【腐】貴方と君と、ときどきうさぎ その8【臨帝】
「なんだよ、言いたい事あるなら言えよ」
なんとも言えない新羅からの視線を無視できずに思わず声を掛けてしまった。
「いや、なんか本当に今日は珍しいもの見れたかなーって。
普段の君の帝人君への惚れけ話もなかなかすごい変化だと思っていたけどさ」
「人を珍獣扱いしないでくれる?」
「ははっ良い変化だって言ってあげてるの」
「新羅、一度落ち着いたら帝人君の事診てやって。また連絡する」
「了解」
***
数日後帝人君は自分から話し始めた。やはり自分から
実験に協力したのだという。話しを聞けば本当に検査程度で
非道的な事はされていないと本人から説明をされたが俺が納得せず、
全裸を見せてくれて暴行のされた形跡もひどい傷跡もない事を
確認しようやく納得した。
呪いを解く方法。
そんな方法があるかないかなど帝人君が探していないわけがない。
当然の事ながら帝人君自身は幼い頃から様々な文献を読みふけり
探していたらしい。が、その方法は見つからなかったそうだ。話しを
持ちかけられた時にどうせ今回もはずれ、と思っていたらしいが
俺に対する気持ちが焦りを生ませてしまったんだろう。
ただ、ひょっとしたら、と掛けてみたそうだ。そんなのでたらめだと
はっきりと伝えて彼を叱り付けた時に「そうですよね、やっぱりそうでしたか」
と苦笑いしながら落ち込んだ姿が目に焼き付いた。
新羅の親父さんが絡んでいる事は帝人君も知らなかったようで
それはそれで驚いていたけれど。何はともわれひとまずこの件は終わった。
今の所再び実験施設に行くような事はないし、そのコンタクトも見受けられない。
そして帝人君を診てもらった新羅の一言。
「うん。大丈夫。命に別状はないよ。それと臨也が気にしてた事だけど
帝人君の体調の変化は彼が一番理解しているよ。原因も本人にある。
後は帝人君の口から直接聞いた方が良い」
ってなんだよ、帝人君は帝人君でさっさと一人で帰っちゃうし
聞いても上手くはぐらかされてなかなか話してくれないから
こうしてわざわざ出向いて聞いてるんじゃないか。あれから体調も
持ち直した彼は『事務所の方へ行きますね』とメールをくれた。
それはとてもいい傾向に向かってる。
「…だって!どういうことなの!こんな事今まで一度も……え?
……んで……嘘でしょ!?」
事務所のマンションへ帰るなりよく知る人物の
珍しく荒げた声が聞こえた。帝人君だ。バタンとワザとらしく
玄関のドアが閉まる音を立てれば物凄い勢いで
階段を駆け上がる音と遠くでバタン、どドアの閉る音がした。
俺の部屋の中に掛け込んだな。事務所の中を進み階段を上がろうと
足を一段掛ければスリッパが片方落ちている。よほど慌てていたのだろう。
そのまま進み部屋に入ってみれば帝人君はベッドの中に潜り込み
体を丸めて毛布を頭からすっぽりと被っているではないか。
「何してんの?」
「な、なんでもないです!」
「なんでもないわけないでしょ」
毛布をひっぱるが、物凄い抵抗をされる。
なんだ、どうしたんだ。楽しくなるじゃないか。
「い、い、臨也さん…僕、具合が悪い…みたいです」
「……………」
妙に上ずった声。嘘だってばればれ。
「…そう、大丈夫?また気分悪くなった?」
「は、はい…大丈夫だと、思ったんですけど、すみません…」
「じゃあゆっくり休んでて。俺は大人しく退散するよ」
「は、はい…」
後ろを向いて部屋のドアを閉めた、が
俺は部屋の中。外には出ていない。安堵した彼が
ひょっこりと毛布の中から顔を出した姿に俺は驚愕した。
「…み、帝人君」
