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バラ色デイズ

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 差し出されたのは親指の先くらいの大きさの平べったい丸い色ガラスだった。日本で見た「おはじき」に似ているが、光の加減かちらちらと中に色が踊っている。
 綺麗だな、と思うと同時に、こういうものなら女は興味を引かれやすいんじゃないのかと考えた。ハンガリーが手のひらに乗せてためつすがめつしている横顔が浮かんだ。
「何の試作品なんだ?」
 俄然やる気が湧いて身を乗り出した俺に、日本が曖昧にほほえみながら説明したところによれば、これは感情を色に置き換えて読みとるセンサーなのだそうだ。
 うさんくさい説明に、おはじきを手に乗せたまま眉をひそめると、日本がセンサーを指さした。
「ほら」
 俺の手のひらで、さっきまできらきら輝いていた黄緑色のガラスは濁り、色あせた茶色に変色している。
「うぉ!?」
「体温や心拍数、それと脳波を分析しています。どの色がだいたいどんな感情か、という一覧はこちらですが、この商品の売りどころは別なところにあります」
 緊張とか興奮とか冷静とか狼狽とか、ひとしきりの感情を色ごとにカテゴライズした一覧表を俺の前に差し出しながら、日本が一呼吸の間を置く。
 俺もごくりと唾を飲んだ。
 センサーがきゅっと無色になる。なるほど緊張。
「アクセサリーに組み込んで、意中の相手に身につけてもらえば、その人の気持ちが分かります」
 そこで日本は反応をうかがうようにちらりと俺の顔を見て、付け加える。
「機嫌が分かる、と言い換えてもいいかもしれません」
 そう、俺は対外的にはあの暴力女に惚れていない設定なので、顔色をうかがいたいと思われるのは困るのだ。
 さすが空気が読めすぎる男は出来が違った。
「そういうことならちょっと借りてやってもいいぜ!」
「どうぞどうぞ、試作品なので後で使い心地を教えてもらえれば。それと、肌に触れていないと効果が出ないので、ペンダントがおすすめですよ」
 ほうほう、と俺は感心したように聞き流しながら、『ペンダントは無理』と結論をはじき出す。だって、いくらなんでもセンサーがぶら下げられる位置を考えると、凝視できないだろ!
 それではお渡ししました、後日レポートをお願いしますと日本が帰って行った後、日が暮れる頃には、俺はそれをバングルに加工してくれる店を検索して家を出ていた。
 手の中でセンサーは明るい黄色に光っている。
 期待か希望か、確かに心躍る色だ。
作品名:バラ色デイズ 作家名:佐野田鳴海