キミとボクの恋戦争
「せんぱ「ごめん。最低やわ俺」
自分から尋ねておいて、答えをくれた光から逃げて、自分の気持ちからも逃げて。
なんちゅーやっちゃ、人の風上にも置けん。
もう自分自身を再起不能になるまで殴ってやりたい気分になる。
「光の事、好きや」
やっと言えた。
光と、自分自身と、向き合えた。
「…あの時、ただの後輩って思われへんって言われた時、ユウジ先輩も俺と同じ気持ちやったんやって舞い上がって、思わず好きって言うてもうた。せやけど、その後先輩が拒否り出して、ああこの人の言ってた意味は、弟みたいとかそんなモンやったんやろなって。一人で勘違いして嬉しくなったんがアホらしくなって、拗ねてました」
すんません、って、憎たらしい態度しか見せなかった光が、初めて素直に謝っとる。
その顔はどことなく赤みを帯びていて、ああコイツも人の子なんやなぁなんて失礼な事を考えた。
「俺も、先輩が好きです。ずっと前から」
「光…ありがとう、俺を好きになってくれて」
笑っているのに、泣きそうだ。
嬉しくて、愛しくて、初めて抱く感情に制御が出来ない。
「先輩、泣かんでください」
「な、泣いてへんわ!」
「そんな事言うて、めっちゃ目潤んでるんやけど」
「ちゃう!これは、目薬のせいや!」
「はぁ、まぁそういう事にしといたるわ」
「なんや偉そうに。やっぱ可愛くない」
「先輩は可愛いです」
「!アホかっ可愛ないわ!」
「そんなところが可愛いんですよ。気付いてへんのですか?」
「…っ」
もう何も言う気が起こらなくて、ふいっと視線を逸らそうとしたのだが、そうはさせまいと光の両手が俺の頬を挟み込む。
そうされたら逃げ場は無く、真っ直ぐ光と向き合う形になる。
何だか照れ臭くて、思わず目線を彷徨わせた。
「な、んやねん、離せや」
「嫌や。せっかく気持ち通じ合えたんや、そうそう簡単に逃がしたりせえへん」
「アホ!もう逃げへんわ!」
「いや、ユウジ先輩の事やから、当てになりませんわ」
「何やそれ!恋人を信用できひんのか!?」
「恋人…」
自分で言うてから、はたと気付いて顔を火照らせる。
「ホンマに、俺たち恋人同士になったんですね」
「お、おん。せやから、もう何処にも行かへん。例えお前がどっか行けって言っても、しがみついて離れたらんからなッ」
「そのくらいで丁度ええっすわ。俺やって逃がさへんし」
そう言った光は、ゆっくりと瞼を閉じていく。
近づいてくる整った顔に、どきりと心臓が音を立てる。
でも、逃げたりはしない。覚悟を決めてぎゅっと目を瞑る。
光の息遣いを、直ぐ傍で感じる。
触れ合う、そう感じ取ってきゅっと口を引き締めて、小刻みに震える身体を抑える。
閉じた瞼が、ふるり、と揺らめいた。