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ゴーストQ

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 見上げた大きな街頭テレビに水谷が映っている。番組の最後で新しいドラマの宣伝をしているようだった。オレはといえば逃げるように外へ出て、これから午後の授業を受けに学校へ行く。
 本当に水谷が言ったとおりだった。本番が始まって、コーナーの一番手で出て、司会者の言うことにハイハイと答えているだけだった。
 効果音とともに水谷が登場すると、沸きあがったものすごい歓声に押し出されるように退場した。会場にいた人も、テレビを見ていた人も、オレの存在なんて全く覚えていないだろう。
 とにかくもう開放された。こんなのはもう懲り懲りだ。いつかまた同じような頼みごとをされても、次は何が何でも絶対断ってやる。
 そんな決意とともに教室までたどり着いたのだが、午前と景色が違いすぎて、そのギャップに少しクラクラする。オレは本当にテレビに映っていたのかな、水谷の隣にいたのかな。全部夢だったかのように感じてしまう。
 しかしあれはやはり夢ではなく、オレは同じ授業を受けている友達から、昼の番組について突っ込まれた。
「栄口って水谷文貴の友達?」
 オレは昔の友達だと思ってるけど、今はそんなに距離が近くないし、あいつにしてみたらオレの存在は友達ではない。なんとも複雑すぎる関係だった。
「いや……」
「じゃあ何でテレビ出てたの?」
 何だか面倒なことになりそうだったので、とっさに思いついた嘘を口にした。
「あれバイト」
「バイト?」
「友達っていう役の日雇いバイト」
 友達が納得の声を出すより早く、後ろに座っていたらしき女子数人が「バイトなんだって! 全然関係ないみたい!」と漏らした。多分小声で内緒話をしたつもりなんだろうけど、仲間内で気持ちが大きくなっているのか、こっちにも丸聞こえだった。
 ふと見渡すと、珍しくオレの席を取り巻くように女子が座っていて、さっきのバイト発言を耳にしたのか、どいつも微妙にがっかりしているのだった。
 そんなに水谷が気になるなら、誰かオレの立場と変わってくれやしないだろうか。それでテレビにでもなんでも出ればいい。本当はバイトなんかじゃない、ボランティアだ。
 水谷から好かれているだけでこんな目に遭っている。なんて面倒なんだろう。地位と権威を兼ね備えた水谷はタチが悪い。わがままを都合として無理矢理ゴリ押ししてくる。
 オレは水谷のことを「すごい」とか「頑張ってるな」とかは思うけど、恋愛対象として考えられない。どうせ好かれるのなら、好きな人から好かれたい。……あれ?
 そういえば昔誰かが同じようなことを言っていた気がする。

作品名:ゴーストQ 作家名:さはら