キミとボクの恋戦争
「それで、何て言うたん？」
「え」
「せやから、光に何て返事したん？」
「返事…」
その言葉に、思わず喉を突っ返させる。
まだ返事をしていないどころか、現実から目を逸らして逃げてきたなんて言えない。
だけど、小春は勘が鋭いから絶対気付かれとる。
「ユウくん…逃げてきたんやろ」
やっぱりや。小春には一生敵わへん。
言葉を発することが躊躇われて、小さくこくりと頷いた。
ああ小春が溜息吐いとる。
あかんで小春、溜息吐いたら幸せ逃げんねんで。
やけど、そうさせたのは不甲斐ない俺のせい。
小春は絶対呆れてる。
「あかんやないの。真剣に気持ち伝えてくれたんやで？それを逃げるって…最低な行為やってわかるわよね？」
「わかってる…せやけど、なんて返したらええかわからんかってんもん…」
「何で？」
心底不思議そうに尋ねてくる小春が俺は不思議で堪らなかった。
「何でって…それは、いきなり好きって言われて、心の準備っちゅーか、何て言うか…」
「何でやのよ。好きなら好き、嫌いなら嫌いってはっきり言えば済む話でしょ？」
「せやかて、いきなり後輩から、しかも男から告白て、有り得へんし、びっくりしてもうたんや。しゃーないやろ！」
はぁ、とまた大きな溜息を吐かれた。
今日は小春の幸せが二回も逃げてもうた、どないしよ。
「ほんなら今考えてみ？どう返事するん？」
「返事もなにも…俺は先輩で、アイツは後輩で、それ以外に何にもならへん、やろ…」
「ほんなら、今までと一緒ってこと？『お友達』のままでいいってことなんやね」
「お友達…」
「それやったらそれでええやないの。それがユウくんの答えなんでしょ？せやったら、光にそれを正直に伝えてあげないと可哀想よ、ね？」
「…おん」
せやけど、それはなんか俺の気持ちちゃうって思ってまうんや。
何でやろ。
「せやけど、今まで通りにはいかへんくなるわよね」
「え？何で…？」
ぎゅっと心臓を鷲掴みにされたような鋭い痛みに眉を顰める。
「何でって、当たり前やんか。好きな人に受け入れてもらえへんかったのに、今まで通りに接することなんて出来ひんでしょ？少しぎくしゃくしてまうかもしれへんよ」
それでも、ええの？
小春は俺の気持ちを見透かしたかのように脅しをかけてくる。
何も言わずに俯く俺に、更に小春は言葉を続けた。
「そうねぇ…いつか光が別に好きな人が出来て、その子と上手くいった時には、今まで通りの『お友達』に戻れるかもしれへんけど」
「光が、別の子と付き合うって事…？」
「そうや。光かて、ずっとユウくんに片思い続けるわけにもいかへんって諦めついたら、次の恋に踏み出すわよ」
「それは嫌や！！」
自分でもびっくりするような大声で噛みついた。
縋るように小春の腕にしがみ付くと、空気で小春が苦笑いするのがわかった。
「ほんなら、ユウくんは光とお友達続けるんは嫌って事？」
「…嫌って言うか、今まで通りで、いたい。ただそれだけなんや…」
「もう…話が進まないわね。ユウくん、自分の気持ちとちゃんと向き合わなあかんで？もう答えはわかってるんでしょ？」
今まで通り一緒に居たい、光と笑い合いたい。
ましてや、アイツの隣で笑う女なんか絶対認められへん。
その気持ちがもう答えを導き出しているというのに、自分は案外臆病だったようだ。