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こらぼでほすと 拉致1

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 ティエリアも、来年の予定を考えて、そう嗜めるのだが、フェルトも譲らない。戦争が無い世界を作り出すために、組織は活動するのだ。個人的なことなど、瑣末なことだ、と、切り捨てる。次の武力介入が終れば、また、組織は沈黙する。その時に、たっぷりと休暇を楽しめばいい。
「アーデさん、グレイスさん、データを受け取りましたぁ。こちらで、システムをマッチングしますですぅ。」
 ふたりがチェックしたデータは、すぐにミレイナのところへ送る。そちらで、ひとつずつシステムの構築を組んでいるので、連絡が入る。
「ミレイナ、次に優先して欲しいのは、どこだ? 」
「次は、足の稼動システムをお願いしますぅ。でも、休憩しないとですぅ、アーデさん、グレイスさん。」
 グリニッジ標準時間を刻んでいる時計は、夕刻を示している。朝から、ずっと作業していたので、ミレイナから休憩しろ、と、オーダーが入った。
「そうだな。食事して、それから脚部システムのチェックに入る。・・・フェルト、食事だ。」
「うん。」
 人間なので、空腹になるし、長時間、作業を続けると集中力も欠ける。だから、一端、休憩するのも必要なことだ。今までは、アレルヤが、その時間を知らせてくれていたので、ティエリアは、それ以外のことなど無視して働いていたが、相手がフェルトだと、そこも自分で考えて休まなければならない。
「ミレイナ、きみは食事したのか? 」
「しましたよー。でも、おやつは食べたいですぅ。」
「じゃあ、食堂へ来い。何か用意しておく。」
「はぁーいですぅ。」
 ミレイナは、イアンの娘で、彼と同じように技術担当だ。十四歳という年齢だから、ティエリアも、いろいろと気を遣っている。
「きみには、何もしてやらなかったな。」
「ニールがしてくれてたからね。」
「そうだったな。」
 最初の武力介入の時は、フェルトも十四歳だった。その時のティエリアは他人を省みるだけの余裕はなかった。そして、その部分は、ニールが担当してくれていたから、何もしなくても、どうにかなっていたのだ。それらを考えたら、自分には、とても、そこまでのことはできないな、と苦笑してしまう。始動前の時期も、こんな感じの忙しさだったが、ニールは、イベント事は、きっちりとやってくれていたからだ。

・・・・それすら、俺は全否定していたな・・・・・

 組織で、そんなものはやる必要が無い、と、ティエリアは参加しなかった。それでも、何かしらのものは部屋まで届けてくれたり、食事時間にやってくれたりしていた。そういうものが、組織だからこそ必要なのだと、今ではティエリアも理解している。緊張状態の続く仕事だから、息抜きも必要なのだ。
「フェルト、クリスマスは、どうする? 」
「ケーキぐらいは準備するつもり。」
「物資の輸送船にリストを頼んであるのか? 」
「うん、ミレイナと考えて依頼した。」
「そうか、俺がやるべきことなんだが・・・」
「ううん、あたしのほうが、ティエリアより仕事は少ないから、こういうのは、あたしがやるね。ニールにカードくらいは送ろうかなって思ってたの。」
「そうだな。『吉祥富貴』との秘匿通信に載せれば送れるだろう。できたら、教えてくれ。送るから。」
「ありがとう、すぐに作る。」
 これらのイベントも、元はといえば、ニールがやっていたことだ。さすがに始動中は、イベントも縮小傾向だったが、それなりに用意してくれていた。すっかり、その時期を感覚で身につけたティエリアとフェルトも、ついついイベントはやる気になるのだ。




 翌日まで、ぐっすりだったハイネが起き出したのは、午後を回った時間だった。起きたら、枕元にホットサンドと水筒に入った紅茶が置かれていたのには、驚いた。もしかして、夜中に目を覚ましたら、と、寺の女房が軽食を差し入れしておいてくれたらしい。それらを、もぐもぐ食べて、時間を確認すると、食器を持って立ち上がる。家に近いほうの脇部屋を覗いたら、案の定、寺の女房は午睡していた。時間的に、もう少しすると、おやつの時間だから、また、その時に食べさせてもらうか、と、家のほうへ降りる。寺のほうには、坊主が居座っていた。
「世話になってるぜ? 三蔵さん。」
「生きてやがったか。ハイネ。」
「まだ死ぬほどの無茶はしてないさ。さすがに草臥れたけどさ。」
「腹が減ってるなら、カレーがあるぞ。」
「お、いいね。」
 本日のおやつはカレーだったらしい。そりゃ有り難いと、台所へ出向く。ホットサンドで、空腹は収まったが、満腹はしていなかった。店には出勤しないから、夜も、このメニューかもしれないと大盛りにはせず、ちょいと軽く盛り上げる。
「来週からフル参戦するけど、今週一杯、俺は休む。」
「そうか、それは都合がいい。おまえ、うちの女房のアッシーしてくれ。」
「了解。」
 ここんところ、年少組は悟空を除いて、みな、別荘のほうへ詰めているので、アッシーがいなかった。食料の買出しは悟空が付き合っているのだが、日用品なんかはホームセンターへ遠征しなければならない。ホームセンターはクルマでないと、ちと距離があるのだ。
「そろそろか? 」
「いや、まだ準備段階。店を休むのは来年の後半ぐらいになる。」
「その割に忙しそうに動いているな。」
「準備も、それなりにやっとかないとならないし、年末年始に、ちょいとイベントがあってな。それで忙しいんだ。・・・とりあえず、あんたらとトダカさんは動かさないから、のんびりやっててくれ。」
「ちびは帰らないのか。」
「うーん、十一月に出たからなあ。ちょいと無理だろうぜ。」
「桃色子猫は? 」
「まだ連絡は無い。降りてくるとは思うんだが・・・いつになるかは不明だ。」
 そうか、と、坊主は黙った。
「何? フェルトちゃんの降りて来るのが楽しみなのか? 三蔵さん。」
「いや、うちの女房がな、心配してるんだ。」
「あー、そうか。とは言ってもなあ。確定情報はないから、なんとも言えないんだよな。」
 クリスマスの頃から年明けの松の内まで休暇の予定である桃色子猫だが、それだって組織の都合で確定ではない。あちらも準備は佳境に入っているから、確定情報が届かない限り、ハイネも降りてくるとは断定できないのだ。だから、寺の女房に伝えてやることはできない。
「降りて来られないって事態になったら、なんか考えるよ。年末年始は、何かと用事があるから、それに気を取られてくれれば、どうにかなるかな。」
「大掃除と年越しと里帰りか・・・まあ、そんなとこだろうな。」
 予定通りの降下連絡がないだけで、味噌汁の味がおかしくなっている。そう考えると、これから先は、坊主でも気になる。本格的な再始動をすれば、その情報は一般人にも流れてくるだろうし、情報管制の敷かれた状態でのニュースなんてものは、体制側に有利なものであるだろう。それを知ったら、寝込むどころで済むのかわからない。
「どうやっても情報のシャットダウンは無理だけどさ、それなりに隠すつもりはしているぜ。」
「・・・そうしてくれ。碌なことを考えやがらねぇーから厄介だ。」
作品名:こらぼでほすと 拉致1 作家名:篠義