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こらぼでほすと 拉致4

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「あたしたちはね、ラクス様に従っている身さ。だから、総大将が諫言を受けてくれないからって無茶もできない。あんただけは立場が違う。あんたはラクス様のおかんだからね。強制的に休ませることもできるんだ。」
 ここでのキャンセルの不利益なんてものを滔々と語られたら、正論だから反論が難しい。だが、ニールは、ラクスの身体が心配だから、という個人的な理由が使える身だ。『吉祥富貴』で唯一、歌姫様を叱ったり拳骨を食らわせられるのはニールだけだからだ。
「・・あ・・そうか・・・俺・・・」
「そう、あんただけはさ。ラクス様個人のことを心配して止められる立場なんだ。」
「ニール、ラクス様の様子を見ておいで。本当に具合が悪いのなら傍についててさしあげるほうがいい。体調の思わしくない時は、人恋しいものだからね。娘さんもわかるだろ? フェルトちゃんのほうは、私が出迎えて本宅へ送るから心配しなくてもいい。」
 ニール当人が、ダウンすると人恋しいと思う。だから、トダカや三蔵は、寝込んでいれば、なるべく傍に居てくれる。そういう状態なら、ラクスもそうだろうと言われれば、ニールも素直に頷いた。
「わかりました。盛大な雷を落としてきます。・・・すいません、トダカさん、フェルトのことをお願いします。もし俺が行けそうなら連絡します。」
「ああ、どちらにせよ、私も一緒に出迎えるつもりだったから、間に合うなら合流しよう。荷物は私が運んでおくよ。」
 防寒着一式は、トダカが預かって持って行くと約束した。かなりの荷物なので、携帯端末で連絡してマンションの入り口にアマギを呼び出した。


 じゃあ、行ってきます、と、ニールが荷物をアマギに渡すとクルマは走り去った。何事ですか、と、アマギはびっくりしている。
「コーディネーターが熱を出すってことは、かなり過労気味なんだろう。ラクス様も、少しご自分を大切になさらないといけないな。」
 説明を受けたアマギも、そうですね、と、頷く。コーディネーターは劣悪な環境に対応するために遺伝子操作されている。だから、ナチュラルな人間よりは、体力気力なども勝っている。それがダウンするほどのことなのだから、相当に無理したのだろう。
「しかし、残念でしたね。もう少し、ニールを確保できるはずだったのに。」
 予定では年明けギリギリまで、里帰りしているはずだったのだ。事情が事情だから、トダカも引き止められなかった。
「来年の連休にでも、うちの娘は確保することにしよう。」
 どうせ桃色子猫と黒子猫が特区から離れたら、ニールは意気消沈するのだ。その時に確保して存分に甘やかすのなら、娘の亭主も文句は言えない。
「わかりました。拉致計画を練っておきましょう。今夜は、その計画の会議ということで、いかがですか? トダカさん。特区周辺の温泉ぐらいなら、ニールを連れ出せるだろうし、我らもお供いたします。」
「そうだな、それはいい提案だ、アマギ。」
 ヘリで移動できる範囲なら、ニールも出かけられる。そういう場所を探して、ついでにトダカーズラブの慰安旅行も兼ねる話し合いで、大晦日の年越し宴会は盛り上げることにした。





 歌姫様は本宅に戻っていた。特区で行なわれるカウントダウンパーティーへの掛け持ち出席まで時間があるから、寝室で倒れている。いつもより過密スケジュールになったのは、来年は政治活動を縮小する予定だから、そちらの予定を多めに入れたためだ。パーティーのほうも、ユニオン、AEU、人革連の特区にある政治拠点主催のものが大半を占めている。だから、欠席するわけにはいかない。ここで、自分の顔を最大限に活かしてイメージを残しておくのも今後の活動に必要なことだ。

・・・・あと数時間・・・これさえ乗り切れば・・・・

 あとは、ゆっくりとした休暇が待っている。一日休めば復活できる。それから、桃色子猫とママとのんびりと過ごすのだ、と、自分の目の前にニンジンよろしくエサをぶら下げて鼓舞する。

 とりあえず、今は身体を休めて少しでも体力回復をさせておこうと、じっとベッドに横になっていたが、騒々しい声と共に寝室の扉は開いた。
「ラクスッッ。」
 大声で怒鳴っているのは、自分のママで、おや? と、起き上がった。予定では、深夜を廻った頃に拉致する予定だった人が、自ら出向いてくるのはおかしい。
「どうかいたしましたか? ママ。」
 いつも通りの笑顔を作って、いつも通りに小首を傾げて見せたら、自分のママは舌打ちして、手を伸ばして自分の額に置く。そして、確認すると、「ドクターッッ、診察してくださいっっ。高熱ですっっ。」 と、背後に怒鳴っている。
「クスリは飲みました。今、解熱の最中ですの。そんな大したことではありません。」
「いいから、服を着替えろ。・・・汗かいてるから清拭してもらったほうがいいな。・・・・ちょっと待ってろ。」
「いえ、ママ。出かける前にシャワーを浴びます。」
 だから、今はいいんです、と、反論したら、「バカものっっっ。」 と、大声で怒鳴られた。
「そんな状態で出かけるだと? 冗談も大概にしとけっっ。今日は、もうダメだ。」
「スケジュールが、あと何件がございます。それだけは、消化しないと休めません。」
「キャンセルだ。」
「え? 」
「全部キャンセルさせる。おまえら、うちの娘に、どんだけ過酷なスケジュール組んでやがるんだっっ? こんなボロボロにしやがってっっ。」
 背後に向かって、そう怒鳴ると、一端、ママは出て行った。外でも怒鳴り声が聞こえている。どうやら、メイリンが叱られている様子なので、よろよろしながら扉から顔を出したら、やはり、その通りだった。慌てて、メイリンの前に出て庇うと、さらにママに、「戻ってろっっ。」 と、叱られた。
「メイリンは悪くありません。私くしが、スケジュール通りにクリアーできると申したからキャンセルしていないのです。」
「ラクスッッ、ハウスッッ。」
「ママッッ、仕事のことは私くしの義務です。勝手にキャンセルされては困ります。」
「秘書っていうのは、主人の体調も考慮するもんだ。・・・・すいません、こいつの着替えと清拭をお願いします。それから、メイリン、ここからの予定は全部キャンセルしろ。」
「ママッッ、いけません。」
 ガバリとママへ抱きついて、ラクスも必死に押し留めようとするが、相手は止めるつもりはないらしい。逆に軽く持ち上げられて、寝室へ連れ戻された。もちろん、メイリンに、「キャンセルだ。」 と、命じることも忘れない。バタンと扉を閉めて、ベッドに座らされた。それから屈みこんで、ママは自分をじっと凝視する。
作品名:こらぼでほすと 拉致4 作家名:篠義