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甘ったれと甘やかしと隕石とストレス

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「――― てめえでもそう思うんなら、どうにかしろ。おれが言うことじゃねえが、てめえの甘さは、この世界に必要じゃねえ」
 立ち上がって見下ろした男の瞳は、むこうで海に落ちる夕日と同じ色で、なんとなく、見ていられなくて、眼をそらした。
「―― はいんぞ。もう、外はいいだろ」
 乱暴にグラスをとりあげ、先に建物をめざす。
 童顔は、立ち上がってついてはこなかった。





 つまりは、好き好んでここにいるわけではないのだ。

 グラスを満たす液体を一気に飲んだのは、べつに自棄(やけ)になっていたからではない。ただ、いらついていることは事実だ。
 この島に休暇できたということ自体は、じつはそれほどはイヤでない。なにしろ正式な上司命令で、しばらくはあの面倒なやつら(当の上司含む)から開放されたのだ。
 ――― この平穏な時間を大切にしねえでどうするよ
 仕事がいやだとか同僚がいやだとかいうことではなく、思いがけず手に入れた自分の時間を少しは楽しもうと思っただけだ。  のに・・・。
「・・・・ったくよお・・・」
 ここへと誘った男自身がこの休暇を楽しもうとはまったく考えていないのだ。
 小型機を乗り継ぎ、最後はボートで送り届けられたここで、身なりだけはすっかり休暇ヴァージョンに変えたくせに、気分はまったく切り替えられていない。
 乗り物の窓から外を眺め、どうにかつけたはずのカタを思い起こし掘り返し、後悔をならべ、ため息をふきかける。――― 見ているだけで、イラっとした。
よほど、怒鳴るか、殴るか、と考えたのだが、島に着いた早々に「夕日でもみようか」なんて誘いをうけてしまい、あのデッキに座ることになったのだ。
 普段の、のんきで、あまくて、うすっぺらい笑いを浮かべる幼稚な顔はなかった。海を眺めるのは、しずかに、つめたく自分をふりかえり、自嘲ぎみに口元をゆるめる、組織を背負った、疲れ気味の男の顔だった。
 ――― 少しは、歳に見合った顔だ。
 だが、それはあまりにも似合わない顔だ。
「・・・ったく。いつまであそこにいやがんだあ?」
 デッキからいまだ動かないその影を窓からみやる。
 外はもう夕日が完全に海におち、あとはただ、空がすべて夜になるのを待っているだけだ。
 デッキの椅子やテーブルが、真っ黒なシルエットで浮かび、そこに座る男の影と一体になっている。
 部屋の中でグラスを傾けるのにもいいかげん飽きたと自分にいいわけをした男は、眉間をきつくしたまま、プールへ続く白い石畳沿いに、ガラス張りの半テラスを出ていった。


黒く動かないシルエットに近付くにつれ、いつものように男がのん気に寝こけていてくれれば楽だな、などと考えてしまう。
それほど、今回は、正直扱いにくいな、と感じていた。

「―― おい、もういいかげん冷えるぞ」
「・・・うん、そうだね・・」
 返事をしながらも、動こうとはしない。
 いいかげん、苛立ちも限界だ。
「ってめえなあ、こんなもんでそんなにへこんでて、この先もやっていくつもりなのかあ?そんなに気分がなおせねえほど嫌なら、とっととやめちまえ」
「・・・やめる?」
 ようやく、こちらの言葉に反応をしめした。
「この仕事をやめろっていってんだあ。元々てめえには合わねえ世界だろ?今も、そういうふうに思ってるじゃねえか。自分は『甘い』。そのせいで、今回みたいなことになった。てめえのことだ。どうせ、周りに迷惑かけてどうのこうのなんて、うじうじ考えはじめてやがんだろおが。そんなことで、この先もあのでっかいモン背負っていけんのかあ?」
「・・・そ、れは・・・」
「決定だなあ。今のおまえには無理だろ。やめちまえ。おれがすぐに手をまわしてやる。こんなんじゃあ、あのアルコのクソガキだって了承するだろうよ。あれは、プロだ。組織のてっぺんがこんなんじゃあ、下がもたねえってすぐに理解できる。――― 」
  わざと、一呼吸とる。
「―― よかったな。お前が途中放棄しても、後を任せられるアテがあって」
「っ!、・・・・」
 ようやく、薄闇で、その眼をとらえる。それはすでに、夕日の色はしていない。
「―― 何、驚いた顔してやがんだあ?その可能性をさっきお前自身が口にしたじゃねえか?―― そのことに、おまえ自身、ずっと甘えてきてるってのに、今、気付いたか?」
「―――― 容赦、ないな・・」
「事実を言ってるだけだあ」
 指摘に、顔がそらされた。
「―― おれ、おまえはもっと、・・・おれに優しいかと思ってたよ」
「は。冗談いうなあ。おれの上司は、あの男だぜえ?」
「だから、苦労してる分、」
「おれは、仕事の範囲内でしか、おまえに肩入れしたことねえぞお。勘違いすんな。おれは、てめえの『お友達』じゃあねえ」
「・・・・そうだね。・・・知って、るよ」
「ならいい。この休暇だって、おれは、仕事で来てんだぜえ?」
「・・・知ってる・・」
「―― なら、とっとと中にはいれ」
「・・・・・・」
 もう、これ以上言うのは無駄だと思ったので、いいおいて背をむけた。

「―― あれ?・・なんだろ?」

 数歩進んだときに、背後でそんなつぶやき。
 肩越しに振り返った男は視界の端に捕らえた違和感に気付き、つぶやいた男と同様に空を見上げた。

「  げ  」




 光で、その場が焼き尽くされた。


 白い閃光。
       熱。
              衝撃。
              


          
          
          
           ―――― そして、のみこまれる。








         ――――― ※ ※ ―――――







 誰かが呼んでいた。
 なんだろう。ひどく、困ったような、さしせまったような・・聞いたことのある声だ。


「――― おい。しっかりしろ」
「――― ・・・・う?・・」

 うっすらと開いた視界いっぱいに、のぞきこむ男。

「・・・あ・・・・すくあーろぉ・・」
「うなされてるから、どっか痛むのかと思ったぜえ。大丈夫か?」
「・・・なにが?」
「・・・おまえ・・・頭打ったかあ?」
 首をかしげるのに、すこし心配そうな声をだす。
「大丈夫だよ。心配性だなあ」
「べ、べつにてめえの心配なんかっ」
 銀髪の男がわめこうとするのを押し戻し、ベッドに身を起こした。腕が痛い。
「アザがある・・・」
「・・・そりゃあ、ぶっ倒れたから・・って、おまえ、もしかして覚えてねえのか?」
「いや。え〜っと・・・なんか視界が真っ白になって・・」
 ぼんやりとした記憶を口にする。どうにも頭がぼうっとしている。
 相手は顔をしかめ、ため息をついた。
「ったく。てめえがぼうっと見上げた空をおれも見たら、すぐそこまで何かが迫ってて、それがそのまま、あそこの浜に落ちた」
「おちた?」
「落ちたなんてもんじゃなかったけどな。この建物のガラスも特殊防弾だったからもったようなもんだ。外のデッキと椅子やテーブルは見事に全部ぶっ壊れてるぜえ。落ちてきて浜にどでかい穴をあけたのは、煙を上げたまっくろで岩みたいで、人の手が加わったようなもんじゃねえ。どうみても、隕石ってやつだな」