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甘ったれと甘やかしと隕石とストレス

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「聞いてくれよ!だいたいおれがお前に甘えたのって、おまえならおれの気持ちわかってくれるだろうって思ったからだし、あのときも、あそこでひどく困った顔でおれのこと見てくれたから、おまえを誘ったんだぞ!・・おれたちって、ずいぶん苦労してる分、わかりあえるって思ってたのに、こっちに来たらおまえはやっぱりあのクソボス様の部下で、おれのことなんてどうでもいいって思ってるのがわかって、すっげえショックだったっていうか」
「おい」
「せっかく一緒にこんなとこまで来たんだから、ちょっとはいたわってくれてもいいだろ?なのに、あんな容赦ない言葉おまえにまでもらうとは思ってなかったよ。そりゃこれは仕事のうちにはいるだろうけど、おまえは本当はやさしくて常識あっていいやつだって思ってるから、なんだか自分があまりにも情けなく思えてきて、ほんっと、どうしようもなくってさあ」
「う゛おい」
「だいたい!今回の件は、本当にイヤだったんだ!ほんとうは途中でやめたかったけど、おれの立場じゃそんなわけいかないし、できるだけ、後にひびかないように最善をつくそうって思って、そしたら、変に時間かかって、手間もかかったけど、これが!おれにできる最良の方法だったんだよ!おれが甘い?甘くて悪いか!自分にも甘いって?そりゃ当然だろう?文句あるか?ないだろう?ないからみんな、黙って後始末に走り回ってくれてるんだ!!こんちくしょお!おれはボスだ!いちばん泥をかぶって当然の人間なんだよ!おまえらを守るために、おれはいるんだぞ!!なのに、おまえらみんな、おれに甘すぎだあ!いつも迷惑かけててみんなに蹴飛ばされてもおかしくないこんなおれを、愛してくれてありがとおお!!甘くてばんざい!!おれのクソふぁみりい!!」
 一気にまくしたてた童顔は、間抜けにも裸で、手足をしばられ、ベッドに仰向けになったまま、ぼろぼろ泣いていた。
「・・・・ったく。しょうがねえなあ・・・」
 タオルでぬぐってやった顔が、まっすぐに銀髪をにらむ。
「―― このアホタレ。あんなでかい隕石、予測できなかったのかよ?」
「できるか。年間でいくつ地球に降ってくると思ってんだあ」
「そんなに?」
「てめえが、押し返せば早かっただろおが」
「無茶いうなよ。あんときは、本当にへこんで、立ち上がる気力もなかったよ」
「ざまあねえなあ。甘ちゃんはよお」
「このワイヤーを早く取らないと、さっきの注射をおまえに打つぞ」
 片眉をあげて笑った銀髪が、ぎしりとベッドにのりあげ、解く。
「好きにしろお。ありゃあ、ただの栄養剤だあ」
「・・・・おまえって・・・」
「ほら、はずせたぜえ。足は自分でやれや」
 記憶も元にもどり身軽に起き上がった男は、自分の身体をみおろし、ため息をついた。
「あのさあ、なんで、おれとおまえが、そういう関係の設定にしたんだよ?」
 腰掛けた銀髪も、いまだに裸だ。
「あ゛?だっててめえ、ちょうど、あのころじゃねえのかあ?うちのクソボスと」
「わああああああああ!!!違う!それ、違うからあ!!」
「・・全力の否定が、肯定だよなあ」
「ほんと、違う!・・・でも、おまえに言われたのは、合ってるよ。―― おれがやめても、うちの組織にはあいつがいる、って。いつも、どこかで、・・・アテにしてる」
「―― 気持ち悪りい甘え方だあ」
「甘え・・・てるのか・・。はは、そりゃ気持ち悪いな。―― もう、やめるよ」
「・・ああ、そうしろ。―― ひっでえ顔だなあ」
 ぐい、ともう一度、タオルでぬぐう。

 見直した顔は、見慣れた、甘い、のん気な笑いをうかべる、昔とかわらない童顔だ。
「―― おい、おれは、てめえの友達じゃねえぞ」
「知ってるよ。この先も、だろ?なにしろおまえは、―― おれの部下だ」
「はん、誰がだあ。てめえはおれの上司じゃねえぞお。こんなクソ甘い上司なんざ、願い下げだぜ」
「え?そう?甘さはともかく、お前に対する甘えっぷりは、おまえんとこの上司と、同じくらいだと思うけど?」
 童顔が、いつものようにくすくすと笑う。
「―― 気色悪りいこと言うなあ。・・でぇ?この先も、てめえはうちの組織のてっぺんやるつもりかあ?」
「もちろん」
「・・・背負うもんは、重いぜ・・」
「重々承知。―― とくに今回は身にしみて。・・・まあ、おまえだって、おっもいのしょってるだろ?」
「――― そんな甘いくせに、務まんのかあ?」
「どうかなあ・・・おれのこの甘さは、おれを甘えさせてくれるおまえらみんながいる限り、きっと治らないよ。おまえも気がむいたら、ケツを蹴ってくれていいよ」
「冗談じゃねえ。そんな甘えは、てめえんとこの守護者どもにでもむけやがれ。だいいち、逃げ込む懐をてめえは間違えやがっただろお」
 童顔は眼をくるりとしてから、声をあげて笑った。
「そりゃそうだよね。―― 帰ったら、はりきってまたみんなに甘えてくるよ」
「・・・開き直った馬鹿も、扱いにくいぜえ・・・」
「誰がなんだよ?」
「聞き流せ。―― これでようやく、静かな秋休みを楽しめそうだぜえ」
 いきなり、銀髪にラリアートを喰らい倒される。
「・・・えっと・・・これは・・・」
「おれはてめえの部下じゃねえし、友達でもねえが、こうして一緒に休暇をとりにわざわざこんな島まで来たんだ。しかも、てめえの心のケアまでしてやるはめになっちまった」
「・・・それは、・・感謝してる。その、なんだかんだと、おまえにはけっこうお世話になっちゃってるし・・・」
 見下ろしまたがった男の長い髪が、裸の胸をさらりとくすぐる。口の片側をあげた男が、しっかりとホールドするように、童顔の両肩を押さえ込み、ゆっくりと、のしかかる。
「ゆったよなあ?『途中でやめる気はねえ』って」
「・・・え、っと・・」
「ベッドじゃあ、加減もできねえって、教えといたはずだあ」
「いや、あれは、だって」
 さらり、と、顔の両側に銀色の髪が囲いをつくった。
「――― おまえのキス、やらしいなあ」
「っばっかじゃね!お前のほうがよっぽどっ、   、  」
「  、 は、 望みどおり、『いたわって』やんぜえ 」

     ―――― ぐずぐずになるほどな ――――



  溶かして、甘えさせてやるなんて
             
              なんて、あまい ――――。







        ――――― ※ ※ ―――――







「―― ツナ、秋休みだったんだって?」
「ええ、いい、休みでした。隕石なんてのも初めて見れましたし、色々新しい発見もあって・・・。気分も改めて、新学期にむかいますよ」
「ふうん・・・」
「――― ディーノさん?」
 いきなりやってきた金髪兄貴分が、ソファからじっと見つめているのに気付いた。
 あの騒動前に会ったきりだから、ずいぶん久しぶりだ。
 心配した、とハグしてくれ、机の書類仕事を続けるようにすすめ、いつものようにお互いの報告を終えた後の、何気ない問だったはずだ。
「――いや・・・なんか・・。大変だったな。・・・例の騒ぎのとき、うちを巻き込まないようにしてくれたって、後で知ったよ。でも、――― ツナ、水くせえよ」