耳が、生えている。長くて白い耳が頭の上からにょきりと。
「い、いざやさ…!!!」
いつもの彼は本物の白いうさぎの姿になってしまうというのに。
帝人君は慌てて毛布を被ろうとするがそうはいくか。
俺がその毛布を嫌がる帝人君を無視して強引にはぎ取った。
「随分面白い事になっているね」
「う、うう……み、見ないで下さい!ていうかこっち来ないで!!」
両手で耳を隠そうにも無理があるだろう。長いうさみみ耳は垂れて
帝人君は涙目になっているし何このどっきりハプニングイベント。
「尻尾とかも生えてるの?」
「ちょ、ちょちょ、やだやだやだ!引っ張らないで下さい!」
ベッドから逃げる帝人君を捕まえて後ろから左手を掴んで背中に
回し、ベッドに抑えつけてからズボンを下着ごと下に少し下すと
確かにそれはあった。
「…尻尾、ちゃんとある」
「最低です!臨也さん最低です!!!!」
いや、そんな可愛い姿で顔真っ赤にして怒ってもちっとも迫力がない。
帝人君には悪いけどただの可愛いうさぎが一匹目の前にいるだけだ。
これ以上いじめると本気で怒らせてしまうので仕方なく解放してあげたら
もの凄い勢いでばさっと毛布を頭からすっぽり被ってしまった。
「そんなことよりどうしてそうなっちゃったの」
「僕にも、わかりません…こ、こんな中途半端な
変身なんて今まで一度もなったんです…ましてや
誰かとキスしたわけでもない、のにこんな、こんな…」
「可愛い」
涙目な帝人君に触れようとしたらきっと睨みつけられてしまった。
睨んだ顔も可愛いな、と思いながら俺は帝人君の腕を掴んで
ベッドに押し倒した。ビクリと大げさに体が震える。
互いに絡んだ足から伝わってくる、帝人君の体が妙に熱い。
「い、臨也さん…僕に、さ、…触らないで…」
「何で」
「な、なんでもです!」
とりあえず無視。
「や、やだ!顔近づけないで下さい!!」
どういう理由かはわからないが本気で嫌がっている。
当然気分は良いものではない。いつもなら口で嫌よ嫌よと
言いながらも本気で抵抗などしないのに。
というよりもの凄い顔が真っ赤だ。体も小刻みに震えている。
「あ…あ…なっや、…」
首筋にキスを落とせば体がまた震えて口を魚のようにぱくぱくとさせて、
耳まで真っ赤になっている。おまけに心臓の音がもの凄く早い。
これは、まるで初めて好き合っている人間同士が抱き合って
ドキドキする淡い恋心がそうさえているような症状にしか…
いや、確かに帝人君も始めの頃はそういう傾向があったし
多少ベッドの上で恥じらったりはしていたがここまで酷くは
なかったはずだ。寧ろ最近では帝人君から積極的に行動する事
もあるのに。
「どうしたの、帝人君俺押し倒しているだけだよ?」
「…!…っ……」
もはや、話す言葉も出てこないらしい。ぎゅう、と
両目をつぶった目尻からはボロボロと涙がこぼれ落ちた。
「…わか、らな…っなんで、こんな…ドキドキして……!」
「うん。ちょっと落ち着こうか」
「いざ、やさ…離して…もう、無理!!」
「え?」
必死に突き飛ばそうと両手を伸ばして俺の胸を押そうとする。
そして叩きだした。仕方なくその腕を緩めて解放して俺はベッドを一度離れて
腰を降ろした。帝人君は上半身を起こし真っ赤な顔で荒くなっている呼吸を
整えて、辛そうだ。胸の辺りを手で擦っている。
そんな姿がなんというか、妙にえろい。
「……」
「どうしたの」
何か言いたげにちらりとこちらを見てはすぐに目を逸らされた。
「……………」
まただんまりか。
「…臨也さん、責任、取って下さい」
「は?」
作品名:【腐】貴方と君と、ときどきうさぎ その8【臨帝】 作家名:りい