二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」

B.R.C 第一章(1) 闇に消えた小さき隊首の背

INDEX|2ページ/12ページ|

次のページ前のページ
 

#01.帰らぬ隊士【B】



 桐沼が中央四十六室へと引き渡された翌日、日番谷の元を訪れた者が三人。

「やぁ、日番谷隊長」
「邪魔するよ」
「失礼いたします」

 昨日のことがあったからか、珍しくサボることなく筆を手にしていた松本が、顔を上げて「あら」と目を丸くする。そして、日番谷の方を見て、

「隊長、お茶にしましょう」

 と席を立った。
 常ならば「ふざけるな」やら「仕事中だ」やら反論が来るところだが、こちらも珍しく「ああ」と一つ頷いてソファへと移動する。
 促されるままに日番谷の隣に浮竹が、向かいに京楽と伊勢が腰を下ろした。
 まず口を切ったのは京楽だった。

「聞いたよ。こっちでも出たんだって?」
「ああ、昨日な。十四席の桐沼が連れて行かれた」

 途端、苦い表情を浮かべる日番谷。その手が袴を強く握り込んだのを、浮竹が沈痛な面持で見やる。

「これで十五人目か」
「それに、これで全隊員から最低一人、中央四十六室に呼び出された事になります」
「そして、未だ一人も帰って来てない、と」

 四人の溜息が重なった。
 それから一拍置いて、松本が給湯室から戻って来た。それぞれの前にお茶を差し出すと、自分の分の湯呑を両手で包むようにして持ち、日番谷の横に、ソファの背に凭れるようにして立つ。

「確か、一人目は三番隊だったな」

 前に置かれた茶を手に取り、日番谷が言う。

「ああ。時期は三カ月程前だ。特に罪状を言い渡すでもなく、二番隊が引き立てたはずだ」
「桐沼もそうだ。罪状はなく、連れて来いとだけ言われたらしい」
「僕のところもだ。というより、十五人全員が同じようだね」

 これまで、中央四十六室に突然呼び出された隊士は、七番隊と十二番隊に二人、他隊に一人ずつの計十五人。彼らに共通して言える点は、突然の呼び出しであることと、全員席官であること、そして、未だ帰還していないこと。

「彼らは、一体何のために連れて行かれているのでしょうか」
「そうよね。罪状がないのだから、裁いているわけではないんでしょうけど、じゃあ、あそこで何をしているのって話よね」

 伊勢の言葉に、松本が頷く。

「あそこは司法機関だろ。裁判以外の何をするってんだか」
「帰って来ない隊士たちは幽閉されているのだろうか」
「どうだろうね。生きているのかも怪しいもんだ」
「隊長!」

 部下想いで有名な浮竹と日番谷だ。暗にもう死んでいるかもしれないと言われて、浮竹は表情を暗くし、日番谷は眉間の皺を深くする。
 それを見て、伊勢が窘(たしな)めるように声を上げた。

「いや、京楽の言う通りだ。その可能性は高い」

 そんな彼女に、浮竹が言う。それに、日番谷も頷いて同意した。

「まったく、無力なものだ。隊長なんて」

 自嘲する浮竹の言葉に、誰も返すことは出来ない。
 ここに居る全員が、否、他にも多くの隊長格が、それを痛感していることだろう。
 彼らにとって、中央四十六室はどこまでも高い壁のような存在だ。

「三カ月前から急に、ですよね。何か、きっかけになるような事ってありましたっけ?」

 松本が、ズズズとお茶を啜る。

「いやぁ、特にないんじゃない? ここのところ平和だからねぇ」
「強いて言うなら、虚の出現が増えた、とか」
「そうなのかい?」

 口元に指を添え、思い出すように呟いた伊勢に、浮竹は目を丸くした。

「はい。涅隊長がそう言っていたと、涅副隊長から聞きました」
「ああ、そういえば。前に女性死神協会の集まりの時に言ってたわね」

 思い出した、と松本が声を上げる。一方、日番谷は顔を顰めた。

「そんな報告は聞いてねぇな」
「増えたと言っても微々たるものだそうです。こういったことはたまに起こるとも言っていましたし、報告するまでもないと思われたのではないでしょうか」
「何が手掛かりになるかわかんねぇんだ。勝手に判断すんじゃねぇっての」
「まぁ、涅隊長だからねぇ」

 あの男は、興味のない事には驚くほど無関心だ。

「俺たちが勘付かないくらいだ。本当に、そう大した数の変化ではないんじゃないか?」

 一つ頷いて、浮竹が言う。

「何か、変わった虚とか居なかったんですか?」
「いや……。報告を聞く限り、気にかかるような奴は居なかったな」

 松本の問いに、日番谷は首を振る。
 十番隊が担当した虚も今までの奴らと同じで、変異種であるどころか巨大虚ですらなかった。

「じゃあ、本当に関係はなさそうですね」

 手掛かりにはならないと見て、松本は肩を落とした。

「相手が中央四十六室じゃ、下手に動けないしね。まったく、まいったね、どうも」

 あまり派手に動いて中央四十六室に目を付けられたら問題だ。自分だけならまだしも、隊士たちまでも巻き込みかねない。
 故に、多くの隊長たちは手を出すことなく、騒ぎたてることなく、ただ、中央四十六室の意に従うしかない。内では、どれほどの憤りを感じていたとしても。

「これ以上被害が出ないように、祈るしかない―――、か」

 浮竹は天を仰ぎ、他はそっと目を伏せる。
 不意に、しん、とした室内に、コンコン、と軽い音が響いた。続いて、十番隊隊士が名乗り、書類を持って来たと告げる。

「じゃあ、僕らはこれで」
「長居して悪かったね、日番谷隊長」

 それをきっかけに隊長二人が立ち上がり、続いて伊勢が席を立った。
 戸を開けた先に居た隊士は、隊長格が三人も出て来たことに驚き、わずかに身を強張らせた後、慌てて道を開けるように壁際へと後退した。
 浮竹、京楽と続き、最後に伊勢が一礼して執務室を後にする。
 彼らの背中と、執務室の二人とをキョトキョトと交互に見やって、書類を抱えた隊士は首を傾げるばかりだった。