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甘ったれと甘やかしと隕石とストレス

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 出た途端、わ、寒い!と腕を押さえた童顔が、軽く銀髪の男にすくいあげられた。
「な、なに!?」
「とっととシャワー浴びて、昼寝だあ」
「それ、賛成!」
 濡れたままテラスを通り、リビングを突っ切って二階へのぼる。
 バスルームへそのまま入った銀髪が、すぐにシャワーをだした。童顔をおろすと何の躊躇もなく水着を脱ぎ、そのまま身体と髪を流しはじめる。
「ちょ、ちょい!」
「あ゛あ゛?男同士だからいいだろがあ。すぐに出る」
 宣言どおり、銀髪はとっととそこをあとにした。
 脱いだ水着をランドリーに続くボックスに放り込む。私服のジーンズだけ身につけ、そのまま下にもどると、昼食の用意をはじめた。
 なるほど。
 冷蔵庫の中は、馬鹿でも用意できるものでいっぱいだ。この分なら地下室の冷凍庫も満杯だろう。
 後から来た童顔が、嬉しそうに用意された食卓についた。
 まだ水中の興奮がおさまらないようにしゃべり続け、ぺろりと皿をあける。片づけをするから先に昼寝しろといったのに、自分も手伝うと、当然のように、後をついてくる。
 食器洗浄機に皿をつっこむときも、いかに食事がおいしくて幸せか、なんてことをしゃべり続ける。
 記憶がない不安は、どこにも見当たらない。
 もう一度、水分をとり、そろって上にあがった。
「おい、昼寝前に、頼みがあんだが」
「なに?」
「打ち身に、シップでも貼ってくれんだろ?」
「あ、うん。もちろん」
 頷く童顔を、部屋にいれると奥のベッドへつれてゆき、そのままはいていたジーンズを脱いだ。
「な、なんで、下、何もはいてないんだよ?」
「あ?すぐに寝ようと思ったからなあ」
「・・・基本、寝るときマッパかよ・・」
「普通そうだろが?」
「・・・もう、いい。早くシップ出して横になれ!」
 命じる童顔に、銀髪はチューブ薬をさしだした。
「じっくり、ていねいに塗れよなあ」
「―― なんか、いやな頼み方だな・・」
 ぼすり、とべっどにうつぶせた男は変色した左半身をみせている。
 たしかに、自分のアザなどよりよっぽどひどいそれは、シップでは範囲が広すぎる。
 冷たく透明なジェルをだし、肩甲骨あたりから、ぬりだした。
「―― おい、もっと、ゆっくりだあ」
「う、わかったよ」
 なんだかあせったように動いていた手を、調整する。ぬるり、とそれを、白く筋肉質な身体にぬりこんでゆく。 脇にも筋肉の段がみてとれる。
どうにも、いやみったらしい身体だな、と思いながら、下へゆく。腰のあたりで、迷う。―― これって・・・。
「あのさ、このへん、とばす?」
「ああ゛?なんでだあ?」
 ベッドにふせていた顔があがった。
「だって、その・・・気持ち悪くないか?」
「――― っく」
 いきなり、相手が笑った。
「だ、だって、男にこんな場所」
「どんな場所だあ?」
「いや、だから、」
「いいから、続けろお」
「―― うん・・」
 しかたなく、そこに手をのばす。
 いや、同性の尻をじっくり見る趣味なんてないけれど、・・・眼がいく・・・。
 尻の脇まで、しっかりと変色していた。
 そこから続く腿の横。
 やはり、ずいぶんと広範囲だ。 肌が白いせいで、よけいにめだつ。
 膝までいき、その下に変色はないのを確認し手を離せば、男はどうやら眠ってしまったようだった。
 足元にまとまった薄い布団をかけてやり、うつ伏せでは苦しいかと髪をかきあげ、顔をのぞいた。
「わ。起きてた?」
 するどいまなざしと合い、驚く。さらに驚くことに、腕をひかれた。
 そのまま、相手の横に倒れこんだ。あわてて起きようとしたが、おさえこまれる。
「なっ、ど、どうしたんだよ?」
「昼寝だあ」
「ばっか、おれは自分の部屋で」
「ここにいろ」
「・・・・・」
「まさか、一人寝が淋しいっていう友達を、おいていったりしねえよなあ?」
「さびしいって・・・嘘くさ」
「うるせえぞお」
「んがっ、ぐるじい」
 つままれた鼻をどうにか開放すれば、銀髪が首元にもぐりこむ。自分と同じソープの香りがして、いきなり顔に血が昇る。
「あとで、起こせよお」
「―― 自信ないけどね」
 ごまかすように、強く眼を閉じた。
 
