コバラスキマロ
これが気持ちいいことだとなんて、まだはっきり把握できない。濡れた何かが口の中で不器用に絡み合っただけの気もする。でもどうしてなのか、ぬめぬめした感触とぬるい温度だけで、行き場もないのに急かされる。
だから止められない。答えを見つけたくて探るうちに唾液が少しこぼれ、口の端が濡れて冷たい。でもなんかそういうのも、もうどうでもいい。拭う暇なんてない。
溶けるのを黙って待っていられないから、せっかちなオレは自ら溶かすようになる。溶かし出したらすぐに栄口のと混ざり合い、腫れぼったい粘膜の上でゆらゆらとたゆたう。息継ぎの拍子に、ちゅ、と水音がした。もうだいぶどろどろになった気がする。
体液の交換と例えるならひどく現実的だけれど、多分本質的にはそういうことなんじゃないだろうか。オレはもっと栄口の味がするものを欲しがっている。甘いか辛いかなんてどうでもいい、とにかく栄口を食べてみたい、味わってみたい。
調子に乗ったオレが絡めた舌を軽く吸ったら、それまでじっとしていた栄口が初めてびくりと震えた。もしかして、と舌を滑らすと、隠れるように引っ込められた。
嫌な予感に目を開ける。栄口はその瞳に動揺を映し、こちらを見ていた。
やばい、蹴られる……と首筋に危機感が走る。きっと腹あたりへ容赦なく膝蹴りが入って、オレはしばらくゲホゲホとむせるハメになる。
けれど栄口は何もしてこなかった。くっ付いたままの唇を離そうともしない。オレの下でただ怯えている、そんな様子だった。
あれっ? これって大丈夫ってこと? このままいっても問題ないかんじ?
口を離すと、入れっぱなしのオレのベロもぬるりと引き抜かれた。栄口の唇にオレが舌を入れていた隙間がそのまま残り、そこから言葉が紡がれる気配は無い。わずかに顔を引いてその表情を確かめた。至近距離で目が合ったと思ったのに、すぐに逸らされてしまった。
いいのかな?
ちゅ、ちゅ、と触れるだけの軽いキスを二、三度落としても栄口は何も言わない。試しにもう一度舌を入れてみた。抵抗されない。むしろオレの自由を許している。
これはゴーサインだろー!
ずっと『待て』をされていた犬が『よし』を言われたみたいに嬉しさを抑えきれない。胸にこみ上げて来るものが半端なくて、たまらず美味しそうな曲線へ歯を立てた。
「いっ……!」
首筋をかじった力が強かったらしく、栄口が小さく悲鳴をあげる。テンションが上がりすぎて変なことをしてしまった。赤く色づいた箇所を手当てのつもりで舐め上げると、首を覆う皮膚の柔らかな感触を知る。他のところより薄く、吸い付くたびに栄口の鼻先から堪えるような息が漏れる。
手が握りたくて探したら、棒のように緊張した腕でやたら硬く握り込まれていた。オレの緊張もかなりのものだけど、栄口はそれをも上回っているようだ。