移り香にご用心
―――あれ?
「ちょ、山田さん!?」
おかしいです。
―――相馬さんから、異質な匂いを感じます。
くんくん、と大袈裟に鼻を鳴らすと、確かにそれは存在を持って山田にアピールしてきます。
「山田さん!ちょっと止めてよ…!」
相馬さんが焦った声で山田を制しますが、今はそんな事はお構いなしです。
山田、とんでもない事に気付いてしまいました。
「相馬さん、山田、やっぱりおかしくないです」
「いやいや、充分おかしいからね!?」
焦る相馬さんの制服をぎゅっと掴み、大きく息を吸い込みます。
「相馬さんから、佐藤さんの匂いがします!」
「へ!?」
そうなんです、相馬さんの柔らかい匂いに混じって、佐藤さんの意地悪な匂いが漂ってくるんです。
その訳を、山田はとてもとても知りたいのです。
「や、山田さん、それは、さっきまで佐藤くんと一緒に、倉庫の整理してたからだと思うんだけど…」
「いいえ、そんな程度じゃ、こんなにはっきりと匂いが移らないと思います」
「そ、そんな事はないと、思う、けど」
語尾が弱くなる相馬さんに、山田は直感します。
これは何かあった、と。
「違います。いつもお二人は一緒の空間でお仕事なさってますが、今まで一度も相馬さんから佐藤さんの匂いがした事はありませんから」
「え、っと…実はね、さっき俺がドジっちゃって、佐藤くんに思い切りぶつかっちゃったんだ…それでじゃないかな?」
「…本当にそれだけですか」
「それ以外に何があるって言うの?」
相馬さん、目が泳いでます。
完璧に怪しい。
「山田、佐藤さんに聞いてきます」
「ちょ、山田さん!?」
「俺が何?」
グッドタイミングです佐藤さん!
いつもは意地悪で山田の事苛めてばかりですが、今日ばかりは佐藤さんが輝いて見えます!