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ゴーストQ

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 水谷からはその日のうちに電話が来て、丁寧に謝られた。
「今日は無理言ってごめん」
「別にもう気にしてない」
 というよりは、早く忘れてしまいたいから思い出さないようにしていた。水谷はもうオレのことなんか構わなきゃいいのになぁ。そういうわけにはいかないのだろうか。
「メシおごるって言ったろ? 何か食いたいものある?」
「何でもいい」
 そう答えてから、あれっと思い直す。既に行くこと前提で話が進んでないか?
「じゃ、オレのおすすめでいーい?」
「おい水谷、オレ行くって一言も言ってない」
「嫌だ?」
「嫌じゃないけど、っていうか」
「いいじゃん、行こ?」
 悲しいかな、水谷の誘いを断る適当な理由が見つからなかった。最近忙しいから無理、と嘘をつこうと思ったけど、水谷に比べたらオレの忙しさなんて、ハムスターが車輪をぐるぐる回している程度のものだ。とても言い訳にできない。
 嫌じゃないのが問題なんだよな。水谷がオレに求めていることは到底受け入れられないけれど、水谷自体は好きでもないし嫌いでもない。
「栄口」
 返事をせずにいたら、やたら落ち着いた口調で諭すように名前が呼ばれる。
「この前みたいに何か特別なこと頼んでるわけじゃないじゃん、それともオレとメシ食うのも嫌?」
 嫌かどうかで質問してくるのはやめて欲しい。テレビに出ろとかいうとんでもないお願い以外だったら、オレは大抵のことに「嫌じゃない」と答える性格をしていた。
「そうとは言ってないけどさー……」
「あ、そ」
 素っ気無い水谷の返事がなぜか心に引っ掛かる。あからさまに不機嫌になられたって困る。オレは何も悪いことなんかしていない。
「なら来れるよな?」
 時刻と駅名を告げ、水谷は電話を切った。高校の頃だったらこんな強引なことはしてこなかった。
 あれから水谷は色々変わったと思うのだが、さっきみたいな我を通す態度には一番困惑してしまう。どう対処していいかわからないのだ。

作品名:ゴーストQ 作家名:さはら