 
 
 


「・・・てめえ、あのクソ王子によく似てるぜえ」
「王子?どこの?」
 いらついた銀髪の言葉にも、記憶は刺激されないようだった。
 
 夜は、そのままごろごろとベッドですごした。主に、お菓子を食べ、マンガを読み、だらだらと・・・。
 それにキレたのは、ベッドの持ち主だ。
 
「――ったく。すっかりコウタイしやがって・・」
「なに?」
 ベッドの反対側で胡坐をかく男は、あきれた視線をよこす。
「・・なんでもねえ。おれはてめえのベッドで寝るからなあ」
「あ、今度は一人寝できるんだ?」
「食べかすにまみれて眠るより、よっぽどましだぜえ」
「おれも、マッパの男と寝るより、よっぽどいいよ」
 ぽい、と菓子を口に放り込んだ男の手首を、いきなり銀髪がつかむ。
 いまだに、何も身につけていない男は、そのままつかんだ手首を顔の前にもってゆく。
「っな、」
 指が、いきなりくわえられる。
 舌が、つ、と中指をなぜ、先をつついて、からみつき、口中にひきいれた。
「っや、めろ!」
 だが、手首がはずれない。二本目の指が、熱く湿った口へと入る。
「す、すっくあ、」
「―― 思い、だせねえか?これでも」
「『これ』?・・・え?」
 にやり、と、相手が取り上げた手の平を、なめあげる。
「ひ、」
「毎晩、こうやって、愛しあっただろ?思いだせねえのかあ?」
「―― あ、いし・・・・・・・・うっそ・・」
「さっき、おれの身体触ってるときにも、何も思い出さなかったかあ?」
 ひどく、かなしげなまなざし。
「ださないださない!・・・ってか、・・・ほんと?っつ、」
 手首をひかれ、かかえこまれた。
 そのまま銀髪があおむけにたおれ、その上に重なってしまう。
「っす、すく、」
「キスしてえ」
「・・・・・・」
 きつい目元が、情けないようにゆるみ、童顔の頬を、大きな手がなでる。
「おれとのことを、思いださなくてもべつにいい。言った通り、おれたちは友達だったわけじゃねえし、仲がよかったわけでもねえ。―― ただ、こうやってさわって、なめて、確かめ合ってただけだあ。・・・それだけの関係でいい。この先も」
「そ、そんな」
「おまえは、嫌がってたなあ」
「え?・・・そう、なの?」
「ずいぶんと、おれのこと、嫌ってたぜえ」
「そんなこと!・・・たぶん、ない・・・」
「―― あん?」
「だって、・・・その、今、・・・イヤじゃ、ないし・・・」
 見下ろす瞳が、潤んでいる。
 思わずゆるみそうになる口元を、ひきしめ、静かに頼んだ。
「―― キス、だけでいい」
「・・・・ん・」
 相手も、口元をしめ、静かにうなずいた。
 ゆっくりと、顔が近付く。ふせられた目元が、あかい。
 自分の喉が、知らずに鳴ったのは、なかったことにし、ゆっくりと、その唇をうける。
 二回、三回。 頬を、やさしくなでれば、四回目が降る。
 唇は、まだ開かない。