化け物と祓魔師
「六臂、仕事です」
帝人は昼間、六臂を探し手渡された仕事の書類を六臂に渡す。
六臂はその書類をぱらぱらと見るとすぐに燃やしてしまった。
「分かった。準備する」
「はい、お願いしますね」
六臂は無関心、といった様子で帝人の前から姿を消した。
その態度に帝人は苦笑するしかない。
どうして六臂が帝人を嫌うのか検討が付かない以上、
どうしようもない。
「っ」
振り返って自分の執務室へ戻ろうとしたとき、
歩いてくる祓魔師に気づかず帝人はぶつかってしまう。
「どこを見ている!」
「すみません」
「ふん、力があってもそんなフラフラでは意味がないなぁ?」
「・・・そうですね。これから練習場にでも行ってみましょう」
「はっ!」
帝人のいつもと変わらぬ笑顔に興ざめしたのだろう。
祓魔師は帝人を穢らわしいという目で見ると、どこかへ立ち去ってしまった。
「っ」
帝人は先ほどぶつかった腕をさする。
先日の洋館で六臂にぶつかられた際、腕の腱がいかれたらしい。
外の傷は大概すぐ治せるが、身体の中の傷はそうそう治せるものでもなく。
まだ治り切っていなかった腕に、先ほどの衝撃は少々辛かった。
「・・・大丈夫だよね・・・」
帝人は1人、そう言うと執務室へ再度足を運んだ。
新月の晩。六臂と帝人は廃墟と化したビル内にいた。
「お前はいらないから」
六臂はそう言うとまた1人で駆けていく。
帝人は苦笑を交えながら、六臂が走っていった方へと歩いていく。
任された任務は『魔女討伐』。そこそこ力のある魔女達が集まって集会を開いているらしい。
そこの主格を含めた魔女を殺す。
(殺せ・・・か)
殺さなければ殺される。そんな世界にいつの間にかなっていて。
「嫌だな・・・本当に・・・」
ビルと言っても4階までしかない建物。
その建物の最上階で魔女達は集会をしている。
帝人がのんびりと歩いていると、上の階からものすごい爆音が響いた。
「っ!」
帝人は息をのむと、すぐさま走り出す。エレベーターが動いているわけではない。
駆け足で階段を上り、爆音がした方へと急ぐ。
「あらあら?かわいげのない坊や」
「ほんとうに」
そして帝人が駆けつけたとき、六臂は床に蹲っていた。
周りには数人の魔女が瞳に憎しみを宿して六臂を見下している。
「気絶してしまったの?」
「詰りませんわ」
魔女達はそう言うと、何かを唱え始めた。
(いけない!)
聞き覚えのある呪文。確か、死を司る神を召喚する呪文。
アレを唱えられたりしたら喩え六臂といえどひとたまりもない。
帝人は急いで指を鳴らすと、六臂に向かって走った。
「きゃぁぁぁぁ!」
「この!!」
すると魔女達の周りに黒い影が渦を巻き、
彼女たちの視界を遮る。
魔女達は持っていた杖や呪文で影を払おうとするが、
どうしてもとれないらしい。
(今の内に!)
帝人は六臂の腕を肩にかける。
「ぐっ」
その時、腕が引きつるように痛み出す。
帝人は歯を食いしばり、六臂の身体を支えながら、近くにあった窓から飛び出した。
「逃げたな!」
「捕まえてやる!」
帝人は空中で口早に呪文を唱えて、足下に黒い影を作り出す。
その影がクッションの代わりをし、殆ど衝撃を受けることもなく、
帝人と六臂は地面に足をつけた。そしてそのまま帝人は六臂を引きずりながら、
魔女達に見つからないようビルの敷地内から脱出する。
「六臂?!六臂!」
ズキズキと痛みが大きくなっていくのが分かる。
それでも帝人は自分のことよりも、六臂のことが心配だった。
「っ・・・煩いきこえてる・・・」
「良かった・・・」
ほっと帝人は胸をなで下ろすと、六臂を路地裏に座らせる。
「六臂はここにいて。後は僕がやる」
「は?」
胡散臭げに見上げてくる六臂に帝人は笑った。
「大丈夫。僕が強いことは知ってるでしょ?」
「馬鹿なの?俺がこのざまなんだよ?お前が勝てるわけ無いだろ」
「そんなこと・・・ないよ」
無意識のうちに負傷した腕をさすりそうになり、急いでその手を引っ込めた。
六臂の驚きとも呆れとも付かない表情に笑みを向け、
帝人は魔女達がいる方向へと走り出す。
「っ!待てよっ!」
六臂の制止する声を振り切りながら。