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水底にて君を想う 細波【3】

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「くだらない、くだらないだと!」
 エリックの声が上擦る。
 銃を持つ手が震えてる。
 皆本は唾を飲み込む。
 賢木は舌打ちを一つすると、装置のスイッチに手をかける。
「分かったよ。てめえの言う通りにしてやる。だから、皆本を離しやがれ」
「ダメだ、賢木さん!」
 身を捩る皆本。
 何とか逃れられないか。
「皆本」
 呼ばれて、賢木の方を向けば、真剣な瞳とぶつかる。
「大人しくしてろ、すぐに済ませてやる」
 この場にそぐわない笑みつきだ。
 エリックの手がさらに震える。
「気に入らない!気に入らないんだよ!!この化物がぁあ!!!」
 狂ったように叫んで、エリックは銃口を賢木に向けた。
「やめっ……!」
 血の気が引く、というのはこういう事をいうのかと、皆本は思った。
 が、次の瞬間。
「ぎゃっ!」
 短い悲鳴を上げたのはエリックだった。
 銃が音を立てて、落ちる。
 見れば、エリックの手に深々と手術用のメスが刺さっている。
「ホントは喧嘩にゃ使いたくないんだけどよ」
 言いながら、賢木はもう一本、駄目押しとばかりに投げる。
 落ちた銃を拾おうと伸ばされた男の手にそれが命中する。
「てめえらは、許さねえ!」
 間髪入れずに、走りこんだ賢木は、まずエリックの顔面を殴り飛ばす。
 ついで、殴りかかろうとしてきた男の腹に蹴りを容赦なく決める。
 他の男達も我に返ったように、賢木に襲い掛かる。
「退がってろ、皆本!」
 ようやくエリックから解放された皆本は、慌てて壁際まで逃れる。
(す、すごい……でも……)
 皆本は賢木の喧嘩を実際に見るのは初めてだった。
 終わった後の現場は、見たことがあったのだが。
 能力を使えば、相手の先が読める。
 確かにそうなのだが、それを差っ引いても賢木は強い。
 コメリカ人と日本人では体格差があるのに、次々と沈めていく。
 ものの数分で、エリックを含め六人が床に転がる。
(やりすぎだ……)
 皆本は今度は恐怖に身震いする。
 賢木は、すでに倒れて戦意喪失しているだろう男のみぞおちを蹴り上げる。
 くぐもった悲鳴が上がる。
 顔面を流血で染めたエリックの胸倉を捕まえて、引き摺り立たせる。
 その顔が恐怖で引きつっている。
 無言のまま、賢木の拳が襲う。
「もういい!賢木さん!!」
 思わず叫ぶ皆本。
 だが、その声を無視するように賢木は殴り続ける。
 鈍い音。
 鼻の骨が折れたのかもしれない。
 皆本は賢木に駆け寄る。
 その腕を捕まえたいのに、後ろに縛られたままではそれも儘ならない。
「賢木さん!」
 もう一度その名を呼ぶ。
「退がってろ」
 低く唸る、賢木。
 やり過ぎなのは分かっている。
 だが、殴るたびに彼らから流れ込んでくる悪意が拍車をかける。
 リミッターを切っているせいもあるのだろう。
 頭の奥がひどく痛んでいる。
「賢木!」
 ドン、と皆本の体がぶつかってくる。
「賢木、やめろ。もういいんだ」
 その肩が震えている。
(もう、いいんだ。君がこれ以上傷つくことない)
 皆本の思いが賢木に伝わる。
 すっと、力が抜けた。
 エリックを離す。
 その体がドサリと落ちる。
「離れろよ」
 乱暴に皆本の肩を賢木は押しのける。
「賢木」
 皆本はよろけながら、顔を見る。
 賢木はそれを無視して、まずエリック。そして他の男達も透視んでいく。
 全員気絶しているが、命に別状はないようだ。
 骨にヒビや折れているのはいるが、銃を持ち出した連中に情けをかける気も無い。
「出ようぜ」
「……彼らは」
「ほっとけよ。何もこんな時まで善人ぶる必要はないだろ」
「そんなつもりはないよ。でも、放ってもおけない」
 皆本の言葉に賢木は溜息をつく。
「数分後には目が覚める奴がいるさ。銃を持ち出したのはこいつらだ。下手に騒がれてこまるのはこっちじゃないぜ」
「……大丈夫なのか?」
 困惑した表情で、倒れてる男達をみる皆本。
「全治二ヶ月がせいぜいだ」
「分かった」
 納得すると、皆本も賢木に続いて物置から出る。
 新鮮な空気を吸えて、ホッとする。
 外はすっかり夜だが、向こうに見える研究棟にはまだ明かりが灯っている。
「縄、解いてやるよ」
「あ、うん」
 ようやく、両手が自由になる。
 その手首は赤くこすれて、ところどころ内出血もしている。
 賢木の手が触れようとして、止まる。
 堅く握られ、下ろされる。
「手当て、しないとな」
 搾り出すように、そう言うと賢木は、歩き出す。
 皆本もその後を追う。
 構内を出て、大学近くの賢木の家につくまで二人とも押し黙っていた。


