こらぼでほすと 拉致7
年上で包容力のある胸のある女性が好みです、と、ニール当人が宣言しているのだが、そのポイントに的確にヒットしているはずの二人に、そういう気を起こしたことが無い。そこいらが、虎も気になるところだ。
「そりゃ、あの律儀な性格じゃあ、不倫はしないんじゃないか? 虎さん。」
「いや、そこじゃなくてな、鷹さん。」
「ああ、ママは今のところ睡眠欲ぐらいしか興らない体調だからな。・・・さすがに俺でも、あれが据え膳してくれてもご辞退させてもらう。」
鷹の言わんとすることを虎も理解した。なるほど、と、頷く。まあ、それはそうだろう。桃色子猫や天下の歌姫様と同じベッドで眠っても疚しいことが何もないのだ。今のところ、そんな気分になるほど体調は良くないし、できるほどの根性も無いらしい。
「・・・それって、鷹さんみたいな人間には、かなりおいしい獲物なんじゃないのか? 」
「実情を知らなければな。・・・・てか、虎さん。俺は据え膳をいただいているだけで、アタックすることはないんだが? 」
「そういう意味では、ムウはホストに向いてると思うわよ、アンディ。」
「おいおい、マリュー。」
「その気のあるのを、その気にさせて誘わせるんだもの。凄いテクニックじゃない? 」
「確かにな。」
「酷い言い草だ。俺は無差別に食い散らかしたりしてません。」
「ソウナノ? 」
「アイシャ? おまえさんもかよ? 俺、アイシャを口説いたりしないだろ? 」
「ソウネ。口説かれテハいないわ。」
「虎さん、きみにベタ惚れだからな。誘ってみろよ、確実に俺は殺されるね。」
「おい、仕返しか? 」
「事実だろ? あんただってママが、そういう気配があったらアイシャを近づけないだろ? 」
「まあなあ。」
「はははは・・・愛されてるなあ、アイシャ。」
「アタリマエ。」
その茶話会に参加しているダコスタは、会話に参加できないままに、内心でツッコミする。その大人の会話に参加できるだけの経験はないが、それを独り者の前で盛大にやらかすな、とは言いたいところだ。
本宅では、のんびりとした正月が展開していた。さすがに元旦は、ニールがラクスをベッドに押し込んで過ごさせた。バタバタしたら熱か上がるから、ごろごろしていろ、と、命じて寝室で、映画を見たりしてフェルトと一緒に過ごさせた。二日は、もう治りました、と、歌姫様はかねてより用意していた桃色子猫とお揃いの振袖を着付けてもらって写真を撮った。何着も用意させていたので、とっかえひっかえに着替えていたので、夕方には、ふたりとも疲れて早く休んだ。
三日目は、少し正月の遊びをしてみましょう、と、本宅にある和室にこたつを設置して、カルタなど用意したものの、できないことが判明した。
「あのな、ラクス。俺もフェルトも極東の言葉はスタンダードなら喋れるが、文字までは無理だぞ。」
そうカルタの文字は、極東のキラの出身地域のものだ。桃色子猫も親猫も読めないのだ。
「これは失態ですわ。・・・・では、私が読み上げて文字を読み札で見せます。」
カルタの取り札には、読み札に則した絵と頭の文字が描かれたものになっている。だから、ラクスが読んで、その読み札の頭の文字を見せれば探すことはできるだろう、と、とりあえず試してみることになった。ニールも参加はするが、主にフェルトの援護をしている。こういう遊びは組織ではしていない。
「ほら、犬も歩けば・・ってことは、犬の絵が描かれているはずだ、フェルト。」
「・・う?・・ああ、うん。」
これ? と、指差す。そうそう、と、ニールが頷くとフェルトが取上げる。ラクスも、フェルトが見せる取り札に、うんうんと頷く。もはや、カルタという本来の遊びではなくなっているが、これはこれで楽しいから、みんな、スルーだ。一通り絵札を取り終えると、カルタは終了だ。
「そうですわ、ママ。お肌のお手入れをいたしましょう。」
「フェルトに、そういうの教えてやってくれ。俺は、ちょっと寝る。」
ひと段落ついたので、ニールはごろりと後ろに倒れる。畳だと、こういう時は便利だ。何もしていないのだが、やはり昼寝時間になると眠くなる。なんだか、ドタバタと気忙しい年越しになったから、ニールも気が抜けると眠くなる。
「では、ママはお昼寝が終ってからにします。フェルト、少しお化粧の練習をして遊びましょうか? ネイルもしましょう。明日、初詣に行くことになっていますから、オシャレしませんとね? 」
「ネイル? 」
「爪にマニキュアを塗って飾ります。付け爪というのもございます。」
「ツケヅメ? 」
「うふふふ・・・百聞は一見にしかず、ですわ。」
さあさあ行きましょう、と、歌姫は桃色子猫を引っ張って、私室へと出て行った。やれやれ、と、親猫はこたつで丸くなる。ちょうどフェルトが降りてくれてよかった、と、思っている。ラクスにしたら妹分のフェルトを構うのは、いい気晴らしになっている模様だし、フェルトも知らないことをいろいろと知ることになって楽しそうだからだ。
・・・・そういや、刹那が帰ってこないな・・・・・
予定では年末ギリギリと聞いていたのだが、黒子猫は戻らない。まあ、何かしらチェックすべきことがあれば、そこに留まることになるから、親猫も、それで焦れたりしない。世界の歪みは様々で、組織が引き起こした変革で歪みが生じていることははっきりしている。それをギリギリまで確認したい、と、黒子猫は地上を流離っているのだ。そこいらは、親猫のほうも理解している。ただ、まあ、なんとなく気にはなっている。さすがに、フリーダムで流離っているから無茶はしないだろうが、突発的なアクシデントなんてものは、起こりうるものだからだ。
・・・いや、それなら、ラクスがのんびりしてるわけもないよな。・・・・
ある程度、歌姫様の表情も読める。あの穏やかな表情から察するに、そういう事態は起こっていない。なら、やはり、どこかで探索を続ける必要ができたのだろう。
今年は、どんな一年になるんだろう。そろそろ穏やかではないだろう。紫子猫が黒子猫を招聘すると言ったのだから、組織の準備も終盤に差し掛かっているに違いない。ニール自身も身体は楽になっているが、それも根本的な部分では変っていない。待っていられるだろうか、と、それは気になっている。子猫たちを待っていてやるには、生きていなければならない。自分の身体だが、よくわからない。遺伝子段階の異常なんてものは、どういう症状を引き起こすものなのかわからないのだ。自分でも調べてみたが、該当しそうなものがない。だから、無理せず大人しくしていないといけないとは思っている。
ニール自身が生きて待っていることが、子猫たちには帰る意思を強くすることに繋がるからだ。逆に言えば、ニールも子猫たちが帰って来なければ生きている意味がなくなるから相互依存しているような状態だ。
作品名:こらぼでほすと 拉致7 作家名:篠義