移り香にご用心
「佐藤さん、佐藤さん!山田、佐藤さんに聞きたいことがあるんです!」
「何だ?」
「あ、佐藤くん、あの、」
相馬さんが何か言いた気に、佐藤さんに纏わりついてます。
だけど、佐藤さんは気にせずに、山田の言葉に耳を傾けてくれています。
「あのですね、相馬さんから佐藤さんの匂いがしたんですが、それはどうしてですか!」
「山田さん…!」
相馬さんの顔が、茹でタコさんみたいになってて面白いです。
佐藤さんはと言うと、暫くぽかんとしていましたが、何かを思い出したようにぽん、っと手を打っていました。
「山田、それはな…」
「わーわー!!佐藤くん、そろそろ仕事に戻らないと…!」
「相馬さん、ちょっと静かにしてください!佐藤さん、続きをどうぞ!」
「ああ…それは、」
「ぎゃー!!だめっダメだよさと、んぐ!?」
「煩ぇ」
佐藤さんも苛々したように、相馬さんの口を塞いでしまいました。
これで漸く真相を聞き出せそうです!
「実は___」
佐藤さんが口を開くのがもどかしいです。
早く、早く山田に真実を…!
「こら山田!またこんな所でサボって…って、何やってるんですか」
「た、小鳥遊さん…!」
まずいです、山田、遊んでたわけではありませんが、それ以上にバレてはいけない真実が山田の手の中に…。
「ああ、小鳥遊。ちょっとこいつらで遊んでただけだ」
「ぷはっ!ちょ、佐藤くん、酷い…!」
漸く解放された相馬さんが、ぷるぷる震えながら佐藤さんを睨んでいます。
それを見た佐藤さんが、悪魔の様な微笑みを浮かべたのを、山田はこの目に確かに焼付けましたよ。
「佐藤さんも相馬さんも、オーダー溜まってますから、戻って仕事してください」
「おー、わかった」
「…了解」
「そして、山田」
びく!
この隙に逃亡を謀ろうとしたのに…!
小鳥遊さんには何もかもお見通しで、山田は恐怖を隠せません。
「な、ナンデスカタカナシサン…」
「お皿が次々と行方不明になるんだ…不思議な話だな」
「そ、ソウデスネ」
「それも、お前が入ってる時にその怪奇現象は起こるんだ、不思議な話だな」
「ソウデ、スネ」
「…山田、これ以上俺を怒らせたら―――」
「ぎゃー!ごめんなさい!山田のせいです!このお皿も割っちゃいました!ごめんなさいー!!」
凄む小鳥遊さんの空気に、山田は思い切り呑まれてしまいます。
うう、小鳥遊さん、怖い…!
(あれ、佐藤さんと相馬さんがいない)
はっと気付けば、この空間には、山田と小鳥遊さんの二人だけになってしまっていました。
何時の間にやら姿を消したお二人に、思わず肩を落としてしまいます。
結局、相馬さんの秘密を教えてはもらえませんでした。
しかも、お皿の件も小鳥遊さんにバレてしまいましたし…。
山田、どうやら今日は厄日のようです。
(後で絶対聞き出してやります!山田、頑張ります!)
えいえいおー!と心の中で叫んだつもりが、どうやら声に出ていたみたいです。
今日一番と言える小鳥遊さんの怒号が、辺り一面に響き渡りました。
その後の佐藤と相馬→