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ゴーストQ

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 それを水谷が喜びとして受け取ることを、禁止できる権利なんてオレには無い。無いんだけど気になる。いわゆるぬか喜びじゃないか。オレは水谷のことを何とも思っていない。どんなに幸せを感じても、それは虚構の上に成り立っている。なのに思わせぶりな態度を保ちつつ、会うことを許してもいいのだろうか。
「水谷さぁ、オレとつるむより他の誰かとつるめば?」
「えええっ、なんで?」
「メリットがないじゃん、オレとだったら」
 そう告げた瞬間、水谷はサイコロ状に切られた肉を皿の上へ落してしまった。
「……あ、あるよぉ」
「どんな?」
「言わすかフツー……」
「言え」
 言葉を濁した反応が珍しくて、思わず脅迫してしまった。バツの悪そうな水谷が箸で皿の上の肉をつつき、いじけているような様子を見せる。
「……好きだって言ったじゃん」
「それがどうした?」
「好きな人と一緒にいられるのは超メリットだと思うんだけど」
 弄んでいた肉を口へ放り込み、そっぽを向いてもぐもぐと噛んでいる。水谷の細かな態度について、常に感度を鈍らせがちなオレでも気づいてしまった。水谷はかなり照れている。
 つまり水谷の中で絶対的かつ最低限な価値がオレに存在しているわけである。一緒にいられるだけでメリットなのだ。
 調子が狂う。水谷との距離がこれ以上近づくのは不本意なことだった。オレは水谷の希望には答えられない。好きになんてとてもなれない。
「好きとか無理だと思うんだけど……」
 何だか相手のことが憐れになってきたオレはそう漏らしてしまった。
「栄口はオレの『好き』ってこと深く考えすぎてない?」
「えっ?」
「オレとしてはこういうふうに」
 そうやって一瞬間を置いたから、なんだろうと顔を上げた。空中で目が合う。逸らす時間も与えられず、水谷が言葉を続けた。
「一緒にメシ食ってくれるだけでいいんだけど」
 そうなんだ。やけにあっさりとした結論に拍子抜けした。今までずっと一人でぐるぐる悩んでいたけれど、水谷の真意は意外と簡素なものだった。てっきり精神的にも肉体的にもあれやこれやと過度の要求をされると身構えていた。でも水谷の『好き』は一緒にメシくらいで満たされるものらしい。それなら全然平気だ。
「だからさー、オレらさー」
「ん?」
「付き合っちゃおうよ」
「つっ……!」
 あからさまに表情を変えたオレへ、水谷がやれやれとため息をつく。
「だからメシ食うだけでいいってばー……」
 何だその疲れた態度は。そんなふうにうんざりされたら、応じないオレが自意識過剰みたいじゃないか。水谷はもう一度深く息を吐き、ウーロン茶が入ったグラスの側面を指でなぞった。ますます気に障る。
「オレは別に」
「んー?」
「嫌だなんて言ってない」
 挨拶とともに小さな土鍋を持った店員が個室へ入ってきた。熱くなっているから注意することを伝え、また出て行く。オレと水谷を挟み、もこもこと湯気が立ち上る。鍋をちらりと見ると、白いお湯の中に白い塊が浮いている。水谷が頼んだのは湯豆腐だった。
「ほんとに嫌じゃない?」
「嫌じゃないって言ってるだろ」
 ふーん、と半信半疑な声を出し、煮えた豆腐をすくう。
「だったらおそろいで指輪とか買っていい?」
「……!」
「あっ、やっぱりドン引きだ」
 わかってるなら言わないでくれ。顔を引きつらせたオレに構わず、水谷はまったく気にしていないような様子で、豆腐が入った熱い器を寄こしてきた。
「あ! なんか今のオレ、栄口の彼女っぽくね?」
 だから言うなっつうの。

作品名:ゴーストQ 作家名:さはら