こらぼでほすと 拉致8
「フェルト、明日はトダカさんとこまで行こう。ちょっと、あっちで用事があるんだ。」
「俺も行く。」
親猫が桃色子猫を誘っていると、黒子猫が親猫の背中に張り付く。どうしても離れたくないらしい。
「はいはい、刹那もな。悟空も行かないか? 」
「うん、行く行く。」
年末にトダカ家から拉致されてしまったので、あちらが、どうなっているのかわからない。トダカーズラブの面々は四日には退散しているはずたから、ちょっと様子を見に行くつもりだった。それに、年始の挨拶も、きちんとしていないから、それも目的のひとつだ。
「お菓子でも持って行こうかな。ああ、フェルト、クッキー焼こう。」
「うん、やるっっ。」
簡単なお年賀の品として、クッキーや焼き菓子ぐらいが妥当だろう。それなら、フェルトに教えつつ作れば、いい暇つぶしになる。
「俺、シフォンケーキ食いたい。刹那は? 」
「バナナのケーキ。」
「じゃあ、バナナのシフォンケーキとクッキーってとこだな。三蔵さん、あんたは? 」
「コーヒーか紅茶のケーキにしろ。」
「はいはい、紅茶にします。うーん、それなら結構な荷物になりそうだな。」
大人数なので食材も大量に必要になる。たぶん、年少組も現れるだろうから、荷物持ちも必要だ。悟空と刹那だけだと、ちと心許ない。そんな話をしていたら、レイがやってきた。プラントのお菓子です、と、アリバイ工作に取り寄せたお菓子を持参した。
「ちょうどよかった。レイ、荷物持ち頼めるか? 」
「はい、喜んで。たぶん、キラさんたちも来ると思います。」
フェルトと刹那のダブル子猫は珍しいから、キラは構い倒す気満々であるらしい。それは予定内のことだから、大丈夫だと返事する。
「レイ、その『たち』の部分にラクスも入ってるのか? 」
「いらっしゃると思います。オーナーは七日まで休暇ですから。」
「泊まるつもりかな? 」
「おそらくは。」
「えーっと、客間にキラたち押し込んで、ラクスとフェルトが脇部屋。レイ、おまえさん、俺と刹那と一緒でもいいか? 」
「はい、お邪魔します。」
寝るところの段取りをして、とりあえず布団の準備もしなればならないな、と、買い物メモを作成しつつ寺の女房は考える。で、結論に達したので、亭主に声をかける。
「昼はファミレスにしませんか? 今から、買い物してお好み焼き焼いてたら忙しいんです。」
「おまえらだけで行け。」
と、亭主は面倒だとおっしゃったのだが、そこに桃色子猫が不満の声をあげる。てけてけと亭主に近寄ると、その側に膝をついた。
「三蔵さんも一緒がいい。」
「ああ? 」
「せっかくなら、みんなと一緒にファミレスがいい。」
みゃーみゃーと桃色子猫が文句を吐くと、亭主は、「わかった。」 とだけ返事した。どうも桃色子猫のおねだりには亭主も負けるらしい。
「あんた、本当にフェルトには甘いですねぇ。」
「うるせぇーぞ、ママ。死にたいのか? 」
「いや、感謝してんですよ。」
「けっっ。」
悟空にしてみれば、いつもの日常会話だ。いちいちツッコミする気にもならない。とりあえず、寺の家族でファミレスまで遠征して買い物して戻って来るということになった。途中で、キラたちも合流して騒々しい買い物になったが、珍しく坊主も付き合っていた。というのも、桃色子猫が着物の袖を掴んで逃亡を阻止するべく一緒に歩いていたからだ。
「ずるいですわ。私だけ除け者にして。」
寺へ大人数で戻ったら、護衛陣とラクスが待っていた。ちょいと出かけるだけだから、戸締りしていなかったので寺の居間で優雅にティータイムをしている歌姫様が居た。ちょっと拗ねている。暗黒妖怪の出現に寺の坊主は、けっと舌打ちして、外へ逃亡した。
「ごめんごめん、ラクス。今からお菓子作りをするから手伝ってくれ。」
「ラクス、おまえの来る時間知らなかったんだから、しゃーねーだろ? ママにあたんな。」
悟空が、そう言うと歌姫様は、ちょっと膨れっ面のまんま、キラに抱きつく。素の歌姫様だと、こういうことになる。
「ラクスは、夕方だと思ってたんだ。ごめんね? その代わり、今日はずっと一緒に居ようね? 」
そしてキラのほうは、王子様然とした態度で、その歌姫様を宥める。これが素だから、キラは怖ろしい。アスランは、こういうのは気にしない。優しい気性のキラだから、女の子が拗ねているなんていうのは心が痛むのだと知っているからだ。トントンと軽く背中を叩いて、「今日は何をする? 僕、なんでもいいよ? 」 なんて、さらにおっしゃっているのもスルーだ。
「キラと一緒に眠りたいですわ。」
「そんなの全然オッケーだ。」
「あと、明日は絶対に除け者にしないでくださいませ。」
「うん、大丈夫。明日は、どこか出かけようか? みんながいい? 僕とだけ? 」
「みんながいいです。」
歌姫様の要望を聞くと、キラはアスランに目配せする。どこか、みんなで出かけられるところを探して、という視線だ。そして、アスランも、「了解。」 と、視線を下げて答える。
となりに立っているニールに、予定の確認をする。他のものの予定は、だいたい把握しているから、問題なのは子猫たちだけだ。
「ニール、明日、フェルトと刹那を連れ出してもいいですか? 」
「午前中にトダカさんとこへ挨拶に行こうと思ってるんだ。午後からなら、どこへなりと連れ出してやってくれ。」
「わかりました。・・・クスリ飲まれましたか? 」
涼やかな笑顔でアスランが尋ねると、ニールのほうはマズイという顔をした。
「げっっ、おまえさんまで。」
「ということは飲んでないんですよね。悟空、薬は? 」
外食の後にクスリを飲んだ形跡は無い。だから、年少組は戻ったら飲ませるつもりをしていた。クスリの担当をしている悟空に声をかけて用意してもらう。
「ああ、持ってくる。」
「いや、待ってくれ。今からクッキーを焼くんだ。だから、クスリは、その後でさ。」
午後のクスリは飲むと眠くなる。だから、わざと飲んでいなかったのだが、その言い訳がマズイのはニールも重々承知だ。フェルトと刹那が、両側から逃亡しないように腕を掴まえた。それを眺めつつ、大明神様も優雅に微笑んで口を開く。
「ねぇ、ラクス。午後からクッキーとケーキを焼くんだけど、きみならママの代わりにフェルトに教えてあげられるよね? 」
「ええ、もちろんですわ、キラ。」
「じゃあ、お願いしてもいい? 僕、マフィンが食べたいんだ。」
「ほほほほ・・・承りました。刹那、ママのお昼寝の監視をしてくださいな。ママ、どんなケーキがご所望ですか? 」
年少組プラス子猫の混合部隊なんてものは、親猫には太刀打ちが出来ない。どうあっても昼寝しないとならないらしい。
「クッキーはココアとプレーン。ケーキはシフォンケーキでバナナとアールグレイを三本ずつだ。あとは任せるよ。フェルトに教えてやってくれ。」
材料は多めに買い出してきた。キラの食べたいマフィンぐらい増えても足りないことはない。
「承知しました。では、休んでくださいね。」
作品名:こらぼでほすと 拉致8 作家名:篠義