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Prayer -祈り-

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最速に近いスピードでやっと相手と肩を並べると、腕を伸ばし自分のほうへと引き寄せる。
彼を自分の箒に乗せさえすれば、地面との激突を回避することが出来るはずだ。

しかし地面との距離があまりにも近すぎて、ハリーは自分の考えを瞬時に破棄し、迷うことなく自らそのファイアボルトから飛び降りると、自分の胸の中へドラコを引き寄せた。
それと同時に強い衝撃が右腕を襲った。
「くっ」といううめき声を上げつつ、地面に転がる。
同じようにドサリという音とともに、ドラコも隣に落下したようだ。

「いたたた……」
見ると、苦痛の声を上げながらも、相手はぴくりとも動かない。
「どうしたの?骨でも折れたのか、ドラコ?」
「背中を思いっきり打って動けない……」
うーっという、唸るような声を上げつつ、手足をじたばたさせてなんとか動こうとしているらしいのだが、それは全くの徒労に終わっていた。

「まるでひっくり返ったタートルみたいじゃないか」
笑いながら近づき、相手の腕を引っ張って起き上がるのを手伝ってやることにする。
ドラコはヒィと小さな悲鳴を上げて、「もっと丁寧に扱ってくれ」と懇願するような声を出したので、益々ハリーは笑い声を上げてしまった。

「仕方ないなぁー」と言いつつ、今度は両手を使って背中を支えて、ゆっくりとした動作で、相手が上体を起こすのを手伝う。
「立つことは出来る?」
「うーん……。今はちょっと無理だな、しばらく休めばなんとかなると思うから、こうして座っておくことにする」
そう言いながら、ドラコが無造作に両足を真っ直ぐにポンと前へと投げ出して座った。
前足を投げ出している姿は、なんとなくユーモラスでコケティシュで、まるで子どもが座るときによくやる仕草と同じに見えた。
もしくは、パンダが座って笹を食べているときのあの姿によく似ている。

しかし、トントンと自分の背中や腰のあたりを拳で叩き、「痛てて……」とマッサージする仕草は逆に年寄くさい。
そのアンバランスさに、また大笑いをしてしまう。

ドラコはハリーの笑い声に振り向き、キョトンとした瞳で見詰めた。
「――君は結構、笑い上戸なんだな」
「いっ……いや、別に僕は普段はそんなに笑わないんだけど、君の仕草が面白くてさぁー」
「面白い?この僕が?」
相手は益々意味が分からないという表情を浮かべた。

「僕は生まれてから一度だって、『面白い』なんて言葉をかけられたことがないぞ」
「じゃあ僕が一番最初だ。よかったな、マルフォイ。君は十分に面白いよ」
「君に冗談など喋った覚えはないが……」
「いや、その存在自体が貴重だよ」
笑ってハリーは相手を褒め讃えた。
ドラコは口をモグモグさせて、何かまだ言いたそうだったけれど、面倒臭くなったのか「まぁ、いいか」と呟いて、それ以上の詮索するのを止めることにしたらしい。

「ねぇ、それよりもさ……」
ハリーは笑顔を張り付かせたままで、右手を前に差し出した。
「これ、何だと思う?」
握っていた手をパッと開くと、シルバーの鎖と十字架が、その手の上に乗せられていた。
「あっ!それは僕のだっ!!もしかして、見つけてくれたのか?」
「これが引っかかっていた枝も落ちるときにいっしょに折れたらしくて、となりを見たら転がっていたんだ。お互い、背中や肩をぶつけて痛い思いをした甲斐があったよね」

「本当に僕のか見せてくれ」
まだ痛んでいる背中のことも忘れて、慌てて立ち上がろうとして、ドラコは悲鳴を上げた。
「あいたた……」
背中を庇ってがっくりとひざまずく。
それでもペンダントに近づきたいのか、今度は四つんばいのまま、這うように近寄って来ようとするので、ハリーは盛大に噴出してしまった。
「ドッ……ドラコ。そんな、赤ちゃんがハイハイするときの仕草をしなくていいから、僕が歩くから。そのほうが早いから」
目に涙を浮かべるほどむせながら、ハリーはドラコに近づき、隣に座り込んだ。

金属のサラサラという音を響かせて、差し出した手の上にペンダントを渡す。
ドラコは表を見たり、裏をひっくり返したりして、それをしげしげと見詰めて点検し、満足そうにため息をついた。
「間違いなく僕のだ。ああ……よかった」
しみじみとした声で、ひっそりと呟いた。
「本当に見つかってよかった」
今にも頬ずりをせんばかりに、それを撫でる。

「そんなに大切なものなんだ。君の両親からのプレゼントなの?」
「まさか!そんなんじゃない」
かぶりを振った。

「じゃあ……、誰かほかの親しい身内の人?」
「ちがう」
「友達?」
首を横に振る。
「ええっと……、それなら恋人とか?」
「まさか」
フッとドラコは笑った。

「じゃあ、いったい誰から貰ったの?」
「ノーマンから。僕が10歳になった年に貰ったんだ。形見分けだよ」
「じゃあ、これは遺品なの?」
コクリと頷く。
光の加減か青い瞳がキラキラと輝いて見えた。

ドラコはハリーの目の前で気にすることなく、上着のファスナーを開くと胸元を見せつつ、ペンダントを首にかけてその存在を確かめる。
「これは本当に大切なものなんだ。見つけてくれてありがとう」
ドラコは笑って、ねぎらうようにハリーの肩をポンポンとたたいて笑った。

「今、何時くらいだと思う?」
ペンダントを胸元に仕舞いこみながら、ドラコが唐突に聞いてきた。
「君、時計を持ってないの?」
「いや、あることはあるけど、懐中時計だから部屋に置いてきた。だってほら、この服にはポケットがないだろ?」
滑らかな上着の裾のあたりを触って、それが付いていそうな位置に何もないことをジェスチャーで指し示す。

ハリーは肩をすくめると袖口を上へとたぐり、腕時計を見た。
「ええっと……、だいたい11時30分くらい」
「ああそう。じゃあ、まだ時間があるな」
そう言うとドラコは唐突に地面にバタリと仰向けになった。

「どうしたんだよ、気分が悪いの?!」
慌てて尋ねる。
「ちがう、ちがう。昼食までにはまだ時間があるから、ここで休もうと思ったんだ。背中も痛いし」
大きく手足を伸ばして大の字になり、首をゴリゴリと回した。
そして小さく「うーん……」と唸る。

「そんなに痛むのだったら、医務室まで運ぼうか?肩を貸すけど?」
「いや、別にいい。たかだか木から落ちたくらいで、かっこ悪いし……」
ドラコは自分が落ちた木を見上げて、ため息をついた。

「あれぐらいの木から落ちるなんて情けないなぁー。むかしの僕だったら──」
「──むかしの君だったら、木登りは上手だった?」
相手の言葉を受けて、そのまま質問してみる。
ドラコはあっさりと首を横に振った。
「いや、本当は全然ダメだった。上手じゃなかった。登る端から、ボロボロ落ちてた」
またハリーはクッと喉の奥で笑った。

「いっぱい木登りしたって、威張っていたのに。なにそれ。そんな答えなんて……」
「登るのは登ったけどさ、屋敷の庭園の木はきれいに手入れされているから、登ってその枝を折って、こっぴとく怒られたよ。庭師のエイハブに」
「本当に?君、自分の家の雇っている庭師に怒られたの?」
ハリーは笑いながら尋ねる。
作品名:Prayer -祈り- 作家名:sabure