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Prayer -祈り-

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6.ハプニング



ハリーが箒に乗って戻ってくると、ドラコは予想外の場所にいた。
大きな木の枝に足を掛けて、上へとよじ登っていたからだ。
「いったい、何しているの、マルフォイ」
慌てて箒の柄を下に向けて、相手に近づく。

「枝のどこかに引っかかっていないか調べているんだ」
「そんな高い場所まで登って、危ないよ」
「別にそんなことはないさ、こういうのは慣れているし」
そう言うと手近な大きな枝に腕を伸ばし、自分の上体を引っ張り上げ、枝に足を乗せて立ち上がった。
「ほら、なっ!」
手をひらひらと振って、余裕のポーズで合図をする。

「へぇー……。本当に木登りが上手なんだ」
「まあね。屋敷にはいっぱい立派な木があったから、子どもの頃は片っ端から登って遊んでいたからな」
ドラコは楽しそうに答えるので、つい自分もその話に乗ってしまう。
「じゃあさ、嫌なことを言いつけられると、逃げ出さなかった?慌てて木に登って隠れたりもした?」
「――ああ、そういうこともあったな。よく隠れていたよ」
「僕と同じだ」
悪戯っぽくニヤッと笑いかけると、相手も自分と同じような笑みを返してきた。
育った境遇が全くちがっているのに、共通の話題があることが分かって、なんだか弾んだ気持ちになってしまう。

「僕は枝と枝の間を探すから、君は上から見下ろすようにして探してくれないか?」
ドラコが指示を出すと、「リョーカイ!」とハリーは気軽に答えた。
箒をしっかり握りなおすと、ドラコから離れて上へと登っていく。
大きく旋回を繰り返しながら、ことさらスピードを落として、じっくりと木々の間に目を凝らした。
あのペンダントは大ぶりだったけれど、そんなにとりわけ目立つほど大きい物ではない。
この広い裏庭の木々のあいだに引っかかっているとしても、見つけるのは容易いことではなかった。
落ちた場所が大体分かっているとしてもだ。

しかし、今のハリーの気持ちとしては、当分見つからなくてもいいと思っていたりする。
(そりゃー、自分が原因だし、見つかって欲しいことは欲しいけど、すぐには見つからなくても別にかまわないかなぁ)と言うのが本音だった。
昨日から何度となくドラコと普通に言葉を交わしているのが、なんだか目新しくて面白かったからだ。

不機嫌じゃない、けんか腰でもない相手は、結構話しやすくて楽しい。
ボロボロとこぼしながら食べている姿も、どう見てもカッコよくはないジャージ姿も、なんだか親近感が沸いてしまう。
尋ねるとじっと見詰める癖も、食べ物に釣られる性格も、笑うと意外と人懐っこいのも、結構いいなとか。

今まで自分が一方的に「ちがう」とか、「ないものだ」と思っていたことが、次々と覆されてばかりだ。
(こういうのって悪くないよなぁ)などと、気楽に思ってしまう。
気が合うってことは、とても重要なことなんだ、自分にとって。

ハリーは人間関係には神経質な部分があり、相手を無意識に選別をしてしまう癖があった。
それは過去の叔母の家での惨めな生活や、マグル界で友達がひとりも出来なかった境遇や、こちらの世界での度重なる無責任な期待や希望を押し付けられることによる原因に基づいている。
ハリーは常に『これ以上近づかないで欲しいというライン』を、相手との間に引いていた。
それより中へ入れるのはほんの一握りの、選ばれた数人の人物しかいなかった。

天気のいい日差しの下で、箒に乗ってゆったりと旋回しながら回っていると、鼻歌でも歌ってしまいたいほど楽しい気分になってくる。
箒に乗ること自体が楽しいし、背中はポカポカと温かくて、自分に向かって吹いてくる風は逆に冷たくて気持ちがいい。
ご機嫌な休日だった。
何度も瞳を凝らしつつ、ハリーは空を舞った。

そのときチラリと光ったものが目の端に見えたような気がする。
(──んっ?)
ずれためがねの位置を指で直すと、光った場所へとUターンをした。
(確か、ここらの枝と枝の辺りだったけど……)
箒で近づこうとしても、やはり箒の上だとよく分からない。

「あのさ、マルフォイ」
呼びかけると、「なんだー?どうしたんだー?」とのんびりした声が返ってきた。
ドラコもこの上天気の下で、久しぶりの木登りをして気分がいいのかもしれない。
「この僕がいるあたりに来てくれない?この木のあたりに」
「どうした?もしかして、見つかったのか?」
ガサガサと木が揺れて、ドラコが慌てて下へ降りていくのが見えた。

「まっ、ま……、待ってろ!」
急いで駆けてくると、指示をした木に飛びついてくる。
ハリーの目の前で器用に足を引っ掛けて、腕を右へ左へと伸ばしながら、結構早いスピードで上のほうまで登ってきた。

「どこだ、ポッター?どこらあたりで見たんだ?」
「見えた訳じゃないけどさ、ここらへんで何かがチカッと光ったような感じがしたんだ」
「このあたりでか?」
腕を伸ばし枝に乗り上げると、ハリーが指で指したほうへと伝うように進んでいく。
「枝の先へは行かないほうがいいよ。危ないから」
「平気だって」
気軽に答えて、体重が下の枝ばかりにかからないように、両手で上に張り出している枝を掴んで、前へと一歩ずつ歩を進めた。
葉っぱを掻き分けて、小枝を揺らしてみたりして、そのあたりを確かめる。
こういうことは箒に乗っている自分では出来ないことなので、じっと相手の成り行きを見詰めていたら、ドラコは「あっ!」と鋭い声を発した。

「あった!あの枝の先に引っかかっているぞ!」
嬉しそうな顔でその場所へと、枝の先端へと進んでいった瞬間、その枝がポキリと折れてしまい、ドラコは顔を引きつらせた。
「えっ?!」
事態を把握していないまま、足元にあったはずの枝がなくなり、腕を伸ばして掴んでいた枝に宙ぶらりんで釣り下がっていたけれど、その枝もドラコの重さに耐えることも出来ずに、簡単に折れてしまう。

「ああ──っ!!!」
ドラコは二度目の悲鳴を上げると、今度こそ下へと落下していったのだった。

「ドラコ──ーッ!!」
名を叫ぶと同時に、箒を下へと駆った。
フィアボルトは名前のとおり瞬発力には長けた乗り物だ。
加速と俊敏さを得意としている。
ただし加速が付きすぎて、それをコントロールにするにはかなりのテクニックが必要だったけれど、ハリーは箒独特の癖をすでに習得済みだった。

加減することなく最速のスピードにシフトアップすると、ドラコの落ちていく背中を追った。
右手を伸ばし、グンと上体を傾ける。
風がうなるように耳元でビュービューと鳴っているのが分かった。
それだけスピードが出ているのだ。

ドラコが登っていた木は高く大ぶりで、枝葉がぞんぶんに茂っていた。
落ちていく彼の体が大きめの枝に引っかかり、少し上へとバウンドした。
しかし結局はそれだけで、勢いの付いたドラコの重さに耐えることは出来ず、あっさりと枝は折れてドラコもろとも、また下へと落ちていく。

「ドラコ!!」
再び必死で叫んで、肩を掴もうとするけれど、その落ちていくスピードには叶わなくて、ハリーは舌打ちをした。
もう一段箒の柄を下に落とすと、自分の降下する早さに加速をつける。
目の前にはグングンと地面が近づいてきた。
作品名:Prayer -祈り- 作家名:sabure