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ゴーストQ

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 出直してくるという水谷の言葉に一抹の危機感を抱いていたが、それからというもの水谷はあまり学校に来なくなった。
 もしやオレに振られたショックで、と少しだけ心配になったけれど、その理由はわりと早く判明した。水谷が載っている雑誌が学年中、いや学校中に回されたからだった。
 もちろんオレも見た。たくさんの人に回し読みされた雑誌は既に表紙がなくなり、該当するページだけふにゃふにゃになっていた。ご丁寧に誰かが赤いペンで丸を付けたらしく、ずらりと並ぶ男の顔の中でも水谷を見つけるのは容易かった。
 雑誌の中の水谷は「ベストナントカ賞」を与えられ、ぎこちない笑顔でほほえんでいた。これを見た野球部員はもれなく笑った。だってあいつがいかにも「オレかっこいい」という気取った表情をしていたから、なんだかむず痒くて笑いを堪えきれなかった。
 それからというもの、すっかり時の人となった水谷の情報は嫌でも耳に入ってくるのだった。雑誌のオーディションへは姉が勝手に申し込んだとか、来月発売の雑誌でモデルをするとか。水谷が直接話したわけでもなく、勝手に噂が一人歩きしているみたいだった。当たり前か、まさか雑誌に載った奴がこの学校にいるなんて、同じ高校に通う生徒の間で話題にならないほうがおかしい。
 オレはどんどん開いていく水谷との距離をあえて放置しつつ、受験勉強に没頭していた。
 水谷は卒業するための日数をやり繰りしつつ、なんとか登校しているようだった。丸一日休むこともあれば、午前か午後のどちらかだけ来たりする。なんでそれを知ってるって、女子が「今日水谷君来てるよ」と話題にするから、『水谷』という単語に敏感になっているオレはどうしても聞き耳を立ててしまうのだった。
 元々あまり接点なんてなかったから、同じ部活だったのにもかかわらず、あちらから話しかけて来なくなったら他人と同じくらいまで関係が薄くなった。
 当然オレから積極的に関わることもなかった。キスされて「好きだ」と言われ、そんなの困ると断った相手へ易々と話しかける無神経さを持ち合わせていない。気まずすぎて一秒たりとも同じ空気を吸っていられない。
 というか雑誌の件以来、水谷の周りにはいつも女子生徒と野次馬で溢れ返っていて、とてもオレなんかが話しかけてもいい雰囲気じゃなかった。水谷と話したい人を熱意がある順にランク付けしたら、オレは多分最下位だと思う。別に関わりたいわけじゃないけど何となく様子が気になる。その程度の理由しかなかった。
 振られた水谷も振ったオレと顔を合わせるのが嫌なのか、偶然廊下で出くわしても「おー」と軽く挨拶するくらいだった。
 冬休みになると、水谷のことを考えていたスペースへ、どん、と英語が間借りして、そのまま合格発表までずっと居座り続けていた。だからオレは水谷のことなんてすっかり忘れていた。
 卒業式のときに「あ、そういえば」と思い出したが、相変わらずあいつの周りは人が多くて、キスされたとか好きと言われたとか、そんな過去にこだわっている自分がとてもちっぽけに思えてしまった。水谷はもう前へ進んでいて、オレのことなんてどうでもいいような雰囲気が漂っていた。
 最後に会ったのは卒業式きりだったけど、あのときの水谷がどんな表情をしていたのか思い出せない。和やかに笑っていたような気もする。ちょっと疲れていたような気もする。大勢に囲まれていたせいで、どうもはっきりと印象に残っていなかった。

作品名:ゴーストQ 作家名:さはら