SOUVENIR<スーヴニール>
本来ならば今日は最終の稽古日だったが、オスカーがすでに戻ってしまったことで、ランディはジュリアスの館に行くのはやめておこうかと思った。だが、一応五日と約束しているし、昨晩のクラヴィスの話も気になった。とりあえずランディは行ってみることにした。
ジュリアスの館に着いたランディは、何だか館の様子が妙にざわついていておかしいことに気づいた。それにいつもきちんとした応対で迎える側仕えがなかなか出てこない。
「おかしいな……」
仕方なくランディは勝手にドアを開けてみた。ドアは開いた。と同時に側仕えの一人がやっと出てきた。明らかに泣いている様子が見てとれた。
「どうしたの?」
聞いてみたが、側仕えはハンカチを握りしめて首を横に振るばかりだった。埒があかないので、ランディはそのまま中へ進んだ。
中庭までの途中、何人もの側仕えが泣いていたり、うなだれていたりしている。ランディが目の前を通ってやっと気づくことが多かった。
ジュリアスはやはり噴水の縁のところに座っていた。そしてその横にはオスカーがいた。二人とも厳しい表情でランディを迎えた。光の守護聖と炎の守護聖が揃ってどうしたことだろう。ランディはこの異様な雰囲気に圧倒されそうになった。しかし、彼は持ち前の勇気をもって言った。
「こんばんは、ジュリアス様、オスカー様」
「よく来たな」
ジュリアスはそう声を掛けると立ち上がり、オスカーを見た。オスカーの手にはランディの持つ剣と同じぐらいの大きさの剣があった。中庭の灯の光にそれはギラリと光っている。
「……しかし」
「よい、渡せ」
有無を言わせぬジュリアスの言い様に、オスカーは眉を顰めながらもランディに進み出ると剣を目の前に出した。
「今日はこれを使うように、とのことだ」
「え」
ランディは剣を、オスカーを、そしてジュリアスを見た。
「今日で私からの稽古は終わりだ。この四日間の成果を見せてもらうぞ」
そう言うとジュリアスはいつもの細い剣を出して構えた。ランディは渡された剣を持ってハッとした。
「……真剣……ですか?」
掠れた声で彼はジュリアスに尋ねた。
「行くぞ!」
ランディの問いに答えず、ジュリアスは初めて自分から仕掛けて行った。やはりスピードは速い。細身の体から信じられないほどの力強さでランディの剣にぶつけていく。後ろで黄金色の髪が大きく波打った。
「うわっ」
今朝のオスカーほどではないにしろ手にジンジンと痺れが来る。防御がやっとでとても攻めることができない。
「その程度か、ランディ」
冷たいまなざしのままジュリアスが言った。
「そなたがオスカーの役に立ちたいと言ったことはその程度か!」
情け容赦なくジュリアスは剣の切っ先をランディに繰り出す。
「それでは足手まといになるばかりだな」
その言葉に、ランディは血が逆流するような気がした。
「役に立ちます! 立ってみせます!」
そう叫んでランディは身を翻し、突っ込んできたジュリアスの体を押して、剣を振った。
「ジュリアス様!」
オスカーが叫んだとき、シュッと何かが切れる音がした。ランディがハッとして見ると、すでにジュリアスの髪は半分以上が肩から下のない状態になっていた。
作品名:SOUVENIR<スーヴニール> 作家名:飛空都市の八月