「悪かった」
 賢木は頭を下げた。
「賢木さんのせいじゃないですよ」
 そう言って笑う皆本に、賢木は目を伏せる。
 皆本とエリックが一緒にいたと友人に聞かされ、賢木は慌てた。
 ジョディとの約束も構わず、構内を走り回った。
 サイコメトラーの能力で場所が分かったが、もう少し遅かったらとゾッとする。
 皆本の手当てをしながら、手が震えていた。
 落ち込んでいるらしい賢木になんと言っていいのか分からず、言葉を探す皆本。
 沈黙。
 ふと、賢木の手に目がいって皆本が声を上げる。
「手、怪我してるじゃないですか」
「ん、ああ」
「ああ、じゃないですよ。ああ、じゃ」
 皆本は救急箱を引き寄せる。
「いいって、自分でやるから」
「よくないです」
 賢木に皆本の手が伸ばされる。
「触んな」
 皆本の手を賢木が弾く。
 驚いて弾かれた手をそのままに、皆本は賢木を見る。
「……悪りい」
 苦笑して、賢木がまた謝る。
「ちょっと、やばくてよ。下手に透視んじゃまずいだろ」
 神経が鋭敏になってるんだ、と付け加える。
「でも、さっきは」
 手当てをする時、確かに透視んでからやったはず。
「診察しないと、あぶないだろ。殴られてんだから…」
 そう言って安心させるように笑ってみせる賢木。
 皆本はキュッと口を結ぶと、手を差し出す。
「いいです」
「は?」
 賢木が目を丸くする。
「いいですよ、透視んで」
「お、おい」
「大丈夫ですから」
 驚いている賢木の手を皆本がとる。
(ありがとうございます。助けてくれて)
 はっきりと伝わってくる声。
 賢木は息を吐き出す。
 ささくれていた神経が落着きを取り戻す。
 自然に力が抜けていく。
「手当てしますね」
 巻かれていく包帯。
「……双方向性なら良かったのに」
「何が?」
「サイコメトラーの能力」
「なんだよそれ」
 静かな声で交わされる言葉。
「そうしたら、賢木さんが」
「俺が?」
「傷付いているのが相手にも分かるでしょ」
「……なーに言ってんだ」
 触れ合っている手から伝わってくる心は、ただただ優しく、賢木の胸を熱くする。
(ほんと、かなわねえなあ)
 黙っていると泣き出しそうで、賢木は言葉を繋げる。
「それよりさ」
「はい?」
「『さん』付けやめよーぜ。呼び捨てにしてたくせに、また戻りやがって」
「いや、あれは緊急事態だったからで」
「いいだろ別に。堅苦しいのは苦手なんだよ」
 皆本の困ったような顔を見て、賢木は笑った。


 どこかで声がする。
「……か……き」