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ゴーストQ

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 その逆襲なのかもしれない。その年の夏頃にはテレビで、雑誌で、広告で、あいつの姿を見ない日は無かった。水谷はあっという間に人気絶頂のアイドルになってしまった。
 オレが水谷のことをどうでもいいと切り捨ててしまったから、今になって仕返しをしているのだろうか。そんなの独りよがりな思い込みだと気づいているけど、こう頻繁に水谷の顔と遭遇すると気が気じゃないのだ。思わず身構え、未だあの日の出来事が鮮明であることに驚く。下唇を軽く噛むと、水谷の舌の感触までありありと思い出してしまう。
『ずっと好きだったんだ』
 震えていた声の調子まで耳に残っている。
 しかしあの告白は現実にあったこととはますます信じられなくなってしまっていた。水谷の知名度が上がれば上がるほど、それに応じて実物のリアリティが薄れていくように感じた。本当にオレは水谷と唇を合わせたのだろうか、「好き」と言われたのだろうか。全部オレの妄想で、実際は何もなかったのかもしれない。
 まさか。それは絶対ない。ない……と思う。
 どうしてなのか、断言できない。それくらい水谷は雲の上の人になった。
 当の水谷はきっと忘れている。以前「嫌なことは覚えてないタイプ」と言っていた。オレに告って振られたことなんて、もう頭の片隅にも残ってなさそうだ。それに卒業するときですらあんなに人に囲まれていたのだ。今はその比じゃないくらいにぎやかだろう。想像力の貧しいオレがイメージする芸能人像によると、毎日がパーティでスペシャルに違いない。それらに上書きされるように、オレの存在なんか忘れていそうな気がする。
 でも決してあいつに自分のことを覚えていて欲しいわけじゃないのだ。ただオレがこうして水谷のことを意識し続けなければいけない状況が気に食わなかった。
 オレにとっての水谷は亡霊のような存在だ。街の中、テレビの中、あらゆるシーンに偏在している水谷と目が合うたび、瞳の強い光がオレへ強い暗示をかけてくるような気がした。暗闇の中で脚の無い水谷がこちらをじっと見ている。忘れるな、と言い続けている。
 オレは未だ水谷の姿に翻弄され続けている。もうここにはいない何かを忘れてしまいたくて仕方ないのに、拒否権など与えられず、否応なしに覚え続けている。
 
作品名:ゴーストQ 作家名:さはら