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B.R.C 第一章(1) 闇に消えた小さき隊首の背

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#02.瀞霊廷追放【B】



 桐沼が連れて行かれてから二週間が経った。
 彼は未だ帰って来ていない。
 二週間の間に、中央四十六室は新たに三番隊十席と五番隊九席を呼び出した。その二人もまた、帰って来ていない。
 相変わらず、理由の分からない中央四十六室の呼び出しが続く中、緊急隊首会が開かれた。
 緊急収集に、隊長たちは揃って首を傾げる。

「何かあったんでしょうか?」

 ヒラリ、役割を終えて飛んでいく地獄蝶を目で追いながら、松本は傍らに立つ日番谷に問う。

「さあな」

 ひょい、と肩を竦めた日番谷は、面倒くさい、というのを隠そうともせずに溜息を一つ吐き、

「行って来る」

 と執務室の戸を開けた。

「行ってらっしゃーい」

 ヒラヒラと、その小さな背に松本が手を振った。
 松本の声を最後に執務室の戸を閉め、日番谷は隊首会が行われる一番隊を目指す。
 隊舎を出、角を曲がったところで、背に「九」を背負う同僚を見つけた。

「東仙」

 声をかければ、何も映さない瞳が日番谷を捉える。

「日番谷か」

 立ち止まった彼の元へ、足早に歩み寄り、並んだところで東仙が再び歩き始める。

「緊急に開かれる隊首会は黒崎一護の件以来だな」
「ああ、そうだな。半年くらい前だったか?」

 十三番隊隊士であり、六番隊隊長朽木白哉の義妹である朽木ルキアが、とある事情で現世の人間に死神の力を譲渡したことをきっかけに、死神代行が生まれた。
 死神の力の譲渡は禁じられているため護廷を騒がせたが、奇跡的に謹慎処分という軽い刑で済んだ。それには、尸魂界まで引っ付いて来た死神代行、黒崎一護の必死の口添えと、彼の死神代行となり得る強大な霊力が大きく影響を与えた。
 ルキアは現在、謹慎を終え、死神代行の教育係として現世に留まっている。

「ったく、今度は何だって言うんだか」
「まぁ、緊急って言うんだから、それなりの事はあったんじゃないの?」

 やっかいな事でなければいいが、と日番谷が溜息を吐こうとしたところに、背後から声がかかった。

「や、どうも」

 くい、と笠を上げるのは京楽だ。
 京楽が合流し、三人は連れ立って一番隊舎へと赴く。
 隊首会の場には、すでに砕蜂、藍染、朽木、狛村が定位置に着いている。そこに三人が加わり、卯ノ花、浮竹、涅が間を置いて現れ、さらに遅れて更木と市丸がようやく到着した。
 十二人が揃ったというところで、最後の一人、総隊長である山本元柳斎重國が杖で床を打ち鳴らしながらゆっくりと姿を現した。
 年老いた風貌に威厳を背負う元柳斎。その纏う雰囲気は、定例の隊首会の時よりもビリビリと強張っているのが感じ取れた。
 立ち並ぶ十二人の隊長の前に立つと、元柳斎は用意された椅子に腰かけることなく、ガンっ!といっそう強く杖を突き、隊長たちの視線を集める。

「緊急の収集に、よくぞ集まってくれた」

 嗄れた声が、張りつめた空気を振るわせる。

「まったく、一体何事かネ。研究の途中だというのに、迷惑な話だヨ」

 それに、相変わらず協調性を示さない声が返った。涅だ。早く帰りたいと訴えるかのように、視線は出入り口である巨大な扉にばかり向けられている。
 その彼の様子に、今回の緊急隊首会の議題が虚に関することでないことがはっきりした。
 緊急隊首会を必要とするほどの虚となれば、涅が知らないはずがなく、また興味を示さないはずがなかった。

「うむ……」

 元柳斎は重々しく、ゆっくりと一つ頷く。
 しばしの沈黙。衣擦れの音一つしない。
 焦れた更木が、ついに声を荒げようかという時、

「今をもって―――」

 重い口が開いた。
 しかし、その重い口が放った言葉は、その場に居た者たちにとって信じられないものだった。

「十番隊隊長日番谷冬獅郎を、その位から解任し、瀞霊廷から永久追放とする」

 空気が凍りついたように感じた。

「な……っ!」

 最初に声を発したのは、名を呼ばれた日番谷ではなく、その斜め向かいに立つ浮竹だった。

「どういう事ですか、先生っ!」
「浮竹」
「何故日番谷隊長が―――」

 京楽の制止の響きを持った声を聞かず、浮竹がさらに言い募ろうとしたのを、元柳斎は視線一つで黙らせた。

「中央四十六室の決定じゃ」

 その一言で十分だった。
 ここ数カ月、よく耳にする絶対なる存在の者達の名の前に、誰のどんな言葉も「無」へと返る。

「総隊長」

 中央四十六室の名に顔を青くする者、目を瞑る者、特に何の反応も示さない者と様々な隊長たちの中、静かに元柳斎を呼んだのは、当人の日番谷だった。

「理由を聞いても?」

 短い問い。

「中央四十六室の決定は、絶対じゃ。何人もそれに異を唱える事は出来ん」

 それに返って来たのは、答えになっていない答えだった。
 つまりは、理由はないのだと、日番谷は悟る。これまでの中央四十六室の行動から考えれば、有り得ないことではない。

「あらま。そら災難やね、十番隊長はん」
「ギン」
「そんで?」

 場にそぐわない軽い調子の市丸を咎めるように藍染が名を呼ぶが、それを聞き流して彼は言葉を続けた。

「十番隊長はんは瀞霊廷追放なんでっしゃろ? ほなら、どこに飛ばされますの?」

 瀞霊廷から追放となった者は、多くの場合流魂街、それも治安の悪い数字の大きい地区へ飛ばされ、二度と瀞霊廷の地を踏むことは許されない、というのが通常だ。

「『更木』だったら案内してやるよ」
「ふん、そんなところに行く前に十二番隊に来たまえヨ。指の先まで解剖してやろうじゃないカ」

 日番谷の向かいと右隣からそんな声が飛ぶ。

「遠慮する」

 ふ、と溜息混じりに返す日番谷に、動揺の色は見られない。
 そんな彼をチラリと見やり、一度そっと目を伏せた卯ノ花は、次にその目を元柳斎に向けた。

「お答えを頂けますか? 総隊長」
「―――日番谷は、瀞霊廷追放の後、」

 そこで切り、深く呼吸を一つすると、誰もが予想だにしなかった名を上げた。



「虚圏(ウェコムンド)に、その身を置くことになる」