び方で呼ぶのは」
怒りを滲ませた声で言葉を発しながら叶は振り向く
「よお、複写能力。第二位さんが御出ましだぞ」
「…今この時ほど連続テレポートでさっさと飛べばよかったなんて考えたことはないわ」
叶を呼び止めた少年
金髪のイケメン面をした少年は、叶が写真のみで見たことのある存在だった
学園都市第二位の超能力者
未元物質をその身に宿す能力者
暗部組織『スクール』のリーダー
垣根提督
それが彼の名だった
「垣根…。実際に会うのは初めてか」
「だが、会いたくはなかったんだよな。上の命令だから仕方が無い」
垣根は心底退屈そうに言ってのける
その様子は態度にも現れていた
「…そういえば、心理定規とヘルメット被ってた少年はどうした。あいつらも『スクール』のメンバーじゃなかったっけ?」
叶は垣根に質問する
実際、垣根は一人でここにいた
垣根はそれにぶっきらぼうに答えた
「邪魔だから置いてきた。特に心理定規なんて心理掌握を複写したお前と相対したら逆に掌握されそうだったからな」
「なんだ、そこまで情報を手に入れていたか」
「あんまり暗部の情報網舐めんじゃねーぞ。こんな情報簡単に手に入るさ」
なるほど、と叶は独語した
絶対能力進化実験の時に、同じようなことをテレスティーナが言っていた
―やはり、暗部は危険か
叶は少し身構えた
「こんなとこまでわざわざ来たってことは、何か意図があるんだろ?」
「いや、ただお前がどこかに行くのを妨害しろと言われただけだ」
「そォかい。とりあえず退け。死にたくなければなァ」
叶は少しずつ感情を高ぶらせていった
目の前にいる相手は腐っても第二位だ
手を抜けば殺されかねない
それを叶は分かっていた
「オイオイ、こんなところでおっぱじめようってのかよ」
「お前がこンなところにいなけりゃ、俺はこンな無駄な事はしなくていィンだよ。だから退け」
「嫌だって言ったら?」
「―ぶっ殺す」
叶は言葉とともに何かを投げる
刹那、垣根の目の前が真っ白になる
叶が原子崩しを発射したからだ
「…情報は聞いていたが、マジで原子崩しを複写してんのかよ」
厄介だ、とでも言うような顔で垣根は避けるために飛び上がる
「遅ェよ、三下」
叶はニヤリと笑った
瞬間、放たれた光線が垣根の真下で直角に曲がったのだ
「何!?」
垣根はとっさに能力を展開した
刹那、少年の背中に六枚の白い翼が生えた
少年はそれを使って飛行する
辛うじて紙一重というところ粒子波形高速砲を避けて見せた
「やるじゃねェか。能力の恩恵か。今はそのメルヘンな能力に感謝だなァ」
「うっせぇよ『八人目』。…『屈折支援半導体』か。さっき投げたのはそれか。どこで手に入れやがった?」
「死んだテレスティーナからちょいとな。別に死体から身ぐるみ剥いだ訳じゃねェぞ。奴が脱ぎ捨てた『駆動鎧』から拝借しただけだ」
両者睨み合うような形で会話する
一触即発
その言葉がピッタリと当て嵌まる状況だった
どちらかが動けば殺し合いが開始される
「まあ、死ぬのは変わり無いよな『八人目』!!」
先に動いたのは垣根だった
背中の羽から牙のような物を大量に生成する
それを叶へ飛ばす
「―っ!」
叶はそれを能力を使って弾いて見せる
その牙は真っ直ぐ来た道を通って垣根へと帰っていった
垣根は戻ってきた牙を自身に当たる前に掻き消す
いや、元の未元物質に戻したのだ
「…一方通行を複写済み…か。どうやら情報通りみたいだな」
「分かってンならどォして試した?」
作品名:とある夢幻の複写能力<オールマイティ> 作家名:無未河 大智/TTjr