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四谷 由里加
四谷 由里加
novelistID. 31889
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Our Eternal Destiny Ⅰ

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「…いいの?君を見捨てた人間ばかりなのに?」
「それでも、ですよ。僕は皆が、今でも大好きです。こんな事になってしまったけれど、僕は―――彼らに、感謝しているんです。」

これは本当だ。本当なら、僕は臨也さんと同レベルまで(この表現は、酷くはないだろう)(だって、それは彼の自業自得だ)嫌われるべき、そんな存在なのだ。
僕と彼の根本的な部分は酷く似ていて、だからこそ彼は僕に目を付けたんだろう。そんな僕を支えてくれた、最後まで受け入れてくれていた皆に、僕は本当に感謝している。
最後まで僕を救おうとしてくれた正臣。最後まで僕を心配してくれた園原さん。最後まで僕を気遣い、怒ってくれたセルティさん。セルティの為だからとかなんだかんだ言いつつも、怪我を治療してくれた新羅さん。最後まで弟のように可愛がってくれた静雄さんと、そんな僕らを暖かく見守ってくれたトムさんとヴァローナさん。的確なアドバイスをくれた矢霧くんと張間さん。僕がしている事に薄々感付きながらも、態度を変えないでくれた門田さん達。…最初から僕を利用する為に近付いてきたけれど、従順に僕の手足になってくれたブルースクウェアの皆。そして。僕を産み落とし、慈しみ育ててくれた両親。
皆、こんな所で僕のように、僕のせいで…消されていいような人間じゃない。

「足りないというのなら、おまけを付けましょう。残りの対価は、この僕の身体と…命です。」

僕が差し出せるのはもう、それだけ。それだけしか残っていない。
ダラーズだけは渡さない。あれは僕と一緒に、この世から消えるのだ。その準備は、既に出来ている。僕のダラーズを利用するなんて、そんな事、誰であろうと許さない。それだけの矜持しか、僕には残っていない。それだけが、今の僕を支えている。


「貴方にあげます。好きなようにして下さい。僕の生死は…いえ、どう死ぬか、ですね。それと、死んだ後の身体をどうしようと勝手です。」


この身体をどうしたって、バラバラにして売られたって、痛くも痒くもない。プライドも、もう粉々だし。人の尊厳失ったっていいんだ。
そんなものに価値は無い。だってそれはもう、僕じゃないんだから。ただの入れ物…そう、物なのだ。煮るなり焼くなり、好きにすればいい。


「それを、貴方が決めて下さい。」


この命が、助かる筈なんてないんだから。


「―――そう…解った。……良いよ、やったげる。この素敵で無敵な情報屋をそんな風にコキ使えるなんて、君は見かけによらず、凄いヤツだよねっ!」
「見かけによらずって何ですか、もう…」
「誉めてるんだよ。この俺がさ!…滅多にないんだからね、素直に喜びなよ。リップサービスじゃない、本当の意味での純粋な誉め言葉なんて…ね。」
「えぇ、そうですね。臨也さんはいつも…思ってもいない調子の良い嘘ばっかり言ってますもんね。本当にそう思って下さってるなら、ありがとうございます、嬉しいです。」
「言うねぇ、君…」
「鍛えられましたから、誰かさんに。」
「………ホント、惜しいな……」

臨也さんの顔が、泣き出しそうに歪んだ…ように、見えた。
暗さのせいで、見間違ったのかもしれない。そうであってほしいと願う、願望が見せたただの幻だったのかもしれない。
それでも良い。僕は彼が怖かったけれど―――それと同じくらい、彼が好きだった。彼を取り巻く非日常が、不思議な雰囲気が、何よりも彼を魅力的に見せていた。(同時に、寂しい人だと思った。存在する人間全てに愛を注ぐあまり、本当に人を愛するという事を知らない人なのだ。)(自分が何より一番大切だから、)(愛される事を知らない、寂しい人なのだ。)
こんな風になりたいと願ったのは静雄さんのような非日常だったけれど、実際僕がなれるとしたらどう足掻いたって、臨也さんのような非日常だっただろう。
だからこそ焦がれた。欲しかった。彼を知りたいと思った。好きだと…好かれたいと、願うようになった。これが恋と呼ばれるモノだったのかどうか、僕は知らない。
園原さんに対して抱くような、甘くむず痒く淡く温かい気持ちではなかった。静雄さんに対して抱くような、憧憬や渇仰の気持ちでもない。
臨也さんに抱くのはもっと、貪欲で直接的で、どす黒く淀み歪んだ、消化しきれない激しい何かだ。
―――ならばこれは、一体、何と呼ばれる感情なのだろう。

「帝人くん、最後に良い事を、教えてあげる…」

そんな声が聞こえたその頃にはもう、僕と彼の距離は腕を伸ばせば届くくらいに、縮まっていた。
僕はジッと、彼のスラリとした、だけど男らしく骨と血管の隆起した綺麗な手を見ていた。人指し指に鈍く光っている指輪。それらを、何かに惹きつけられるかのようにただただ見つめた。見惚れていた。
そしたら、実際に、届いた。触れた。かかった。彼の手が、僕に。僕の、首に。瞬間的に、理解した。彼はこの場で、まだ他の何も及んでいない僕と彼だけのこの空間で―――…。

「…帝人くん…、」
「はい、何でしょう?臨也さ、ん……」

指が食い込んだのが判った。彼の指に、徐々に力が入っていく。息が出来ない。呻き声が自然と漏れる。
(だけど、あれ?どうしてだろう…)(臨也さんの武器はナイフなのに、)(なんで?)
(あぁ、そっか…死体に傷を付けたくないからか。)(でも、臨也さんなら、)(ナイフで、臓器を痛めないように出血死させることだって…)
酸欠で、膝に力が入らない。殆ど、力は抜けている。もはやこの身体のすべては、臨也さんが持つ自分の首に支えられていた。
身体がのけぞる。臨也さんが、僕に一歩近付いたのに気が付いた。苦しくて、意識も朦朧としかけているのに、そんな中でも、彼の行動が手に取るように判った。頭の一部だけが、酷く、クリアで。

「…ッ、…帝人くん……!」

呼吸が荒い。手も、汗ばんでいるようだった。力を入れ過ぎているのだろうか、震える手で僕の首を絞めている。
(あぁ…この人でも流石に、緊張したりするんだ…)
飄々とした態度の彼ばかり見てきたから尚更、そういう面に気付けたのは嬉しかった。


「俺がね…、生涯、直接…手にかけるのは、さぁ……」


とてもとても甘美な声。睦言のように甘く耳元で囁かれて、ゾクゾクした。イヴにリンゴを食べろと唆したヘビは、案外、こんな風だったんじゃないだろうか。
唇に何かが当たる。味はおろか匂いももう感じられないのに、甘い気配がした。それと同時に、温かい何かが頬を伝う。(…苦しくて、涙でも出てきたかな?)(判らない、)(解らない、)(嗚呼でももしかして、)
( 嬉しい、から……だろうか… )




「―――…後にも先にも、君だけ…、だよ……」




僕は笑った。なんだかとても幸せな気分だった。ああすればよかった、こうすれば良かったと、何度も何度も何度も思ったけれど…、何故だろうか。これで良かったのだと、今は思った。後悔は、無い。
そして今、心から望んだ非日常に遭遇した時なんかよりももっと、最期に彼に触れられている事実に、胸が高鳴った。心が躍った。
彼の中に僕を刻める。刻み込める。彼に何かを残せる。遺す事が出来る。
(或いは、これが本当に僕が望んだモノで、)(僕は…、彼を、)