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コバラスキマロ

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 かまってもらいたくて、すうすうと寝息を立てている鼻をつまむ。栄口は「うーん」と邪魔そうな声を出し、オレの指をのけて仰向けになった。いわゆるガン寝ってやつだった。くっ、悔しい……。
 眉間に寄った皺がなくなり、栄口はまた深い眠りへ落ちていく。相手にしてもらえないオレはベッドの端を手で掴んで、その様子をじっと眺めている。
 ていうかこの状況、栄口はどうとも思ってないのかな。自分を好きな男の前で無防備にぐうぐう寝ちゃってさぁ。そういえばオレって一緒に寝ても何もしないし、信用されているのかもしれない。
 いや、何かしたら絶対引かれると思って我慢してるだけなんだけど。オレだって普通にアレコレしたいけど、高校のとき不意打ちでキスしたらかなり避けられたもんな。過去の教訓を踏まえつつ、長期戦でじっくりいかないと、今度はドアすら開けてもらえなくなりそう。
 でも「あと何年かかるんだよ!」っていうくらい栄口の反応は厳しいわけで。ちょっと抱きついただけで鉄拳が飛んでくる。男、しかも相手がオレだからか、拳に遠慮が感じられないぜ。
 そんな栄口を、ちゃんと空気を読んで、流されやすそうなムードを作れば、なんとかキスさせてもらえるくらいまで懐柔した。これは確実な進歩だ。オレってすごい。すごい!
 けどホントあと何年かかるんだろうねっていう。単刀直入に言うなら、いつになったらやらしてくれんのかなっていう。
 やっぱり時間が解決するものなんだろうな……。今の状態だったら、たとえ金を積んでも、土下座しても、「嫌だ」って返されて、もう二度とこの部屋に入れてもらえなくなりそう。それはなるべく避けたい。
 再度栄口の顔を覗き込むと、オレの頭の中に「据え膳食わぬは……」という昔の人の言葉が浮かぶ。決して栄口から言い寄られたわけじゃないけれど、これはどう見ても据え膳だろー。変な仕事をしているけれど、オレだって普通の一般男子です。この状況で平然としていられるほうがおかしい。
 口をくっ付けるくらいならいいかな。鼻つまんでも起きなかったし、多分この程度ならバレないだろう。
 オレの毛先が斜めに傾き、目を開けたまま唇を近づけた。柔らかいけれど、表面が乾いた感触が伝わってくる。たったそれだけなのに頭がくらくらした。
 ずっと何も食べずにいて、突然とても甘いお菓子を食べたときみたいな感じ。血へどろどろと砂糖が流れて、身体が生理的に無理矢理テンションを上げてくる、あの狂った高揚感。そういえば最近忙しくてキスするのも久しぶりだった。
 要するに魔が差したのだった。オレもベッドへ乗っかったら、ぎ、と軋んだ音がした。耳の横へ腕を立てて栄口を見る。蛍光灯を背に受け、オレの影が穏やかな顔を暗く覆う。もう一度唇へ触れてみても、やはり栄口からは何の反応もない。
 それで気が大きくなってしまい、オレは初めて栄口の口の中へ入ってみた。寝ているせいか歯は閉じていて、舌で軽くこじ開ける。忍び込むのは簡単だった。オレの舌先へ、同じように濡れた栄口の舌が当たる。ぬるくて柔らかくて、今までずっと我慢してきたことを心底後悔した。

作品名:コバラスキマロ 作家名:さはら